精神保健福祉士の病院実習で何を学ぶ?
病院実習だから学べること
病院という環境で経験できること、学べること、いろいろありますが、ここでは特に、病院だからこそという内容に絞って書いてみようと思います。
病状が悪い時を知る
◾️病状が悪い時は、本人も家族も辛い時です。何が辛く、困っているのか、どうしたいのか、聞けば分かるものではなく、本音を言える関係構築をどのように作れるか、一人一人に寄り添い知ることを学ぶことも大切です。
◾️医療にどのように繋がるのか、入院を必要とする時にどんな支援が必要なのか、精神保健福祉法に基づく手続きの実際をしっかり理解することは、ただ必要な手続きということではなく、「人権について考える」意味でも大切です。
◾️今後の生活にどんな影響があるのか、治療経過に関わりながら、退院支援を考えていくことになります。
人権への現状を知る
◾️人権侵害の歴史を学んでいると思います。それらがどのように改善されているのか?それは十分と思えるか?
◾️地域で暮らすとき、病状の波に苦しむとき、入院の経験がどのような影響を与えているか知ることは、とても大切なことだと思います。
◾️精神保健福祉法に定められた様々な手続き書類が多くあるのが、精神科病院の特徴です。その書類は法改正とともに増え、内容が見直されてきました。それがどんな意味を持っているのか、実際にコミュニケーションをとる患者さんを、一人の個人として捉え考えてみてほしいと思います。
◾️病状に応じた環境や処遇を本人の意思に関わらずに判断できてしまうこと、その仕組みが、改善されてきたとはいえ、当事者の立場で考えてみることはとても重要なことです。
チーム医療を知る
◾️多職種がそれぞれの専門性で働きかけ、共有して、協力して治療に取り組む実際の仕組みを知る機会です。カンファレンスや退院支援委員会、協働して行っていることなど、それぞれの役割やMHSWの役割を学ぶことも大切です。
◾️薬物療法を軸に行われている治療について学べる機会です。服薬について、医師の考えと本人の考えや気持ちのズレにいろんな職種が関わっていたり、治療プログラムの種類、内容、効果にどんな職種が関わっているかなど、実際を知ることでそれぞれの専門性を理解するキッカケになります。
◾️多職種の専門性を考えることで、MHSWの専門性や役割を再考する機会になります。
退院支援を知る
◾️治療を受けながらの入院生活の経過を知り、退院して自宅、地域、社会に戻り生活を送るために、何を考え、どんな支援を検討し、誰がどんな行動をするか、学べる機会です。
◾️医師や本人、家族、地域など、望ましいと思うことがそれぞれ違うとき、MHSWとして何を大切に支援を進めていくのか、葛藤する経験も大切だと思います。
◾️院内のチーム連携、協働と、院外の関係機関との連携や協働の実際を学ぶ機会にもなります。地域にどんな社会資源があり、どんな役割を担っているのか、具体的にどのように連携し支援を進めていくのか学べる機会になると、地域での実習にも活かされると思います。
病院実習だから学べることは、大変そうに感じるかもしれませんが、日本では当事者が大変な時期をどのように過ごすかを知る経験としてとても意味があると思います。
業務内容を学ぶだけではない
病院実習に限らないことです。
現任MHSWさんと行動を共にして業務を学ぶことは、少ないかもしれない。実習生だけで、しばらく病棟で患者さんとコミュニケーションをとったり、作業療法などの治療プログラムに参加したり、実習生自身が能動的に行動することが求められる時間が多いと思っておく方がいいかもしれません。
教えられて理解するより、行動して感じて考察する経験から学ぶことを大切にしていると思います。「統合失調症の特徴はこう」「うつ病はこう」「患者さんはどんな感じか」見学して学ぶのではなく、「〇〇さんをどう捉えるか」「自分との関係でどんな反応をしていたか」自分が関わった関係性から「〇〇さんのこと」「実習生である自分自身」の理解を深めることが大切です。
カルテなどの記録、現場スタッフからの説明、現場を見て知ること、なども理解を深める一つですが、大切なのは、自分自身で能動的に「観察」「行動」「考察」「質問」「経験」することが実習です。
見聞きしたことを、「現場はこうなんだ」と知ったつもりになってはいけません。それは、大きな間違いです。現場は常に課題が存在し、変化します。「何故、こうなんだろう」「もっとこうできないのだろうか」など、疑問を抱くことも大切だと思います。現場も課題に悩み、検討し、努力していることはたくさんあり、その延長上に今があります。そして、今に満足している現場はないと思います。
頭の中で理解できたつもりになったり、自分のことは自分でわかるなんて思うことも、大きな間違いです。経験して感じたこと、思ったこと、考えたことを、「言語化」してください。自分の良さを知ることと同時に、理解できていないこと、自分のことがわかっていないことに、気づきます。そして、「自分の課題」を見つけることができます。この、「自分の課題」を実習中に見つけることは大きな意味があると思います。
実習プログラムに積極的に取り組むこと
実習先により、経験できることやプログラム内容は、共通することもあれば違うことも沢山あるはずです。それは、病院の機能や特徴の違いもあれば、入院患者さんも入退院し常に変化しているからです。色々と経験したいこと、目標に掲げたこと全てを経験できるかは分かりません。実習目標を実習先を事前に共有しても、時の運によるかもしれません。それでも残念に思わず、準備された実習プログラムに積極的に能動的に取り組むことで学べることは多く、実習目標との関連性は必ずあります。
<蛇足>
精神科病院の今後がどうなるのか・・
50代の僕が若い頃、精神科ベッドを減らす10ヶ年計画がありました。日本の精神科ベッドは多すぎて、長期入院患者が多数いる状況を変えていくために、社会資源を増やし、7万2千床は減らすと・・。20年以上経過しても、ベッドはそれほど減らなかった。横浜で働き始めた時、精神科病棟のある開院した病院に興味をもち入職しました。都心部は精神科ベッドを増やしてる現状に疑問を抱いていました。
数字上の計画と現実はこんなにも乖離するものなんだと思う一方で、長い視点でみれば、何か変化を進めようとすれば、社会は様々な抵抗が発生するもので、数字の計画とは違う課題を経験しながら、変化していくのが現実なんだと思うようになりました。
長期入院していた患者さん達は、退院できた人、再入院を繰り返す人、退院できずに高齢になり亡くなる人もいれば、自宅や施設では大変な認知症の方々が入院するベッドが必要とされたり。地域によって、福祉の取組に違いがあったり、様々な理由で精神科ベッドは必要とされてきたと思います。
今後、精神科ベッドは減るしかない。
統合失調症が中心だった精神保健福祉が、認知症やうつ病をはじめ、○○障害、ストレスと幅広くなり、社会のニーズも変わってきた。精神保健福祉士はPSWからMHSWと変更された。P(Psychiatric)からMH(Mental Health)と変わり、精神保健福祉法も改正されていく。精神科病院もそこで働くMHSWの役割も、変わっていくと思います。
僕が経験した実践が役立つこともあるけど、次世代は未経験にチャレンジすることが増えると思います。学ぶことも幅広くなっていくだろうし、社会の変化が加速する中で、多様化する生活者の感覚を理解することは容易ではなくなるのではないだろうか、とさえ思ってしまう。
ダラダラと書いてしまいましたが、病院実習についても、「指導者」「現任者」「実習生」いろんな立場で、いろんなん環境で、いろんな経験をして、いろんな意見があると思います。今後の精神科医療についても、同様です。
ご意見などあれば、コメント等していただけると嬉しいです。
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