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 笑いは口のすきまから闇が覗く、けたたましく哄笑された口口に小さい闇が覗く。音楽が鳴り止まない狂ったレコードが延延と同じフレーズをくり返すように続く。拍手がわき起こる方々の手の平と手の平のすきまから闇が覗く。指と指のすきまから闇が覗く、開かれた歯と歯のすきまから零れた闇が降り積む。黒黒とした闇で足元は温かいがうすら寒い。パチパチと拍手のような火花の音がする。
「火を熾しなさい」誰に言ったのか指された指を呑み込むようにして笑いが巻き起こった。
「火を消して」風が吹き抜けるような声がロウソクの火を消すみたいに声はどこにもなくなった。彼たちは手拍子をしながらハミングしていたが一層悲愴な音色だったとしてもみょうに明るく聞こえるのだと言う。
 ときにはすでに闇となって久しいそうだ。時間は無いので『久しい』と名指したのは、「ここまでの文章を遡って下されれば良いことです」と彼たちが手数をかけて申し付けたということだ。

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