見出し画像

第9回 鷺谷祐と巣鴨から大塚

写真企画「本当は嘘なんだ〜27枚だけ撮らせてください〜」
https://note.com/yoshiokahikari/n/n44e069495a88

会うのは多分、2年ぶりくらい。
去年の年末、インスタのDMでもしよかったら俺も27枚だけ撮ってくれませんかと連絡がきた。
LINEも知っていたけどなぜかしばらくインスタでメッセージ交換をし、じゃあまあ撮ってみましょうか、と何となくふわっと予定を合わせた。
なんだかんだ付き合いが長いので、改めて写真を撮るのは正直やや難しい。
文章をうまく書けるかもわかんない。
でもそんなのはわかったうえで連絡をくれたんだろうし、まあいいか。
「ご無沙汰してます」「お疲れさまです、16時巣鴨承知しました」「よろしくお願いします」とよそよそしいやりとりをしたのち、私は2年振りに鷺谷くんと会うことになった。

今回撮るのは、鷺谷祐くん。
出会ったのは5年前。まだ鷺谷くんが俳優になる前で、私たちは新卒で入社した会社の同期だった。
鷺谷のさぎってむずかしい漢字だなあ、と、出会ったときに確か思った気がする。
4人しかいない同期の中で私と鷺谷くんは当時びっくりするほど馬が合わなくて、あまり積極的に話したいと思った記憶がない。
仕事のやりとりをする時はもちろん普通に接していたけど、もっと同期同士仲良くしなよと先輩に言われたこともあった。
私が鷺谷くんとうまく話せなかったのは、今もそうだけど、鷺谷くんが話すと不思議なことに鷺谷くんの言葉がテロップで出て見えるのだ。
言葉の方が浮き出て見えちゃって、会話に全然集中できない。
あといい声で話す感じもなぜか気に入らなくって、とにかく言葉はあれだけど生理的にこの人は無理状態になっていた。
鷺谷くんの方は多分私を特別嫌っていたわけではないと思うので(嫌うほど関わってないしね)、私の拗らせ具合が今以上に全盛期だったころの出会いだったからかもしれない。
思い出す自分の態度すべてが恥ずかしいし、初っ端から悪口まみれで申し訳ないです。
そんな私と鷺谷くんが、なんだかんだお互いを静かに遠くから応援し合うまでに至るまで5年。
長くはないけど、短くもないな。
ただ、鷺谷くんに会うのは、やっぱり多くても年に1回くらいがちょうどいい気がしています。

恵比寿から16時5分着の電車で向かうので少し遅れます、と前日の時点で連絡をくれた。
その真面目な連絡を見た時、私たちの短い短い会社員時代をちょっとだけ思い出す。
多分鷺谷くんは覚えてないと思うけど私たち、会社の二次会のカラオケで一緒にオレンジレンジのお願いセニョリータとか歌ったんですよ。きっついな。
15時55分に巣鴨についた私は、駅前の桜をぼーっと見て待った。

鷺谷くんは言った通りの時間に現れた。
遠くの方で片手をあげる人が見えて、鷺谷くんだった。
挨拶より先にとりあえず景気づけに、1枚シャッターを切る。
きっともっとかっこつけて現れると思っていた鷺谷くんは、サングラスを首元にかけてはいるけどまあまあ普通な感じで現れたので若干拍子抜けである。

「あけおめ〜。あ、あけおめどころじゃないですね」「そうっすねえ」「お久しぶりです」「お久しぶりです」「お元気そうで」「お元気そうで」
相変わらず微妙に気まずい滑り出しの会話をしながら、信号を渡る。
なんとなくで右に曲がろうとした私に、左がいい、と急に鷺谷くんが言う。
急だったのでびっくりしながら、そうっすか、と左に曲がった。
線路沿いに歩くと、桜が咲いていた。
桜をちゃんと見るの、今年初だわと鷺谷くんは言っていた。
ちょうど2日前に同じ企画で神野陽子と桜を見ていたので(https://note.com/yoshiokahikari/n/naebc928b92f1)、私は今年初の桜じゃなかった。

会ってない間、鷺谷くんを一度テレビで見かけた話をした。
あざとくて何が悪いの?をぼーっと観ていたら知っている声が聞こえて、顔を上げたら再現ドラマに鷺谷くんが出ていた。
LINEで見たよと送ろうかと思ったけど送らなかったとこまで話して、え〜嬉しいっすと鷺谷くんは笑っていた。
台本が当日に変わってちょっと悔しい思いをしたという。そうだったんだ。
モデルの事務所だから、普段は広告の仕事が多いらしい。企業ぶいぴーとかが多いらしい。企業ぶいぴーが何となくわかるようでわからなかった私は、その場で鷺谷くんに聞くのがやや悔しくて帰ってからこっそりググった。
企業VPとは、企業ごとに作成されるVideo Packageの略語のことだった。なるほど。かっこいいことしてんなあ。
あんまりお芝居はしてないの?と私が尋ねる。今度何かでお父さんの役をやるという。お父さん役は2回目らしい。
私も観られるやつなのか、ちゃんと詳細を聞くのを忘れたけど。

