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iPhone紛失のすゝめ

2月某日。
バイト中にiPhoneをなくした。
画面がバキバキに割れていて下半分が見えなくなり、LINEを勘で打たなければならない厄介なケータイだった(わたしは90年代前半の生まれなのでiPhoneのことをケータイと呼ぶ。以下、ケータイはわたしのバキバキのiPhoneのことを指す)。
ケータイをなくしたことに気づいたのが午後2時半ごろ。
ケータイに限らずものをすぐなくすわたしはケータイが見当たらないくらいでは全く動揺していなかった。なんだか見当たらないなあ〜と思ってから本腰を入れて探し出すまでに1時間かかった。静かに自分の全ポケットを順番にチェックし、何度かその場でジャンプしてみる。
トラックのドライバーさんが優しい人で、ケータイをなくしたかもしれませんとわたしがへらへらしながら言うと「ええ!」とわたし以上に神妙な面持ちになり、わたしが最後にケータイを見た地点(お昼休憩のファミマ)から今の地点までを一緒に探してくれたのだ。
しかし見つからなかった。ゴミ箱にも道端にも1番あやしかったファミマのパンの棚にも。
「あれですかね、あんまり乱暴に扱う持ち主だからいやになってどっか逃げちゃったんですかねえ」と自分史上でもなかなかによくわからないユーモアで盛り上げようとしたけど、ドライバーさんは「ここちょっといくと交番があるんで、届けを出したほうがいいですよ」と真面目な顔で教えてくれて、早めに帰してくれた。
この日から約1ヶ月弱、わたしはケータイなしの生活を送ることになるのだけど、意外に快適な毎日を過ごせたのできっと誰も興味はないことを承知でここに残す。

おすすめポイント①   
LINEを見なくていい・返さなくていい

LINEというのは本当に億劫である。
わたしのような繊細でズボラな人間に最も適さない。返事が書けないのだ。今日のお昼に返そう、夜寝る前に返そう、もう遅いから明日の朝返そう、とどんどん先延ばしになって、気づいたら1週間経ってる。ひどいときは数ヶ月返さない。そして、「〇〇ちゃんがLINEの返事こないって言ってたけど生きてる?」などと共通の友人からさらに新しいLINEが来てしまい、返さなきゃいけないLINEがまた増える。
わたしはケータイだけではなくMacでもLINEをたまに使っていたのだけど、常時LINEをパソコンで開ける設定にしておらずいちいちQRコードを読み込んで使っていたので、今回のケータイ紛失によってパソコンでもLINEは見られなくなった。新しいケータイを手に入れるかなくしたやつが出てこない限りわたしは自由の身である。これがとても心に快適であった。
映画の撮影中だったし、これからスタッフで参加するものもあったし、普通に周りには迷惑をかけてしまったけど主にGmailとTwitterのDMを利用してなんとかなるもんである。繊細でズボラな人間たちにおすすめしたい。

おすすめポイント② 心なしか目が良くなる

わたしはとても目が悪く普段はコンタクトをぶちこんで過ごしている。
今回ケータイ紛失によって最初に訪れた苦難は、Google MAPが使えないこと。
行きたい場所の地図をプリントアウトしたり、目印の建物を覚えてから出かけたり、前もって準備できるときはいいけどそうじゃないことのほうがいい。
そういうときは、目を凝らして歩くしかないのである。
遠くの看板、建物、向こう側のコンビニが何店なのか、視力を駆使して歩くのだ。
ある程度進んでから道を間違えていたことに気づくと命取りなので、なるべく遠くから情報を得ようと目を凝らした結果、心なしか遠くのものが前よりも判別できるようになった気がする。

おすすめポイント③ 道を聞く勇気を手に入れられる

わたしは早足で歩いてようがイヤホンを耳に突っ込んでいようがなぜか道を聞かれやすい顔面をしているらしいが、人に道を聞いたことはあまりない。
ケータイ紛失によって、人に道を聞く機会がとても増えた。
人に道を聞く時のコツは、とにかく端的にハキハキと質問すること。そして、道に詳しそうな人、忙しくなさそうな人、優しそうな人を鍛えた視力で見抜くことだ。
まず安パイなのはコンビニだとか、花屋さんだとか、外にひらけているお店の店員さんだ。
しかしお店が忙しそうだとなかなかむずかしい。
あとは子どもを連れている人とか、噴水のそばで座ってるおじいちゃんとか。
なるべく避けたいのは尖った靴を履いている人や、競歩をしてる人、イヤホンをしてる人、顔が怖い人だ。

