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 川は雨水を蓄えて増水した泥水は河原へあふれて湿原となった元々は草叢だった水辺に真っ白い鷺が一羽、佇んで川上の方を眺めている、どこまで明るいのか、そのわからない果てしない処とその仕上がったばかりの彫像のように真っ白な一羽との空隙に何もかもがあったので川の一筋一筋には決して無数の分けることの不可能な直線のうねりと、泥状の反響と、まるで無縁みたく車輪を回転させて行っては戻らない往復をくり返す土手の上に造られた県道の上に累積される自動車の線分と、幾つもの足音、嬌声じみた黒い大雨の来る前は河原の灌木の茂みの中に営巣していた烏の一群のビー玉みたいな青い漆黒の瞳を覆してガードレールの上に並んだ群れは彼らの載せられた銀色のハイエースが通過するのを合図にしたのかどうかわからない合図で一斉に濁流の方向へと滑り降りていくのを見るともなしに見ていた彼のまなざしは車窓と車輪の回転と駆動するピストンと、遠ざかるアスファルトとに遮られて彼はイヤホンで音楽を聞こえさせる反復される振動はエンジンの鳴動とも共鳴しているのに気づかないくらい漠然と彼らは聴いていたのは濁流のうねる夥しい直線の不可分さでかつて草叢だった水辺で鷺が眺めていた。

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