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第12回 村多美咲と柴又

写真企画「本当は嘘なんだ〜27枚だけ撮らせてください〜」
https://note.com/yoshiokahikari/n/n44e069495a88

お元気ですか?突然ですが私もお散歩したいです、とTwitterでDMが来た。
彼女と散歩をしたあとにこれまでのメッセージのやりとりを見返すと、このメールを打つのに絵文字も改行も散々考えたのだろうかと思えてしまう。

待ち合わせは柴又駅に12時。
村多さんが決めてくれた。
あいにく朝からひどい雨で、わりと雨だからやめましょう、となるかもしれないくらいの雨で、でも雨だからやめましょう、とはならなかった。

どう考えても間に合うような時間の電車に乗ったはずなのに、京成浅草線が押上線に切り替わったあたりで何かがおかしくなり、10分遅刻することになってしまう。
このところ無遅刻を続けていたので(相手と相談して待ち合わせ時間を遅らせたのを除いて)、悔しい気持ちになった。
改札を出て、「着きました」と連絡しようとスマホを片手に歩き出したところで駅前のタリーズのガラス越しにお姉さんと目が合った。
お互いにああ、という感じになって、すぐに彼女は外に出てくる。
オンラインで話した1回こっきりを抜かすと、初対面だけど。
出会い頭に「あたま、いっしょですね」と言われ何事かと思ったら、髪型がお団子頭でいっしょだった。
同じお団子頭といっても私のは「寝癖と湿気」という感じで村多さんのお団子頭は「艶めきと和の心」という感じだったので、多分おそらく全然一緒ではないけども。

12人目に撮るのは、村多美咲さん。
去年の11月にパソコン画面越しに30分だけ話したのが初めまして。
オンラインのオーディションをしたとき、そのときはご縁がなくて一緒に作品を作ることはできなかったのだけど、とても話しやすくて楽しい人だった。
この時点で私が村多さんについて知っていること。

1.声優さん。
2.釣りが好き。

ひとまずお昼ご飯を食べることになって、商店街を歩き出す。
にゅうめんのお店を2人で選んだのだけど、なぜにゅうめんにしたのかはわからない。
そこににゅうめんのお店があったから。
これを書きながら考えていたけど、多分村多さんも、なぜにゅうめんにしたのかはわかってないと思う。

平日だしこのご時世だしひどい雨だったのもあってか、お昼時だったけどお客さんは私たち2人だけだった。
豚肉と梅のにゅうめんを選んで注文したあと、お店のおばちゃんが持ってきてくれた急須で村多さんが私の分もお茶を注いでくれたけど、ものすごい勢いでこぼしていてびっくりした。
ものすごい勢いでこぼしますね、と言うと、村多さんは肩を震わせて笑っていた。
いや、やったのあんただよ。
と、初対面だけど私も勢いよく突っ込んでしまった。

出会って数分だけど気づいたこと。
村多さん、とってもゲラである。
私の大してうまくもないお喋りも全部、顔くしゃっくしゃにして前屈みになってほんとのやつで笑うので、自分がとても面白いことを言えたかのように勘違いしてしまう。ウケた!と嬉しくなって同じツッコミを何回も繰り返すという至極つまんねえことをしでかしてしまう。
にゅうめんは風邪を引いていても食べられるくらい優しい味だった。体に良さそうなご飯もお茶碗いっぱいについていた。

かつしかFMでラジオ番組を持っている村多さんは、お土産に絶妙にださいステッカーをくれた。
どこかに貼るのにはかなり勇気がいるサイズ感だったけど、無類のシール好きなのでとてもうれしい。
それにしても無類のシール好きすらも動揺させる、どこに貼ったらよいかわからないサイズ感ではある。
かつしかFMとでかでかとロゴの入ったステッカーを、今日に限って小さすぎる鞄にすみませんという気持ちでちょっと曲げながら押しこんだ。
一緒に散歩をしてから1ヶ月以上経って、この間ついにいよいよどこかに貼ってみようと思ったけどどこに貼ったらよいかわからなかった。また改めて考えます。
文句みたいに言ってるけど、シール大好きなので嬉しいのです。