おすすめポイント④ 公衆電話の位置にくわしくなる

公衆電話は思ってる以上にたくさんあるけど、あそこにある、と思って安心してるとけっこう「故障中」「調整中」なことが多いから注意が必要だ。
受話器を上げる前に金を入れてしまったら、電話がかけられない上に金が戻ってこなかったことがありファッキューであった。要注意である。
あとはけっこう女物のパンツが落ちていることが多い。
パンツを無くしたら公衆電話に行ったらいい。
足元に落ちた赤紫の紐パンを見つめながら、お世話になっておりますヨシオカですとバイト先に電話をかけ、無の表情でシフトの予約を取るのだった。





おすすめポイントばかり話してもあれなので、スマホ紛失によって少し困ったポイントもおまけで書いておこう。

困ったよ①待ち合わせがめんどくさい

さきほど話した通りわたしの主な連絡手段はMac bookProで持ち歩くには重たいノートパソコンなので、外で連絡を取る必要がない場合は家に置いておく。
待ち合わせは前日までに、時間と場所、そして相手の携帯番号を聞いておく。待ち合わせ場所をなるべく細かく決めておかないと地味に大変なことになる。例えば駅集合でも、何口なのか改札を出たところなのか改札内なのかとか、あらかじめ決めてすべてを手帳にメモして、となかなか労力がいる。そして遅刻は厳禁である。遅刻します、と渦中で連絡する手段がないのだ。
遅刻は厳禁である、と書いたけどわたしはよく遅刻をした。遅刻しますと連絡ができないので、必死に申し訳なさそうな顔で待ち合わせ場所に現れなければいけない。
待ち合わせはなるべくしないほうがいい。

困ったよ② 彼氏との連絡に支障をきたす

遠距離の恋人たちの片方がケータイを持っていないと、けっこう不便である。思っているより心配をかける。
私たちがLINEの代替ツールとして使用したものは以下である。
○TwitterのDM
どうにも身内というより他人と会話している気分になってしまってあまり会話をする気になれなくてよくない。そのせいか、「Twitterだと冷たくてかなしい」と言われてしまった。
○Skype
TwitterのDMを捨てた私たちはさっそくSkypeを導入した。はるか彼方むかしに一瞬就職活動をしていた時に作ったアカウントを呼び起こす。SkypeはほぼLINEみたいなもんである。かわいいスタンプとかなかったり、写真アルバムとかが作れないくらい。もちろん電話もできる。電話のコール音が独特で、トゥトゥントゥン♪トゥントゥトゥン♪という音楽が流れる。今はもうSkypeを使っていないのに、たまにこれの幻聴が聴こえて困っている。

いずれにしてもわたしが外出すると見られないので、やりとりは頻繁にはできない。
だが、その分手紙を書いたりやりとりできる時間を大事にできたりするからいいんじゃないですか?

困ったよ③ アラームがねえ

彼氏が東京に泊まりに来た際に問題は勃発した。
一緒に泊まる時はいつもわたしのケータイでアラームをかけていたのだが、というのも彼氏のスマホのアラーム音はマックスで、ちょっと小声なOLくらいの音量しか出ない。この音量で起きることのできる人間はアラームなしで起きられる人間である。こんなもんで、ただでさえ不眠と過眠を繰り返して基本的に朝と相性の悪い人間を起こせると思うのかばかちんが。
あってもなくても変わらないちょっと小声なOLくらいのアラームだけで心もとなさを感じたわたしたちは、2人揃って金欠気味だというのに吉祥寺のドンキで目覚まし時計を買うことにした。
デザインがかわいいのは2千円くらいしたので、私たちは安さと爆音を取った。火事かと思うようなベルが鳴り響くとにかくうるせえやつ。
正直色がせめて赤いだけでデザインはそんなにかわいくないのだけど、2人で一緒に買ったはじめての宝物だと心に刻んだ。良い話じゃないか。




以上、もう書くのが面倒くさくなって切り上げた感がすごくある結末になってしまったけどもiPhone紛失は思ったよりも悪いものじゃない。
冷静におすすめはしないけど、失うものがある代わりに得られたこともあるし、何より生きる力が以前より2くらいレベルが上がった気がするし、なんでもケータイで調べないで自分で見て感じて考える時間も増えた気がするし、自分の本当に会いたい人とか本当に食べたいものとかのことを考えてとても心が豊かになった。
今はやっと新しいケータイを手に入れたけど、たまに意図的にケータイを手放してみるのも悪くないと思うのでやってみよう。
最後に。わたしのかわいいバキバキiPhoneちゃんにはお気に入りの犬の切り抜きとかプリクラとか挟んであったりバキバキだけどとても大事なものだから悪い人に拾われていないことを願ってる。
いままで毎日一緒にいてくれてありがとう。どうかお元気で。

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