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第7回 池田きくのと六本木から新宿

写真企画「本当は嘘なんだ〜27枚だけ撮らせてください〜」
https://note.com/yoshiokahikari/n/n44e069495a88

池田さんに謝んなきゃ。
現像した写真を見て思った。
私の袖口、めちゃくちゃ入ってるじゃん。
うまくは撮れません、とあらかじめ明言してはいるけどそれ以前の問題だろうファインダーとレンズに距離感くらいわかっといて。という。
本当にごめんなさい。
ごめんなさいの気持ちはもちろん携えつつ、写真見て私は思い出し笑いした。

1つ、言い訳させてほしいのだ。
これまでの撮影の中で今んとこ1番、めちゃめちゃ疲れた。
1番うるさかった。1番ずっと喋ってた。1番笑い過ぎて最後は体調悪くなった。
人見知り向けなこの企画を吹っ飛ばす勢いで、池田さんは冒頭からよく喋りよく笑い1人でボケて1人で突っ込むスピード感満載の人だった。
私は人より喋るのが遅いのだけど、池田さんは私の10倍速で話すので周回遅れでどんどん追い越されていく、文句みたいに書いちゃってるけどそれが嫌なわけではなくて、とても愉快な時間でした。振り回された。やられた。楽しかった。
顔も腹筋も変なとこが痛いし脚も産まれたてのヤギかなにかみたいにワナワナしながら、なんなら途中、笑いすぎて一回胃液がせりあがってきてお酒を飲んだわけでもなく初対面なのに吐くところだったというのも、最終的には疲れすぎて「もう帰らせて」と池田さんに言い放ってしまうくらいボリューミーな時間だったということも、言い訳させてほしい。いや、言い訳になってないね。
ふざけて下から煽るショットばっか撮ってごめんなさい。
笑いながらろくにファインダー覗かずごめんなさい。

今回撮影したのは、池田きくのさん。
関西出身の22歳。
だったけど、この記事をモタモタ書いてる間にこの前、2月4日に23歳になっていた。
だいぶ遅くなったけど、おめでとうございます。
余談ですが人様のお誕生日を祝う時、おめでとうって連絡しちゃうと、私の誕生日にもお返しにおめでとうって連絡しなきゃと思われるかな、と深読みしすぎておめでとうと連絡できないことがたまにあります。
こういう逆自意識過剰な思考、いつなくなるのでしょう。言葉にしてこうね自分。おめでとう池田さん。遅れたし2回言っちゃう。
池田さんが最近の自分のテーマソングのうちの1曲だと言っていた、星野源のさらしもの(feat.PANPEE)を聴きながら書いています。
PANPEE好きなんすよ、とケラケラ笑っていた池田さんを、今回も27枚撮りました(繰り返しになるけど失敗が多すぎて全然まともに27枚すら撮れてない)。

待ち合わせ場所をなんで六本木にしたのかというと、確かせっかく私たち今や東京の女なんだし、みたいなことだった気がする。
顔合わせをしたのはまだ年をまたぐ前の12月のことで、パソコンの画面の向こうで池田さんは癖の強い柄のズボン履いていた。
変な柄だなと思いながら、どこで撮るかとかを相談した。
あとから聞いたら、あのズボンはおばあちゃんのお下がりらしい。
池田さんのおばあちゃん、オレンジの髪でピンクの眼鏡をかけてておばあちゃんと呼ばれるのがいやで池田さんはママって呼んでいるらしい。
写真を見せてもらったら素敵なおばあさまだった。

待ち合わせは朝7時。
本当は6時だったけど、なんやかんやと1時間後ろ倒しになった。
池田さんがマスクしながらでもわかるくらいめちゃくちゃ笑顔で現れて、私も出会い頭から早速笑っていた。
出口3から出ましょう、こっちが六本木ヒルズです、となぜか私は六本木に来たからには六本木ヒルズのほうに向かわなくてはいけない使命感に駆られた人みたいに案内する。
六本木知らないくせに。
高いビルとか見上げちゃダメですよね、田舎者ってバレるから、と池田さんは言いながら、けっこうビルを見上げてた。私も一緒に見上げてた。
とりあえず六本木のあのクモのオブジェのところに向かい、記念写真を撮る。通勤ラッシュこそズレていたけれど周りにまばらにいるのはどなたもおそらくこれから働きに出かける方々で、そんな中クモの足とともにポーズを決めて「はいチーズ」などとやってる私たちは浮いていた。※余談だけど、私は写真を撮る時にけっこう「はいチーズ」と言ってしまう。いつまで経っても。

池田さんは何かしら鳥を見るたびいったん追いかけて驚かしたくなっちゃう、小3男子みたいな人だった。
いつだってこの企画、滑り出しが不安なのだけど、彼女には不思議とそんなに不安を感じない。
というのも、不安を感じる暇もなかった。
ちょっと目を離すと勝手に鳩とか追いかけて走ってっちゃうわけだから。気がすむまで鳩を追いやるとヒョコヒョコと私の隣に戻ってきて、やっぱ朝の散歩いいですね!!とまだ歩き出して数分だというのにとても満足そうに池田さんは笑っていた。

