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第10回 斎藤千晃と中野

写真企画「本当は嘘なんだ〜27枚だけ撮らせてください〜」
https://note.com/yoshiokahikari/n/n44e069495a88

27枚も撮れなかった。
というか、撮らなかった。
写真を撮るのをほぼ忘れていたので時々思い出したように慌てて撮った。

吉岡ちゃんの行きたいとこに行こう、と言ってくれていたのに、お金がないから中野がいい、と私は相当近所を指定した。
だいぶ前に話した時は確かいっしょに鳩バスに乗りたいなどと私が言っていたんだけど。
社交辞令ではなくたぶん千晃ちゃんは本気でいっしょに鳩バスに乗ってくれたはずなので、本気でいっしょに鳩バスに乗ってくれる人なんてそうそういないのに多分私は貴重なチャンスをむだにしてしまったと思う。
記念すべき第10回にして急に色々とサボり出す私を「まあいいよいいよ話せれば!」と笑ってくれた。
本企画史上1番歩いていない今回、現像した写真19枚を見たら背景がどれもこれも大して変わらずパラパラ漫画みたい。
色々と企画意図とずれまくっている。
まあいいか。
書くことも大してないから短くなってしまうかも、と後から謝ったら、全然いいよ!と返事がきた。
まあいいんだ。
斎藤千晃は、私のまあいいやをまあいいよで返してくれるので完全に1行目から甘えまくりの本格的に誰がどう見ても「まあいいや」な回である。

10人目、撮影するのは斎藤千晃。
私が千晃ちゃんについて知っていること。
鹿児島生まれ。
あとは。
酒と煙草。
あとは。
春か夏か秋か冬だったら夏と秋の間ってかんじ。は?
案外やっぱり全然知らない。
あ、話しやすい。
私は大抵の人にゆるキャラとかカピバラとかタヌキとかに間違えられやすいけど、千晃ちゃんは私の口の悪さも性格の面倒くさい歪みも勘づいているので千晃ちゃんには私が人間の形をして見えているはず。
マイペースなムードメーカーなようで実は周りをめちゃくちゃ見ているので、一緒になった現場で私が死んだ顔をしたり悩んだりしていると即座にフォローの連絡がくる。
何それ、私もそうなろう。(無理)
あと、ニッて笑う。
千晃ちゃん、笑顔がニッてしている。
私は敵じゃないよ!という感じの、安心する方の、本当に笑ってる方の笑顔の人。作り笑いとかしたことあるんだろうか。
作り笑いもきっと、本当に笑ってる方でできそうな人な気がするから侮れない。

そもそもまだ知り合ってそんなに経っていない。
スタッフ同士の時もあれば俳優と美術部の時もあれば俳優と監督の時もあったり、一緒の作品に関わった回数が単純に他の人より多いから、私の2020年だけで言えば千晃ちゃんとわりと会っていたほう。たぶん9位くらいに会ってる。微妙によくわかんない順位だけど。
私が初めて千晃ちゃんを観たのは2年前だ。
映画学校の同期の短編映画に出演していた。
そのときの斎藤千晃のお芝居が好きで名前と顔をしっかり覚えたはずだったけど、1年後くらいに別の作品でいよいよ出会った時千晃ちゃんは制作周りをテキパキ行うスタッフさんをしていて、なんと私は全く気付かなかった。
この話を多分本人には言っていない。

12時に中野駅待ち合わせ。
千晃ちゃんは時間を勘違いしていたり私は私でベッドからなかなか出られなかったりして結局1時間後ろ倒しで集まった。
13時。中野駅の北口で思ったより人が多くてオロオロしていると、遠くから斎藤千晃が現れる。
数分前にお茶とカフェオレどっちがいい?とLINEが来ていて、おちゃ、と答えた私に千晃ちゃんはジャスミンティーを買ってくれていた。
何度も一緒に作品を作ったことはあるのに2人きりで会うのはもちろん初めてだから、商店街を歩き出しながら何を話そうかなあと様子を伺う。
このあいだ神野さんを撮ったよ(斎藤千晃と仲良し)とか、そういう話をしたりしつつ、千晃ちゃんと普段私何話してたんだっけと私はけっこう必死に思い出そうとしていた。

