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第8回 神野陽子と代々木から渋谷

写真企画「本当は嘘なんだ〜27枚だけ撮らせてください〜」
https://note.com/yoshiokahikari/n/n44e069495a88

「代々木公園って最寄り代々木ではないんですね」
合流して、私は開口一番に神野さんに言った。
神野さんはきょとんとした顔で「うん、原宿だね」と頷いた。
そのやりとりをしたとき、なぜか、今日1日に自信がついた。
なぜかはわかりません。

今回撮るのは、神野陽子さん。
1年半くらい前に出会った彼女とは、同期の自主映画の撮影だったり飲み会であったりで何度も出くわしているのだけど、きちんと話をするのはこれが初めて。
お互い誰でもかんでも気さくに話しかけるタイプじゃないから、例えばさっきまで大勢でいたのに急に2人きりになったりするとやや気まずいひとときを過ごしたりしていた。
今日はどうなるだろうか。
神野さんも多分、おんなじくらいの気持ちだったと思う。

私が神野さんについてなんとなく知ってること。
目が大きい。
あといつも辛そうなラーメンめっちゃ食べてる。

13時代々木駅待ち合わせ。
決めたのは前日ぎりぎりだった。
時間は決めてたけど場所は決めてなくてお互いの中間地点くらいだし、桜をみましょうかと私は代々木公園に行くつもりで提案した。
しかし、降りた瞬間に代々木公園の正しい最寄り駅は原宿だと思い出す。
私は、電車に関してはとにかくバグが起きやすい。
冒頭の会話を繰り広げたあと、神野さんととりあえず原宿に向かって歩き出した。
天気がよかったのが幸いだった。
「天気がいいね」「暑いですね」と当たり障りない会話をしながら、信号を渡る。

どうなるかわかんないけど神野さんをまたふつうのときに撮ってみたいですと言ったのは今年の頭、ファッションアプリの撮影で一緒になったとき。
WEBデザイナーの友人がモデルを探していて私に連絡が来て、神野さんを紹介したのだけど、あれよあれよというまに私が写真を撮らせてもらえることになった。
その時初めて、神野さんの写真を撮った。四方八方に緊張していたので、撮影が終わりに差し掛かった頃やっと神野さんと話した。
神野さんは撮影に向けて塩抜きダイエットをしていて、笑うとすぐお腹がつると言って笑いながら苦しそうにしていたのを憶えてる。
あととても風が冷たくて寒い日で、衣装も寒そうだったのを憶えてる。
撮影の移動中に、神野さんが写真は実はそんなに得意じゃないと言っていた。「たまに27枚なんでもない感じで散歩しながら撮ってて」とこの企画の話をした。写真が苦手な人にむしろおすすめな企画だってことを説明した。
私はいつも相手の様子を探りながら遠回しに誘ってしまうんだけど、神野さんは是非、と快く引き受けてくれた。
そこからなんとなく予定を合わせて、いよいよ今日だ。

少し歩くと神社の鳥居が見えてきて、あれ明治神宮かなあ?となんとなく向かうことにした。
入り口の横の緑のとこで撮りましょうと私が提案すると、神野さんは「ここで?」と一瞬怪訝な顔をする。
なんとも中途半端な立ち位置を指定する私に神野さんがわかりやすく不安そうになるのが面白かった。
勝手に思っているけど、神野さんはとても正直な感じのする人です。つまんないときとかわかりやすく暇そうにするし、「は?」って思った時には「は?」って顔してる。
わかりづらいけど、良い意味で書いてます。
だってそっちのがいい。

鳥居をくぐると、涼しかった。
涼しい、とか、緑だ、などと言い合った。
神野さんは、この間高尾山にのぼってお団子食べた話をしてくれた。
お団子にハマってるという。こしあんとつぶあんだと、昔はこしあん派だったけど今はつぶあん派が好き、と神野さんは答えた。つぶあんに寝返り派ですねと自分でも素っ頓狂なことを言ってしまい、神野さんは「寝返り」が聞き取れなかったっぽいうえにそもそも意味不明だし「はい?」となっていて、焦ってお団子の話にむりやり引き戻す。
ウーバーイーツでお金を稼ぐようになってから、走行中においしそうな食べ物屋さんを見つけるとつい買って食べてしまうらしい。
今日お団子を見つけたら絶対食べたい、と神野さんは言った。
そうしよう。

神野さん、花粉症らしい。
こんな木々の中を歩いていて大丈夫かどうかを今更聞くと、薬を飲んできたから今日は大丈夫だけど飲まないと鼻と目がとんでもないことになるという。
お酒は強いですか、とついでに合コンみたいなことを尋ねると、強くはないかなあ、と返ってきた。