村多さんは俳優さんでもあるけど、本職は声優さんだ。
小さい頃から声でモノマネをするの好きで、「ミルモでポン!」とかよく真似していた。
ミルモでポンわかりますか、と言われてちゃお愛読者だった私は嬉しくなって深めに数回頷いてしまった。
人間じゃないものを演じてみたかったんです、と村多さんは言った。
声優だったら、妖精の役もできるし動物の役もできるから。たしかに村多さんは愉快な声をたくさん出せる。
19歳の時オーディションに受かり、そのまま声優の世界に飛び込んだ。
当時は旅行会社でツアーの添乗員をして働きながら、声優の仕事をしていたという。
映像のお芝居もするようになってからは、声優とは勝手の違う世界に戸惑うことも多いらしい。
よくあるのは大袈裟にやりすぎてしまうこと。
上手に引き算できるようになれたらいいんですけど、と言うけれど、リアクションの大きいお芝居は得意なんです、と自分の得意な部分をしっかり持っているからすでに強いなあと思った。
吉岡さんの作品に出てくる人たちとは私イメージがだいぶちがったかんじですもんね!大袈裟な芝居の役あったらくださいね!とさらりと言ってくるから笑ってしまった。
竹を割ったような人である。

洗濯機と一緒にお風呂に入っている、と素っ頓狂なことを言い出すのでくわしく聞いてみた。
村多さんのお家は、けっこう古いアパートだそうで、洗濯機を置く場所がお風呂場にあるらしい。
シャワーがここにあって、ここで体を洗うんですけど、このへんに洗濯機があります。
と、彼女はちょうど背中のあたりを指す。
なのでシャワーを出すと自動的に洗濯機もビシャビシャになってしまうから困っているという。
不思議な間取りですね、と私は言った。
書かれたくないことは話さなくていいですからね、とやっかいな悩み相談をされたくないがゆえに出会い頭に説明をしたからか、これ書いていいですからね!と村多さんはハキハキと言っていた。

にゅうめんを食べ終えた私たちは、雨の葛飾を再び歩き出した。
商店街の先に見つけた神社に足を踏み入れると、微妙に音の外れた寅さんのテーマ曲が流れている。
お金を入れると獅子舞が踊り出すゆかいなおみくじがあって、村多さんはおみくじを引いていた。
私は、おみくじは変なタイミングではあまり引きたくない派なのでやめておいた(引けよ)。

村多さんの好きな食べ物。脂質。
好きな食べ物を聞いて、回答が成分で返ってくるのは初めてである。
生クリームとか、ステーキの脂身の部分とか、胸やけしそうなやつ。
それを聞いた時、お昼は果たしてにゅうめんで大丈夫だっただろうか。絶対に違ったのではないかと心配になった。
1番脂質から遠い気がする。

どうしてその話になったのかはやはりあやふやだけど、苦手な人はいるのかも聞いてみた。
人の好き嫌いなどなさそうな感じのする村多さんにも、苦手な人はいるのか気になった。
少し考えてから彼女は、何を聞いても「ああ」としか言ってくれない人に出会ってしまった時は困り果てた、と答えた。そんな人いるのか。
単語のみ強めに返してくる、会話広げる気のない人は苦手かもしれないですね、と穏やかな顔で言っていたけど、それは村多さんでなくても苦手だと思うから大丈夫。そんな人私だったら早い段階で会話をあきらめる。
あとは、「地震大丈夫?」に自撮り写真を載せてツイートする人。
自撮り写真を見るのは大好きなのだけど、「地震大丈夫?」とともに自撮り載せられると、???ってなりますよね。とのこと。自撮り写真を観るのが大好きだからこそ、使いどころを間違えているとゆるせない。
私も人様の自撮り写真を見るのは時と場合と自分のコンディションによってはとても好きなのだが、地震大丈夫?を添えるのはだいぶよくないのはよくわかる。
自撮りに添える文章は「七味補充した」くらいがいいなとは思う。