毎回のことだけどどこに行くかなんて決めていない。
1杯だけお酒を飲むというのはどうだろうということになって、ドンキで金麦のロング缶をそれぞれ1本ずつ買った。
おつまみに千晃ちゃんはおしゃぶりするめ、私はじゃがりこのサラダ味を手に入れる。
私は、数年前に花火をした公園があっちにあったはずという曖昧な記憶を元に歩いた。

道すがらたこ焼き屋さんを見つけて、2人で店先で立ち止まり無言で見つめたりもした。
「おいしそう」とか「食べたいね」とか何も言わずに大の大人ふたりがたこ焼きを睨みつける長い長い無言の時間があったものだからお店の人もちょっと私たちのこと怖かったと思う。
あとでお腹の様子を相談して買おうと決めて、引き続き公園を探した。
でもこういうのって、あとで買おうって決めてあとでになったら全然買わないよね、と話したりした。

しばらく歩いて、公園を見つけた。
駅前はわりとごった返していたけど、ここまで来れば人もいない。
とりあえずベンチに腰をかける。
乾杯をする。いい天気だ。

斎藤千晃ここに書ける話を喋ってくれやな上に、書ける話を引き出すことが私の仕事なはずなのに今回に関しては全くむりだった。
冒頭の通り、サボりました。
ふつうにただ、愚痴の言い合いをしました。
反省しています。
書けることといえば斎藤千晃がおしゃぶりするめのケースを開けるのに苦労していたということ、おしゃぶりするめが思った以上に辛かったことだ。
花壇の花がきれいだね、とかももしかしたら言ったかもしれない。言ってないかもしれない。

斎藤千晃のことを私よりもよく知っている人は山ほどいるだろうけど私の前での千晃ちゃんは、自由奔放でテキトーな割に根っこは真面目なかんじがして、頼りになる姉貴っぽい感じがする。
あとなんか、アクセルとブレーキ若干壊れてる感じもする。溢れ出る行き当たりばったり感、でも次は何をしでかすかと気になる人。
次に会った時にもまたきっと、5、6個楽しい話が生まれていそうな人。
多分なんだって笑える話に変換する才能がある。
笑える話に変換するのにきっとそれなりに時間はかかるのだろうけど、斎藤千晃の変換プラグきっと最新型。

お芝居に関しては、逆にまったく行き当たりばったりではない、職人みたい。
アクセルもブレーキもそれぞれ100段階くらいありそう。
キャリアが長いからこその千晃ちゃんの悩みは「求められていることがわかるから意図を外れることは絶対にしない代わりに、予想外の芝居をして監督をワアッと驚かせることもあまりできない」ということだという。
経験を積んだからこそ自分にできることとか役割はわかった上で、やっぱり他の役者の芝居に悔しい思いをする。
でもまだ色々始めたばかりの地に足つかない監督もどきの私からしたらそれは悩みではなく絶対に強みだ。
千晃ちゃんは本当にすごい。
何を言ってんだかよくわかんない監督たちの何言ってんだか誰が聞いてもよくわかんない演出に千晃ちゃんがいろんな引き出しで応えていくさまを間近で見ていて、それがとてもかっこよかった。(こうやって一文にするとなんと嘘くさい)かっこよかったのだ。

千晃ちゃんに「いっしょにとりあえずダンス撮ったとき、私全然千晃ちゃんに演出つけなかったよね」と恐る恐る言うと、千晃ちゃんは例のニッとした笑顔で「うん!」と言ってた。
吉岡ちゃん全っ然何も言ってくれなかった!と。
やっぱり。だよね。