「お酒の失敗第8位くらいを教えてください」
「知らない人に近づいていって、なんか、こんなんやりました」

神野さんは踊りながら数メートルくるくると歩き、最後はひざまづく感じで会釈した。
ディズニー映画とかだったらこういうシーンがあってもいいけど確かに現実世界だったら怖いな、という雰囲気の動きだった。
早朝、ニッカポッカを履いた大工さんらしき方にやってしまったらしい。これが8位の話。
1位の話はいったん聞いていない。
知らない人系が多いです、酔っ払うと知らない人に絡みたくなると神野さんは言った。
普段は人見知りで内弁慶なほうだという神野さんだけど、そこで使えていない、ふだん取っておいているコミュニケーションをここぞとばかりに使っているのでは?という結論に達した。

神野さんも私と同じ写ルンですを持ってきていて、たまに景色の写真を撮っていた。
フラッシュ焚き忘れて何回か失敗したという。
私も、よくやる。
撮る側の自分が興奮している時ほど、楽しみにしてる写真ほどやっちゃったりする。
神野さんもそうらしい。それも含めて楽しいよね。

明治神宮を出た私たちは、そのまま代々木公園へ向かった。
普段はどういうふうに遊ぶんですか?と聞くと、遊ぶってなんだっけと神野さんは考える。
確かに、質問もさっきから合コンみたいで申し訳ない。合コン知らないけど。
ご飯を食べるのは好きで、1番はラーメンだという。
たしかに神野さんのSNSで、中本のラーメンをよく見かける気がする。
私は実は人前でラーメンを食べるのが苦手だという話をしたら、神野さんは驚いていた。
いつか食べられるようになったら、一緒に行きたい。多分無理そうだけど。
「こないだちーちゃん(斎藤千晃ちゃん。俳優部)と服買いました。友達と服買うとか久しぶりでした」
今日着てるやつがそのとき買ったやつだと神野さんが言った。
試着室が混んでいて、ジーパンは、その時履いていたスウェットの上から履いてみてサイズ感は大体で決めたらしい。

代々木公園の入り口で、お団子屋さんを見つけた私と神野さんはここにきて今日イチ最大のテンションとなった。
味に悩んで、私は醤油タレ、神野さんはくるみみそ味の焼き団子を手に入れる。
神野さんは、くるみみそってどんなやつですか、とちゃんとお店のおばちゃんに質問してから買っていた。
お団子おいしかったですね。

神野さんがテレビの中の演者に憧れを思ったのは小学校4年生くらいのときだった。
テレビの向こうにいる人たちをどこかで嘘くさいなあと思いつつも、なぜか強そうに見えて憧れたという。
あっち側に行きたいなと。
俳優をやる前はピンのお笑い芸人だった。実は俳優より芸人時代のキャリアの方が長い。
自分でネタを書いて、ステージにひとりで立っていたという。
事務所に所属していたからネタ番組に出る機会もわりとあったけど、ちょうど番組の改編期にあたり、収録後オンエア前に番組そのものがなくなるということがたびたび続いた時は心が折れかけた。

お客さんが笑ってない、とかスベってる、とかはステージにいるとダイレクトにわかる。
1人でステージに立ち続けて、度胸がついた。

お笑い芸人を辞め2年間の空白の期間を経て、俳優としてスタートを切り、今に至る。神野さんは俳優だけでなく脚本も書くし、監督もする。
朝から晩までウーバーイーツでチャリを漕ぎまくって膝をこわすまでやっちゃうところももちろんだけど、神野さんに感じる不思議なたくましさはきっと、そのステージの上で磨かれたものなのかもなあと思った。

渋谷にふらふらとたどり着いたとき、どこかに入って少し休憩しようか、となった。
自分が何の食べ物を欲しているのかにとにかく疎い私はよく自分が選んだメニューに「これじゃなかった感」を感じて後悔することが多い。
その話をすると、神野さんは「それはよくわかんない」と笑ってた。
おそらくだけど神野さんは自分の食べる食べ物に対して毎回いつもきちんと向き合っているのだと思う。
だから、くるみみそがどんな味なのかもきちんとお店の人に確認するし、渋谷のカレー屋さんでもわからない味をどんなやつですか?と尋ねていた。
私はいつも適当になんとなくで何も考えずに選ぶから、けっこうたまにほんとに、私もそっちにすればよかった、となりやすい。ちょっと反省した。
私も見習おう。わかんない味について、神野さんみたくちゃんとお店の人に聞けるようになろう。そしたらもう少し、ご飯の失敗は減らせるはず。
何の話だ。