SNSでいうと、村多さんはとてもツイッターが苦手らしい。
苦手というか、どんな些細な投稿でも必ず下書きをしてから挑むので、1つの投稿するのにとても時間がかかって疲れ果ててしまうらしい。
基本的に仕事の話しか呟かないようにしているけど、内容の精査はもちろんのこと、例えば今日にゅうめんを食べたことをツイートするとして、改行が変な位置に来ちゃったりすると気になって、にゅうめんの「めん」だけ漢字にしようかとか句読点入れようかとか、そういう細かいところもいちいち気になって、やっと文章が出来上がっても次は絵文字をどうしようかと、一難去ってまた一難の末にツイッターの投稿をしているという。
それは大仕事である。でも私もツイッターはそうでもないけど、こういう文章は書くのになんだかんだ細かいところが気になって何度も読み返して語尾を整えたりだなんだりして周りから見たらそんなに気にならないであろうことにほど時間がかかる。理由は微妙に違うとは思うけど村多さんの気持ち、少しわかる気がする。
でも村多さんのように石橋叩きすぎて石橋なくなるくらい見る人のことを考え尽くしてから投稿する人たちがもう少し多ければ、SNSももうちょっと過ごしやすい世界かもしれないですね。

私も村多さんも寅さんに特段くわしいわけでもないのだけど、寅さん記念館に向かって歩いてみることにした。
せっかく柴又に来たからには、所在地くらいは確認しておこうということになった。
道すがら、村多さんは韓国も韓国アイドルも大好きで、コロナになる前はよく行っていたという話をしてくれた。
多分私言われてもわからないと思うんですけど、ちなみにどのアイドルがお好きなんですか?と尋ねると、バンタンソニョンダンです、と村多さんは答える。
バンタン、…。
言われてもわからない、と前置きしたけれども3秒くらい勝手に気まずい感じになってしまった。知らない。あと村多さんの滑舌のよさをもってしても最後まで聞き取れなかった。
BTSと説明されてようやく聞いたことがあるグループだとわかった私は「あれですよね、大人気の」となんとも広がらない返事をする。
「あれだけ多分なんかでPVをみました、あれです、多分1番人気の最近の曲」と、下手に話を合わせようとするあまりに肝心な部分の単語はひとつも出て来ない私にそれでもニコニコと「どれだろう!?」と返してくれる村多さんは優しかった。あれじゃねえよ。無理すんなよ黙っとれ。と、私がファンだったら言ってしまいそう。
ライブで韓国に行くこともあれば、ライブに当たらなくても推しと同じ空気を吸うために行くこともある、と言っていた。本気である。
「何人グループなんですか(なんの質問だ)」
「7人です!」
「思ったより少なかったです(なんだこれ)」
「あれかな、ダンスが大きく見えるからかな」
このくだりの広がらなさが不甲斐なかったので家に帰って、BTSのことを調べた。
私が1回だけなんかで観たことがあったあれとごちゃごちゃ言っていた曲の名前は「Dynamite」であった。たまに鼻歌を歌って小躍りしてしまうくらいには聴いてみた。
なんならこれを書きながらも聴いてみている。
ハマらないように気をつけよう。

寅さん記念館を一応見つけたのだけど、位置を確認しただけで入ることはなかった。
土手のそばを歩いたりして、これ金八先生のとこじゃないですか?などと話したりした。
強風で私の傘がひっくり返るハプニングがあったのだけど、それだけで村多さんがケラケラと笑ってくれるので、得意げな気持ちになってもう一度いいかんじに風下に移動してかっこつけながらわざと傘をひっくり返すなどした。
100%この人にはウケると自覚するとひたすらこまめに笑いを取りに行く、私の安全運転型の芸人気質な部分を村多さんは大いに引き出してくれる。
村多さん、サービス精神旺盛でひたすら盛り上げ上手なのだ。

商店街の方に戻りつつ、気になるお店を覗いたりした。
昔ながらの駄菓子屋さんで、村多さんは溶かして飲む生ビール風の粉のやつ、を私の分もおみやげに買ってくれた。
私ばっかり旅のお土産をたくさんもらっている気がする。
自撮り棒を持参していた村多さんは、私と同じくらい、もしかしたら私よりも頻繁に写真を撮っていた。2人で撮りましょう、とたびたび言ってくれたので、私たちはたまに2人で写真を撮った。のちのち村多さんが送ってくれた写真たち、どれもこれも一応2人とも微笑んだり同じポーズをしたりして写ってはいるけど、なんだこの微妙に打ち解けてない感じは、と思ったものの、実際のところその通りなのだからやはり写真は本当のことが写ってしまうのかもしれないと楽しくなった。目が大きく、肌が白く、輪郭もあれなアプリで2人してかわいく写っていたとしても、関係性は嘘をつけないんだな。妙な位置で掲げた手のひらが可笑しく、見返した時は笑ってしまった。私も村多さんもどういう感情かわからない表情をしていた。
ちなみに村多さん、全然自撮り棒使いこなせていなかったけど。前は写真を撮ろうと自分から言い出すタイプではなかったけど、あとあと後悔することが多かったから、今はどんどん、写真を撮るようにしてる、と村多さんは言っていた。

