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 やるせない体、ママの産んだ体にあぐらをかいて座ってるちっぽけなうす汚いの良犬でカッターで指を切ればセロハンテープを巻かれ指しゃぶり癖が抜けないからとまた指にセロハンテープを巻いてヨダレでベトついたあたしの親指を手首をチギれるくらいに掴んで水道蛇口まで引っ張っていってジャアジャアビシャビシャに噴き出させた銀色のじゃ口を勢い良くひねって殺したパパは、ママだったかな? もういいやあたしだって俺だって僕ちゃんだってどれだって関係ないだってもうじき死ぬんだもん宇宙空間游泳みたく浴槽に浮かべた体は死体安置所のホルマリンのプールでなければアストロノーツか遠未来のコールドスリープか知らないけど、とにかく地球時間一週間洗ってない水槽にはアカが浮いて金魚は死んで一ヶ月洗わなかった水槽は骨まで溶けて真緑の君、アンタの内臓の中みみたくドロドロに濁った水槽の中みたくな頭の中じゃママだけがけっきょく生きがいで、ママと一緒に寝ないの? って言いたい、けどママは全然別の話を別の方を向いて、パパを殺して、俺ひとり、小っちゃい自分の中で小っちゃい自分一人の自分がアカまみれの宇宙船に浸って浮かんでる。アンタ、どこ見てんのって言ったら無視されるけど俺の方見てアンタの事だよって言うの、意味わかんないけど止めてくれる?
 パジャマのまま外に出る。繋いであった鎖を外して無理やり引っ張られていく。真ッ暗な懐中電灯も持たないし街灯もない山ん中の真ッ黒い道を上へ上へと走る。深い短い息だけ聞こえてやってらんねーよって喉の奥から聴こえる。やってらんねーよ。星は見えたかどうかわかんないけど、たぶん出てた。それも満点の星空が。切れ切れの銀色の雲と。あと知らねーけど月も出た。満月じゃないけどどっちが上かわかんないけど上弦の月がぴかぴかと光ってムラがかかってるんだ霞んだ。ああ私が泣いてんだよ。あんまり寒いもんで鼻水も涙も何も。何も見えないよ。短い深い息。短い深い息。引っ張られる。引っ張られて走らされる。でも走ってるのはアタシの意思だ、アタシだ。どんどん奥へいく。家から遠ざかる。でもいつか家には戻らないといけない事を宇宙飛行士は知っているかのように歯をくい縛って叫んだ。顔が冷たい。鎖が手を引き千切る。何も全然見える。そのまま駆け去っていく。全身痺れるような痛い。畜生ママ。畜生パパ。お誕生日おめでとう。舌を噛み切りたいよ。

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