IKEAを見ると条件反射ではしゃぐ人間の私は、センター街で不意にIKEAを見つけ、「IKEAこんなとこにありましたっけ!?」と興奮しながら神野さんに聞いた。神野さんにお願いし、一緒に1階から7階までぐるっと店内をまわることにした。
IKEAは誰と来てもきっと楽しい。
部屋をゼロからやり直したい気持ちになりながら2人で物色しているうちに、急に神野さんと私の共通点その1。
部屋の物が多くて、捨てるのが苦手。
私の部屋のガラクタの多さは人様に見せられたものじゃないけど、神野さんもなかなか、物を整理したり捨てたりするのが苦手らしい。
IKEAの収納グッズで綺麗にディスプレイされたクローゼットの中を一緒に見ながら、一生こうはできないよね、と頷き合った。
神野さんは、フキンとジップロックと、ウーバーイーツのバッグをのせるのにちょうどいい本当は靴とかをのせる棚を買った。
今はウーバーイーツのバッグを段ボールの上にのせているらしく、ちょうどいい棚が見つかってよかった。ほんとに幅や奥行きがちょうどだったらしい。
私は机が欲しかったんだけどさすがにこのタイミングで机を買うのはあれなので、神野さんと一緒にジップロックを買って終わった。2種類の柄が15枚ずつ入っているやつ。
ここで神野さんと私の共通点その2。
セルフレジでポンコツ具合を発揮する。
ちょっと手を止めようものなら後ろから店員のおばさまがすごい速さで指導してくれるスタイルのセルフレジだったため、ジップロックたった1つの会計にモタモタしている私が許せなかったのか最初から最後まで手取り足取り手伝ってもらって会計を終えた。
おばさまの指導の素早さとそこそこの厳しさにやや戸惑いながらその2つ隣のセルフレジを見ると、同じように神野さんが店員のおばさまに指導されながら会計をしているではないか。
仲間がいてちょっとうれしくなった。
「すごい勢いで指導されますよね」「ね」と私たちは会計を終えて、そそくさと外に出る。
余談だけど、神野さんが買ったウーバーイーツのバッグを置く用の棚、渋谷限定の黒いIKEAのバッグに横幅がぴったりで2人でちょっとだけ盛り上がった。

外に出ると、風が強かった。
先程までの暖かさが嘘のように、冷たい風が吹いている。
私も神野さんもコートを着てなくて薄着だったので、吹き荒れる風にわかりやすく2人の空気のテンションががくりと下がった。
せっかく盛り上がりつつあったのに。
私と神野さんは多分同じ気持ちだった。

とっとと残りを撮り終えよう。

パチンコ屋の喫煙所で一服を終えたあとの、スピード感たっぷりの撮影はみんなに見せてあげたい。
さっきまで様子を伺いながら撮っていたのに嘘のようにすごい速さで撮影する私に、神野さんは笑ってくれていた。
寒さのあまり太陽の方をめがけて歩くけど、ビルの多い街・渋谷、なかなか暖かい場所には辿り着けない。
ぐるぐると同じ路地裏をまわりながら、ここでこうしたらかわいい、とか、しゃがんで!笑って!などと私は急にえらそうにどんどん指図して、神野さんは「これは意味わかんない!」と言いながらもなんだかんだ応えてくれる。
早く帰ろう。
そういうまっすぐな気持ちは、こんなにも一体感をうむものなのか。

最後は恋愛の話を少しだけした。
ちょっと詳細を書くのはあれだけど神野さんはちょうど先日ハピネス特急に飛び乗った感じだったので、近年稀に見る盛り上がり具合で上り坂をひたすら上った。
のぼろう!のぼろう!となぜか上った。
人様の恋愛模様にぎゃあぎゃあと騒ぐ妖怪が私です。
若干体温が上がるくらいにはテンションがあがり寒さも少し忘れた頃、やっと最後の1枚。
例のごとくフラッシュが届いてるか不安だったけど、なんかいい写真な気がします、と撮り終えたあと私は無責任な言葉を言い放ち、神野さんも、お疲れさまでした、と言ってくれた。
なんだろう、とても達成感があった。

緑を見て桜を見てお団子食べてIKEAで買い物して喋って、こういう1日を、まさか神野さんと過ごすことになると思わなかった。

言い出しっぺは私なのにね。
楽しかったな。

また散歩しましょう。

撮る人・文:吉岡晶
撮られる人:神野陽子(かみのようこ)
Twitter https://twitter.com/yoko_kamino
Instagram https://instagram.com/yoko_kamino

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