鷺谷くんは、2年前私が学校の課題で初めて撮った短編映画に出演してくれたことがある。
俳優さんをどうやって見つけるのか知らなかった私は、たまたま知り合いだった鷺谷くんに当て書きして脚本を書いたのだ。
出演してください、と初めて書いた脚本を鷺谷くんに渡したときの緊張は今もおぼえていて、撮影中の記憶はあんまりないけど、楽しかったのと眠かったのと、たった10分を作るのにこんなに大変なのかと思い知った。
そのそばに(腹が立つほど)飄々としたかんじで、鷺谷くんはいた。
映画は一旦は出来上がったけど、学校の映画祭もコロナで中止になっちゃったし未だに観せられていなくてごめんと謝ったら、鷺谷くんはいつでもいいから楽しみにしてる、と言った。
ごめんなさい、どうもありがとう。
たまたま鷺谷くんが俳優を目指していて、たまたま同じタイミングで私も映画学校に通い始めて、あのときから鷺谷くんに本当に助けてもらったなと思っている。

こっちに行きたいとか、ここで撮ってとか、多少面倒くさくなるほど、鷺谷くんは私にちゃんと言ってくる人だ。
ややジワジワと面倒くさい気持ちになりながらも、まあどうしたいか言ってくれた方が楽である。
私はハイハイとそれについて行くだけでいつも以上に何も考えず、今回の写真のほぼ9割は鷺谷くんの言われるがままに撮られている。
ピントが合ってないのは鷺谷くんの指示ではないけど。

巣鴨地蔵通商店街を歩いてみることにした。
巣鴨と決めたのは私で、鷺谷くんと一生来なそうな駅に来てみた、と説明した。
あとちょっと気を抜くと鷺谷くんはきっと洒落た街とかを指定しそうだったので先手を打った。
俺意外と下町好きですよ、と心外そうに鷺谷くんは言ってたけど、私は嘘だと思っている。
赤パンツの店で私はすがもん(巣鴨のキャラクター)がプリントされた靴下を2足買ったのだけど、それを鷺谷くんがかわいいと言っていたのも、私は嘘だと思っている。

久しぶりに会う鷺谷くんはとても話しやすくなった気がする。
前はもうちょっと暗くて、理屈っぽい話し方が私は鬱陶しくて、目とかわりと死んでた。
なんかお互い丸くなったよね、と鷺谷くんが言っていたので多分私もそれなりに感じが悪かったんだろうな。

鷺谷くん、最近初めてのオンライン競馬に挑戦して、500円が5000円になったらしい。
競馬の話は全然何言ってるかわかんなかったけどとても嬉しそうで、そのお金でなんと大学芋を奢ってくれた。
おいしかった。勝利の味ってかんじです。適当に言ってます。ありがとう。ごちそうさまでした。
私は2切れで飽きた大学芋を、鷺谷くんは最後まで美味しく食べていた。

鷺谷くんがなんで俳優になりたいと思ったのか、私は実はあんまりよく知らない。
もしかしたら昔話してくれているかもしれないけどあんまり憶えていない。
遥か記憶の彼方で一回だけ鷺谷くんと一緒にふくろうずのライブに行って、その帰り道にひたすら代々木八幡とかその辺を多分歩きながら、初めて将来の話をしたことがある。
そのとき鷺谷くんは、本当はやりたいことがあると言っていた。
俳優になると決めてそれから数ヶ月後にすごい速さで会社を辞めたとき、私は何となく置いてけぼりを食らった気持ちになったんだった。
土俵がそもそも違うくせに、鷺谷くんに謎のライバル意識があったのかもしれない。
なんで俳優だったのか、あまり不思議に思わなかった。
なんとなく、そういう道に進む人な気がしていた。

相変わらず今も私は鷺谷くんの言葉がテロップになって見えるのだけど、前のそれはキラッキラに加工されたきらびやかな感じの書体だったのが、今回かろうじてキラキラなしの普通のゴシック体とかになったような感じ。
ようやくちょっとマシになったと話をすると鷺谷くんは、なぜか「俺が普通に話したりしてるのを動画に撮って、テロップ入れてほしい」と言ってきた。
何を言ってるんだこの人。
誰が見るんだそんな動画。
鷺谷くんと話していて、この感覚に陥る人は他にもいないのだろうか。
早くもっとみんなどんどん鷺谷くんと出会えばいいのに。
この人、かっこつけてるけど変で面白い人なんだよ。
うまく言えないけど、ただのその辺のかっこつけてる人ではないんだよ。

結局、この日鷺谷くんと私は大学芋と餃子を食べたくらいで、大した話はしなかった。
あんまりちゃんと書ける話を聞き出せなかったので過去の話も引っ張り出してきてしまいました。
次に会うのは2022年か2023年ですかね。と書いたら、怒られそう。
いや、いい人だから多分怒られはしない、文句は多少言われそう。
鷺谷くんは1シーズンに1回くらいは会おうと言ってくれて、私もわかったと返しているので。
まあでも色々落ち着いたら鷺谷くんの働く恵比寿のバーに行ってみますね、勇気が出たら。

新入社員の出し物で私が演出した浦島太郎の乙姫役を半ばヤケクソで熱演する鷺谷くんもちゃんと憶えています。
思い返せば思い返すほど私はたびたび鷺谷くんに申し訳ないことをしでかしているけど、これまでも、これからも、俳優の鷺谷祐を静かに応援しているんだ。

いつかまた一緒に何かをやろう。
若干遠回しに鷺谷くんが言ってくれたとき、私も頑張ろうと思えた。
負けてられない、こんなに四方八方にかっこつけてばかりの人に。
※本人的にかっこつけているつもりはないらしいので天性のかっこつけである。

なんか最初から最後まで基本的に悪口が多かったな。
申し訳ないです。
声をかけてくれて本当にどうもありがとう。
また散歩しましょう。

撮る人・文:吉岡晶
撮られる人:鷺谷祐(さぎやゆう)
WEBサイトhttp://www.jexmodels.com/models/male/227
Instagram https://instagram.com/sagikuuun

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?