六本木で見つけた公園は、滑り台がむやみやたらとあった。
こんだけあったら並ばずに済みますね、さすがロッポンギ、と池田さんは、前日の雨で濡れた滑り台に駆け上っていく。
たしかに。いつだってすぐさま滑れる。さすがロッポンギ。
適当に歩くのは毎度のことで、六本木ヒルズには出会わないまま、私たちは気づいたら青山にいた。
青山も、東京の女っぽいからまあいいか。と2人で言い合った。
つまり私たちはどこだってなんだっていいのだ。
青山を彷徨いながら、途中、ピッチピチのズボンを履いたお洒落なお兄さんに連れられた、羊みたいな犬か犬みたいな羊とすれ違う。今すれ違ったのは羊なのか犬なのかで談義をしたのち、「まあ青山に住んでたら羊くらい飼うか」と2人で羊だという結論を出した。
池田さんは、将来飼いたいペットがたくさんいるらしいのだけど、羊もいつか飼おうかなあと言ってた。
のちのち「羊みたいな犬」で調べたら、ベドリントン・テリアという犬種だった。
これも余談だけど、YouTubeでベドリントン・テリアの雪遊びというかわいい動画を見つけて何回か見てしまった。池田さんもよかったら見てみて。私たちが青山ですれ違ったあいつです。かわいいです。

池田さんは、自分の好きなものの話や、好きな人の話、未来の話を、惜しげもなくする人です。
おすすめの動画をどんどん私に教えてくれたり、ラーメンズの好きなネタを教えてくれたり、好きな曲とか、そういうもの全部、なんで好きなのかとかどこが好きなのかとか、つねに話が上手でびっくりした。オチまでちゃんとつく。
クラスメートだったら、盛り上げ上手で男子と女子の間にいつもいるようなイメージ。
普段は中野のバーで働いているそうだけど、盛り上げ上手のうえに聞き上手なうえに喋りもできるのでお客さんのおじさんたちから人気があって最近は若干困り気味。でも、たしかに、もてそう。だって楽しいもんね、池田さんと話してると。あけすけとしていて気持ちいい。そして湧き出る謎の包容力。
バーの常連さんであるエツオさん(70歳)は、パチンコ好きでお酒好きで下ネタ好きで池田きくのファンの1人で、撮影中もたびたび池田さんはエツオさんとLINEのやりとりをしていた。エツオさんがLINEを始めたときに交換したらしい。
暇なんすよねあの人、今から魚焼く♡とかLINEしてくるんですよ、と呆れてた。笑った。エツオさん、ロビン・ウィリアムズ似らしい。

池田さんと私の共通点、右足の靴紐ばかり解ける。
私も右だけめちゃめちゃ解ける。なんでだろ。
歩き方の問題なのか、いつも不思議に思っていた。
紐を結ぶところを撮っていたら、結び終わった彼女は急にキメ顔で顔をあげて笑った。
人をどこまでも貪欲に笑わせにくるから参った。
ちなみに池田さんが披露してくれた、「いちいち何か考えてる風の間がある人」の細かすぎて伝わらないモノマネが1番好きです。
あれは持ちネタなのだろうか。本当にみんなに見てほしい。1番好きです。
あと、彼氏目線動画風の女の子ごっこ。
あと、すぐ「大丈夫?」て聞いてくる人の真似。
サービス精神旺盛すぎて、私がちょっと何かしらを振ると全力で永遠にボケ倒すから代々木上原とか代々木八幡のあたりで私の腹筋はすでにいかれていた。
芸達者との散歩はしんどい。

小腹が空いた私たちはちょっと休憩したいね、せっかくだから純喫茶のような、雰囲気の良い場所で、と探しながら歩いていた。茶をしばくという関西弁がとても好きだという話を池田さんにしたら、池田さんは無駄にチャーしばきましょか?吉岡さんここらでちゃーしばいときます?と連呼してくれた。池田さんの関西弁が好きです。
なんなら青山くらいから渋谷を通り過ぎてずっと探していたので、スマホで調べれば何店かあったのだろうけど、この企画、特に決めたわけじゃないけどスマホで道を調べるのはあんまりしないんです、暗黙の了解で。
と私が最初のほうで言っちゃったのもあるし池田さんもそれはそうですよ同感です一切調べません!と言ってくれたのもあるし、私たちは純喫茶に出会うことができずいったい何時間歩いたのだろう。
チェーンのコーヒーショップを見つけると心が揺らぐけど、歩けば歩くほど私たちは「こんなに歩いたのに今更チェーン店に入るわけには」という共通認識のもと、歩いても歩いても見つからずただ歩き続ける時間が続いた。
人に聞くのはありにしようか…?あ、交番でお巡りさんに尋ねるのは…?お巡りさん忙しそうだし道に迷ってるっていうか私たちは半ば意地で自ら迷ってるわけだからそれはダメだろう。歩きながらお互いに様子を伺う。

