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 ビクニが臓腑を濯いだ後の池はしばらく血生臭かった。当然だろう。腐敗した細胞は泥となって沈殿し、池の底の淀みからはガスが立ち上った。滓を栄養にして小さな生き物が繁殖し、百年をかけて池は一面に青緑の藻で埋まった。無数の藻はさながら大都市のように密集し、層を成していた。一つ一つがさらに群体でもあるこれらの藻は、集合住宅のようにそれぞれの核にさらに微小な生命体を住まわせていた。ヒトにとって何億年にも相当する、気の遠くなるような世代交代を経てこの途方もないメガロポリスは形成されている。と言った。さらに百年の時間を経て時雨は池へと流れ注ぎ、透明な水紋を次々と描いては次々とと同心円を成す波紋は大小重複し複雑なリズムで音を立てた反響は水面から朝靄のように立ち上り周囲へ広がるのと同じよりももう少し速い速さで、水中にも拡散したビクニの琴線に触れた。私は知らない。と言った。

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