今から1年と少し前の私。
とりあえずダンスの第2話は、斎藤千晃と相手役の櫻井保幸さんに脚本とあってもなくてもどっちでもいいレベルの絵コンテとA4用紙1枚分のキャラクター表を送りつけただけでほぼ終わった。
元々千晃ちゃんと櫻井さんが知り合いだったこともあって、顔合わせも読み合わせもリハーサルもせず(その後色んな俳優さんやスタッフと出会って、本当はやっぱりできれば読み合わせやリハはしたほうが良いんじゃないのってことを知った)、ほとんどすべて本気の1テイク目の映像でできている。でもだからだめってことでなくて、だからこそ私は2話がとても好きだ。この話を踏まえてみんなもういっかい観てほしい。
まだ観てない人も観てほしい。

とりあえずダンス 第2話「うっちーとひより」
https://youtu.be/yI55LBQQ0cg

1年経った今振り返れば、最初に脚本を送った時に「この役ほんとに私で大丈夫かな?!笑」みたいな不安げな連絡が千晃ちゃんから来た気もするし、きっとヒヤヒヤしながら終始本当にこれで大丈夫か?と思いながら撮影を終えたのだと思う。
いやあ。今更特に何も言えないな。
何かの歌詞にありそうだけど、ありがとうとごめんねを贈ろう。
要らないだろうな。

「脚本を書いてると、登場人物が全部自分の話し方になるし自分の考え方になる。違う人を作れなきゃだめなのに」と脚本を書き始めて2年経っても解消されない私の悩みを明かすと、「でもそれを生きた人間にしていくのは役者の仕事だと思う」と千晃ちゃんは言った。
そういうことを言われると単純な私は甘えて調子に乗って、これ全部私じゃんと嫌になって昨日まで止まっていた筆が嘘のように進むよね。
ちょうど、どうせまたダメだろうなと思いながら脚本のコンペに応募をしようとしていたところだった私は千晃ちゃんの言葉にわりと元気が出た。

こういう言葉を瞬時にパキッと真っ直ぐ投げるから、多分千晃ちゃんに頼もしさを感じるのだと思う。
次斎藤千晃と何か作るなら、どんな役を書こうかな。
頼りにしてる。
頼りにされて愛される俳優だと思う。
なんとなく。えらそうに言ってますけど。

あとで食べるか考えようと言っていたあの美味しそうなたこ焼きはもちろん2人して忘れ去り、買わなかった。
ときめいたその瞬間に手に入れなければ、結局こうなるのはわかっている。
1本タバコを吸ったあと斎藤千晃は、ファミチキを奢ってくれた。
食べてないけどたこ焼きに負けず劣らずファミチキもいつも通りにおいしかった。

まだまだ多分、千晃ちゃんの本当のところはよくわかりません。
隠してるわけでも嘘をついてるわけでもないのに斎藤千晃、まだまだよくわかんないかんじがする。
そりゃそうだ。

千晃ちゃんに27枚撮って欲しいと声をかけてもらったとき、何でまた私に、と疑った。
最初はノリかと思ったけどのちのち正式に連絡が来たので、本当なんだ、と思った。
そしてやっぱり本当だった。
まだ19枚しか撮れていないから、残りの8枚はまた今度撮らせて。

私は斎藤千晃にもらったおしゃぶりするめの入れ物を握りしめながら(ギリで鞄に入らなかった)、家に帰った。
近所だったのですぐに帰れてとても幸せだった。
楽しかった、とあとで連絡がきて、よかった〜と思った。
家についてからおしゃぶりするめをまた食べたけど、やっぱり辛かった。

声かけてくれてありがとう。
全っ然散歩してないけど、また散歩しましょう。
散歩じゃなくても。

撮る人・文:吉岡晶
撮られる人:斎藤千晃(さいとうちあき)
Twitter https://mobile.twitter.com/movie____c
Instagram https://instagram.com/chiaki_film

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