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 入浴シーンから始まる。
 水は青い浴槽に満ち満ちた。
 カレは水晶みたいな窓ガラスを、から透いて過ぎる車のヘッドランプを眺めて天井に浸かっていた。水紋。たゆたう。飼い猫が主人に身体を擦り寄せるみたいに湯に浸かった。じき夜明けだ。飼い猫が主人の眠る毛布に身を寄せるように浴槽に身を沈めた。そのまま宇宙の底まで潜っていくようにして身を沈めた。午前四時。カレはキミが来るまで、カレはもう眠ろうとカレは思う。キミが来るまで。夜明けからなるべく遠く離れて。キミが目覚めるまで。キミが来る夜の向う岸までもうすぐ少し眠るから。朝はおやすみ。毛づくろいするみたいな水音が聞こえて浴室が明るくなった。初雪の降った朝みたいにガラスの向うは白い。カレは水底のように青白く冷え込んだ部屋の中でキミを待つ。夜明けから遠く離れるのを待つ。

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