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「JR上野駅公園口」 柳美里 著 河出文庫

悲しい小説です。


主人公は、昭和8年生まれ。僕の母と同じです。彼の生まれは、福島県相馬郡の矢沢村です。終戦の時は12歳でした。戦後、彼は稼がなければなりませんでした。


「当時の浜通りには、東京電力の原子力発電所や東北電力の火力発電所なんてものはなかったし、日立電子やデルモンテの工場もなかった(p.19)」ので、国民学校を出てから、すぐに小名浜漁港に出稼ぎに行って住み込みで働かなければなりませんでした。


その後、東京に出てきて肉体労働でお金を稼ぐしかありませんでした。最初の東京オリンピックでも働きました。


彼は、「ただの一度だって他人様に後ろ指を差されるようなことはしていない(p.129)」にも関わらず、「ただ、慣れることができなかっただけだ。どんな仕事にだって慣れることができたが、人生にだけは慣れることができなかった。人生の苦しみにも、悲しみにも……喜びにも……(p.129)」という人生を歩むことになります。


2度目の東京オリンピックは、彼を無視し、排除しようとしました。原子力発電所は、東日本大地震に伴う津波により史上最悪の原発事故を起こし消滅します。


読んでいて、あまりに悲しい。


「思い続ければ、夢は必ず叶う!」「諦めるな!道は必ず開ける!」という言葉を、度々聞くことがあります。僕は、歳を重ねるごとに、そういう言葉が嫌いになっていきました。どうしても上手くいかなかった人たちに対して優しい社会になればいいのにと思いました。



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