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 〈わたしたち〉はもうずいぶん長い間・・・・・・と女は続けた。麻で織られた灰色の埃臭いローブから覗く腕は骸骨のように細く手は朽木のように深く皺寄っていた。それでいて表情は赤児のように無垢で、頬は熟れた林檎のように赤く瑞々しいのだった。
 途方もない旅です。〈わたしたち〉の背の向うに、途方もない量の時間が、洪水の後の瓦礫のようにうず高く投棄された、誰も顧みる事のない塵芥に煤けた灰色の時間を。と女は続けた。私は彼女たちの瞳にいくつもの星が明滅している。女は光そのものかと見まごうような涙を絶えず流して来た、幾万幾億の時間を隔てた処からの星の呼吸を、双眸を通して聴いた時からだと言った。
 〈わたしたち〉は、と女は続けた。〈わたしたち〉の業を、この身に浸み、もはや彼女たちの身体そのものとなった業の、尽くされることのない飢えと渇きを癒すことを求める声そのものであった、と私は聞いた。
 〈わたしたち〉がこんなにも苦痛に身を竦ませ、孤独と、悲嘆の雨に体を千々に散らすこと。こんなにもみじめなのが、こんなにも母親のように死を求めていることが、全て〈わたしたち〉が〈わたしたち〉であることによる、〈わたしたち〉が他ならぬ、と彼女たちは続けた、〈わたしたち〉であるせいなのだとしたら、〈わたしたち〉は一体どうすれば良いんだろう。私は聞こえた。私は見なかった。女が涙を流していた。手足は干上がった泉のように罅われ、深く皺よっていて、褐色だった。時雨がいつから降り始めたのかわからない、夕刻の長さを果てしなく引き延ばすかのように時雨が降っている。私は、女は誰もいない。いつか女が訪れるかもしれない、私の居ないその時の夕べに、女はいた。涙を流していた。

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