雨も更にひどくなってきて歩き疲れたところで休憩をしようと、喫茶店に入った。
村多さんはクリームソーダ、悩んだ末に私はクリームあんみつを食べることにする。

緊急事態宣言のあいだは、どう過ごしていたんですか、と尋ねると「私ちょうど靭帯を切りまして」と恥ずかしそうに村多さんは言った。ちょうどとは。
あまり外に出られない分、運動不足にならないようたまにピンヒールを履いて外に歩きに行くことにしたらしい。でもいざ出かけようとした時にアパートの階段の縁のゴムが貼ってある部分にピンヒールが引っかかり、ピンヒールが脱げた状態で階段を転がり落ちたという。
もう痛くて立ち上がれないんですけど、おばあちゃんが階段の下から上がってくるのがわかって、なぜか私かっこつけてすごい這いつくばって階段上がって部屋に戻って。
彼女が話すその様子を想像したら、ほぼゾンビだった。それは言っていないけど。
拳ぐらいに足首が腫れ上がり、歩けないしどうしようかなと思って救急車を呼んだ。病院に行ったら、靭帯が切れていたそうだ。
「なので、コロナだからっていうか、歩けなくて、靭帯で外出られなかったんです」
足を高く上げておかなきゃいけなくて、足高く上げて韓国ドラマとかをずっと観て過ごした。オンラインオーディションも、靭帯切れていることはひみつにして下半身が見えないものは平気な顔して受けた。相手がまさか靭帯切れてるとは思わないだろうな。オンラインでよかったです、対面だとちょうど靭帯切れてるし行けないので、と村多さんは言った。
お風呂も1人で入れないし、旦那さんにほぼ介護のようにお世話をしてもらう日々が続いたらしい。
治ってよかったです。確かに、みんなが外に出られない時期に合わせて靭帯が切れた、という意味で、ちょうどよいタイミングではあったのかもしれないけど、ちょうどなのか?ちょうどか。

夜に亀有で稽古がある村多さんとのお散歩のタイムリミットは16時30分くらい。
その後の喫茶店で、個性をアクセサリーにする人たちについての文句や意見をなんやかんや話しすぎて盛り上がってわりといい時間になっていたもののあと10枚近くフィルムが残っていたので、あわあわと外に出た。
雨が横殴りに変わりつつある中、バタバタと残りのフィルムで撮った。
柴又の街並みも相まって、今回の写真はほんとうにただの旅行の記録写真のようになりそうだと思った。
遠出もしづらいご時世だけど、写真だけは旅行気分になれてよいかもしれない。

最後の最後に2人で撮りましょう、と言ってくれて駅の鏡を利用して撮った1枚。
どんな風になってるかな、と村多さんは楽しみそうにしてくれていたけど、多分これはフラッシュで私が飛んでいるだろうから結局ほぼソロショットだろうな、と思っていたことはなんとなく言えず、でも私はその方がちょうどよかった。

今日は村多さんを撮る日だから。

次は一緒に釣りに行きませんか、と駅のホームで村多さんが言った。
オンラインオーディションで会った時も、釣りの話をしてくれて、一緒に行きましょう、という話になっていたっけ。
その時よりはだいぶ現実味を帯びて、村多さんと並んで釣り堀に座っている自分が想像できる。
いきましょう。
ちょうど、ぼんやり釣り糸を垂らして考えごとをしたかったところ。
楽しみにしてます。
私との散歩のことを、村多さんのレギュラーラジオ番組かつしかFMで取り上げてくれたそう。
とても嬉しい。
本当に嬉しかったのに、私は平気で聞き逃した。
そういうことをしでかす自分がいやになる。

すみません。ありがとうございます。
また散歩しましょう。

撮る人・文:吉岡 晶
撮られる人:村多美咲
https://html.co.jp/murata33ki

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