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「ほどよい距離」・・・ハードなアプローチと繊細なアプローチまとめ

これは、最近放映されている花王のメリットのCM動画です。
*当記事での動画の使用については、花王株式会社様から許可をいただいています。

https://www.advertimes.com/20240705/article466608/

この動画の中に、セラピーの重要な要素がたくさん詰まっています。
大泣きして帰ってきた娘を慰めようとする父親ですが、「ほっといて」と言われてしまったらしく、戸惑いながら退場していきます。きっと、そこでふと思いついたのでしょう、猫を娘の近くに連れていきます。猫は泣いている娘に近づき、娘は猫を抱いてだんだん泣き止みます。

このCMのキャッチコピー「ほっといてね ほっとかないでね」は、まさにセラピストに求められる姿勢です。セラピスト必要以上に介入しないし、でもほったらかすわけでもありません。ちゃんと、見守っているのです。このお父さん素晴らしいセラピストです。

猫も大事な役目を果たしています。娘は近づいてきた猫を抱きしめて、癒やされるのです。

猫は少しづつ娘に近づいていって一緒にそこにいるのです。それは、まるで共感が生じるプロセスを表現しているかのようです。「リフレーミング・・繊細なアプローチ その2」でお伝えした、セラピストのルサ・チューによるリフレーミングが猫に当たると考えて貰えばいいかもしれません。

セラピストがやるべきことは、過剰に介入せず(娘から離れる父親、でも見守っている)、適切なタイミングで必要な介入をする(猫を連れてくる)、そしてクライアントの自己治癒力を信じる(娘が自分で泣き止むであろうと信じる)につきます。

ほとんどのセラピーセッションでは、このお父さんと猫のような繊細なアプローチが基本です。

CMの女の子は、なんか辛いことがあったのでしょう。でも、泣くのを我慢していたはずです。だから、玄関を入ったとたん、抑えていた感情が堰を切って溢れ出してしまったのです。セラピー内で感情が溢れ出したら、その時点でセラピーのプロセスは始まっています。プロセスが始まったら、クライアントは自分で自分を癒していくことができるのです。セラピストは、ほんの少しプロセスを進める手伝いをすればいいのです。

じゃあ、クライアントを追い込むようなハードなアプローチは、全く意味がないのかというと、そうではありません。

CMの中の女の子は、実際活の中で、何かハードな場面にぶつかっているのです。だから、そんな時にさらにハードなアプローチをすることには全く意味がありません。最悪なのは、例えば「お前にも何か良くないところがあったんだろう?」などと問い詰めてしまうことですね。娘は、親の言葉に耳を貸さなくなるでしょう。こう言う時には、前述したように繊細なアプローチが必要なのです。

しかし、実生活の中でそこまで追い込まれることがなく、器用に乗り越えることができた場合、その人の根本的なテーマは解決しないままになってしまうのです。

僕の場合、自分の人間関係に関する問題について、なんとか誤魔化して生きてきたのですが、このままではまずいと思ったことから、ハードなグループワークに参加しました。また、アメリカに留学したのも、いつものごまかしの効かない海外で自分を追い込もうと思ったからです。

頭だけで自分を変容させることは難しい。自分を変えなきゃ、でも変え方がわからないと言うような状況であれば、自分自身をあえてハードな状況におくということも有効だと思います。このような場合、共感だけでは前に進めないのです。自分自身への直面化が必要になります。

でも、その際、大事なのは、自分の意志で行うこと、決して強制されて行うものではないこと、辛くなったら一旦ワークをやめることができることです。

ある種のカルトや企業の過激な研修などで、十分に説明もせず、意志確認もせず、ワークに参加させてしまうと、心の準備ができていないまま、自分自身に直面し、その結果、不安障害や鬱になってしまう場合があります。

これまで12回にわたり、カウンセリングにおけるハードなアプローチと繊細なアプローチについて僕の考えを書いてきました。まとめると:

・直面化を主体としたハードばワークに、クライアントを無理やり参加させることは有害である。ハードなワークへの参加は、クライアント個人のしっかりとした意志が必要。
・自分自身を大きく変容させたいと思っている時、共感主体のセラピーでは何も起こらないことが多い。
・ハードなアプローチも、繊細なアプローチも、必要な場面はあり、どちらがいい悪いと言うものではない。
・どのようなアプローチをしようとも、クライアントを尊重したほどよい精神的距離感が必要である。


次回からは、無理やりハードなワークに参加すると、どのような影響があり得るのかについて書いていこうと思います。


*画像は、花王メリットCM「「家族と愛とメリット」第2弾 落ち込む娘と励ます父の距離感描く」より

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