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ドアダッシュとエアビー

先週は米国市場で、大型IPOが2社(ドアダッシュとエアビー)あり、両社共に堅調なスタートとなりました。

 ドアダッシュは上場前の投資家需要が良好で、想定発行価格を引き上げて約3.6兆円の時価総額、調達金額3,000億円以上で上場を果たし、上場初日には約75%程度株価も上昇しました。

 ドアダッシュは米国デリバリーサービスでシェアトップの大手ですが、わずか3年前には競合のクラブハブやウーバーに押され、苦戦をしていました。

 2017年の米国デリバリーサービスのシェアは①クラブハブ50%②ウーバー17%③ドアダッシュ14%④ポストメイツ11%だったのですが、直近では①ドアダッシュ51%②ウーバー23%③クラブハブ18%④ポストメイツ7%となっており、ドアダッシュの躍進ぶりは目を見張るものがあります。

 これには各社の戦略の違いがあると言われています。

 ウーバーやクラブハブは都市部を中心に展開、レストランの選定も「早さ」を基準に行ない、近距離・時短を優先する戦略を当初から取っていました。

 一方ドアダッシュは郊外を中心に展開、レストランの選定は顧客の選択肢の多さを重視し登録店を増やすことと「美味しさや珍しさ」も重視した戦略を取っていました。

 これらの戦略の違いにより、2018年初頭まではドアダッシュは苦戦をしていたのですが、2018年の春の資金調達時に「収益力の高さ」を評価をした複数の投資家から約600億円を調達(内SBG300億円)を実現させ、躍進が始まります。

 創業以来300億円しか調達できなかった同社に600億円を投資するのは無謀であると言う投資家も多かったと言われています。

 デリバリーサービスで「収益力」が高かった理由は、郊外の顧客は1回の注文量が都市部に比べて多い(金額も多い)ことにより、相対的に配送コストを低減できているからだと言われています。実際に四半期ベースでは直近で黒字化を達成しています。

 

 2018年に想定時価総額1,500億円程度、2020年初頭に約1.6兆円、上場時約3.6兆円、11日現在約5.8兆円と夢のような展開です。

 

 SBGは総額約700億円を同社に投資し、持株比率も約24%あります。同社の上場により含み益は約1兆円規模になり、それを反映して10日の同社の株式は大きく上昇しました。

 ちなみに、SBGは前日の9日はMBO観測が報じられ(極めて特殊な手法によるMBOを計画しているという観測記事)、大幅上昇した翌日にさらに含み益で上昇したため、週間で最大約27%、終値で約13%上昇しました。

1年前、ウィーカンパニーの件を発端に厳しい局面だった時は時価総額9兆円程度でしたが、いつの間にか16兆円を超えています。

1年間での事業構造転換は、やはり創業経営者の強みが発揮されていると感じさせられます。

 エアビーも投資家人気が高く想定発行価格を10%以上引き上げて、約4.3兆円の時価総額で上場、10日、11日の取引時間中に一時10兆円を付けています。

 エアビーはコロナの影響で、第2四半期(4月から6月)には72%の前年同期比減収となりましたが、第3四半期では同じく18%の減収に留め、大幅経費削減効果(関連事業の売却や撤退による事業の集中含む)により約230億円の利益を出しています。(第3四半期は2018年以降黒字化が続いている。ただし通期で黒字化したことは創業以来ない)。

 同社は2008年の創業以来の累計赤字額約2,200億円になります。しかし、これはウーバーが上場前の年に単年度で計上した約8,000億円の赤字に比べれば、少ないという見方もされています。エアビーの創業はウーバーの創業の7か月前です。

 エアビーは、コロナ前には想定時価総額3.2兆円程度でしたが、コロナ禍の中で、急遽資金調達した際の評価は約1.9兆円まで低下していました。それが、結果的には4兆円を超えての上場となっています。

 投資家は、「他が簡単に真似できないビジネスモデル」であることへの評価に加えて、「経営陣の経営判断の迅速さと変化対応の強さ」への高い評価、そしてコロナ終息に伴う「急回復」に期待しているという見方もあります。

 ドアダッシュはコロナで業績アップ、エアビーはコロナで打撃を受けたが、対応の早さと回復期待で、ともに堅調なスタートとなったわけですが、米国投資家の「懐の深さ」をあらためて感じます。

 日本市場では12月に26社がIPOをする予定になっていますが、1社あたりはどれも小粒で、調達金額も10億円未満の企業がほとんどです。

 米国が年間調達額16兆円を超えて過去最高になる見通しですが、1社あたりの平均調達額は約400億円であり、この差は今後の株式市場の成長、すなわち経済成長の「差」になってあらわれてくることは間違いないと思います。

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