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 例えばカレが画面に、一本の線を引くと水平線の無限遠の彼方から漣が寄せて来たのをすばやくつかみ、彼はわたしたち一切れ一切れ(それが有限個数え上げられ得るとしての話だが)を差異化していく過程で、カレ自身もまた同じく差異化され、分化されていくと言えるだろうか、わたしたちと同じに。
 左手の人差し指を深々とカッターナイフで抉ってしまった血は机上のタブレットにぼた、ぼたと大きな滴った滴は彼を右手で拭い取った跡が雨上がりのタイヤ跡とか空を裂いて幾本もの電線みたく横切った彼の右手は泥水に嵩の増した河むこうの駅舎の上に虹がかかっていたのを見て、濡れて漣に打ち上げられたように滴る彼の右手をティッシュペーパーを勢いにまかせるように彼の右手で何枚も抜き取ってしゃぶっていた左手の人差し指に覆った。海は遠くの方は青く彩度が下がってぼんやりとしたグレーの青に霞んでおり、手前の方はむしろ黄土色とか金色に近い色をしていた。なんか天使の来光とか何だったか洒落れた名前が付けられていた気がした彼は遠くの雲の切れ間から海上へ斜に大きな乳白色の光が差し込む様子だった海上で彼は舟に載っていて、わたしたちがわたしたちが生まれてわたしたちで無いわたしたちだった何かとなるまでの複数の時間、無数の時間で、彼は遠ざけていった。

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