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分龍雨


明日は旧暦5月20日。

渋川春海の編んだ貞享暦では、夏至の次候は「分龍雨」で、それ以前の宣明暦の「蜩始鳴」とも以降の宝暦暦の「菖蒲華」とも違い、異彩を放っている。

古来中国では、旧暦5月頃の雨の多い時期に、分龍節と呼ばれる豊作祈願の祭祀が広く行われていた。現在でもベトナム国境に近い広西の少数民族・毛南族の分龍節の祭りは、まさにこの時期に盛大に行われているようだ。
竜の体を分つほどの激しい雨だとか、龍たちがあちこちにわかれて各地に雨をもたらす、などという。
清代の江南・蘇州の歳時記「清嘉録」に「二十分龍廿一雨、石頭縫裏都是米」とあり、旧暦5月20日・分龍の翌日に雨が降れば、石の割れ目にもことごとく米が稔り豊作になると云う。

日本各地にも「分龍」を想起させる伝承・民話が残っている。
いずれも大筋は、旱魃に見舞われ雨乞いをする民衆や僧に恩義を感じた小龍が、竜王の命に背いて雨を降らせて怒りに触れ、体を割かれ殺されるという話で、同じ類型の物語は中国にもあるらしい。

そういえば、有名な海北友松の建仁寺襖絵をあらためて見ると、雲の間に見え隠れする龍は頭・胴・尾と分かれているようにも見える。

中国南部から台湾・琉球を経て日本列島にかけ、梅雨のある東アジアは稲の道でもある。
雨を呼ぶ想像上の動物・龍は、農の源であるとともに時に災厄をもたらし、人々の祈りのなかに生きている。

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