さすがの池田さんもちょっと疲れ気味になってきたのかわりと私と話すペースが同じくらいになったなあとホッとしたけど、クラブミュージックダダ漏れの車が信号待ちでそばに止まると池田さんは突然踊り出したのでギョッとした。
こんなにナチュラルに踊り出す人いますか。
全然私と同じペースになんかなってなかった。喋らなくても彼女は踊るし疲れてても全力ふざける。
おにぎりとお茶とか持ってくればよかったー!とおにぎりあればもっとずっと元気でしたもん私、と池田さんは言った。…もっとずっと元気だったの?
内心ヒヤヒヤした。おにぎりがなくてよかったかもしれない。
次参加する方には「おにぎりと水筒持参」とか連絡したらいいと思います、と池田さんに言われたので、たしかに、今後は相手の様子を伺いつつ、そうしようと思った。

おちゃらけてばかりの池田さんの、自動車学校の教習所で出会った教官のヨコザワさんの話が好きだ。
当時21歳だった池田さんの、淡く短い恋のお話。
ヨコザワさんは塩顔でとっても真面目な人らしい。
彼女が真似してみせるヨコザワさんはちょっとほんとに好きだったの?とつっこみたくなるデフォルメ具合だけど、ヨコザワさんの話をする池田さんは可愛らしかった。
ある日の技能の教習の時。池田さんは別の教官と車に乗っていたらしい。車を止めた時にたまたま隣に止まった車に乗っていた教官がヨコザワさんで、窓越しに目が合って、ちょっと会釈とかしました。
と、池田さんが話してくれた。なんだそれ、きゅんとしました。
教習所を出てしまった今はもちろん接点はなくなってしまったわけだけど、あれいい恋だったわ〜いい恋しましたわ私、と池田さんは遠くの空の方見つめていた。

彷徨い続けて下北沢にたどり着いた私たちは結局、全くもって純喫茶ではないコーヒーショップで休憩した。
諦めるんかい。いいんかい。なんなんだお前ら。これまでのこだわりどこいった。でも看板だけはレトロでそれっぽかったから。白い椅子に白いテーブル明るい店内制服を着た店員さん、メニューを見てチェーン店ぽいことをお互い自覚して2人で笑い転げた。いいんかい!もういいよいいよ!疲れたもんね!と。
朝食のフレンチトーストを食べて、池田さんのヨコザワさんとの恋が進んだら妄想コントを見た。
フレンチトーストはあっという間になくなって、エツオさんの話をまた聞いたりして、お昼こそ純喫茶リベンジしましょうと池田さんが言った。写真のフィルムもあと数枚。
私たちはちょっとだけ電車に乗って、最後に新宿に向かうことにした。

もうそろそろ映画で言ったらエンドロール流れるか流れないか。
見知らぬ純喫茶に出会うことを諦めた私たちは、新宿のタイムスに向かった。到着する頃、笑いすぎのはしゃぎすぎでぜえはあしていた私はもうHPが限りなくゼロに近くなっていた。お昼を食べるつもりで入ったけど、この時すでに謎の吐き気を催していた私は、とりあえずバナナジュースだけを頼む。そんな私に遠慮したのか池田さんも、飲み物だけしか頼まなかった。
池田さんは煙草を吸いながら、でも私絶対どうにかなるって思ってるんです、とバナナジュースを無心で飲む私に言った。
私良い芝居できるようになります、面白い役者になりたいし、いつかなる自信あります、と、池田さんはきっぱり言った。かっこよかった。まったく根拠ないっすけど!とケラケラ笑ってた。そこも含めて気持ち良い人だった。
これまで経験してきたマイナスの感情も経験しなくてもよかったかもしれないことも、全部芝居にぶつける気持ちで、池田さんはいつだって走り出せるのだ。
それをいくら心の中で思っていても、恥ずかしげもなく堂々と口に出せる人って少ない気がする。私もきっと同じようなことを感じながら日々くすぶって生きているけど、池田さんの「面白い役者になりたい」という言葉はゴン、と私に真正面から激突してきた。

池田さんはこのあとカラオケ行きますか?!チャゲアスやりましょうか?!と相変わらず元気満々だった。是非行きましょうとせっかくのお誘いなのだから言うべきなことは百も承知で、私は「もう帰りたいです」と断った。

今度、中野のバーに遊びにも行きますね。
また散歩しましょう。

撮る人・文:吉岡晶
撮られる人:池田きくの
Twitter https://mobile.twitter.com/kikuno_i
Instagram https://instagram.com/i_kikino

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