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女子力の高いダークヒーロー

シドニー・ルメット監督「狼たちの午後」

1975年作。アル・パチーノ主演作の中でもベスト1に挙げる人も多い本作。私もかなり久しぶりに再見しましたが、ベスト1かどうかはともかくとして、若き日のキレッキレのパチーノにまた会えて嬉しかったです。

ソニー&サル!

ソニー(アル・パチーノ)とサル(ジョン・カザール)ともう一人の男の3人が銀行強盗するため押し入り、押し入ったはいいものの、いろいろトラブってすぐ引き上げられなくなります。なんせ3人目の男がチキっちゃってすぐ銀行から逃げてしまう(笑)。

仕方がないので、残ったソニーとサルはそのまま銀行内に籠城します。

主犯格のソニーは、警察の説得にも一切応じずにさまざま駆け引きを続けます。真夏の真っ昼間、汗だくになりながら、延々と続く警察との駆け引き。

ソニーの、その全く警察に屈しない様子が、警察に不満を持っていた庶民からの支持を受け、メディアにも取り上げられて彼は一躍「ダーク・ヒーロー」になっていく・・・というお話です。

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アティカ!!

特に面白いのは、現場に段々マスコミやら野次馬やらが集まり出した時のシーン。

集まってきた群衆を見て、ソニーは銀行の外に出て

「アティカ!思い出せ!アティカ!アティカ!」

と現場を取り巻く野次馬たちに向かって謎の言葉で怒鳴るんですね。すると、なぜか野次馬たちがその言葉に応えて拍手喝采します。反対に、その様子を見ている警察たちの困り果てた顔。

初見時、このシーンの意味が分からなかったんですが、改めて調べてみて、意味がわかると結構鳥肌モノです。銀行強盗中の重罪犯が、一瞬で民衆の心をつかんで「アイドル化」してしまう怖さ。

ジョーカー的シンボライズ!!!

そういう意味で、本作も「ジョーカー」と基本的な構図は似ています。「ジョーカー」のアーサー・フレックも、本作のソニーも、当人たちは全く意図していないのに、気づいたら反権力の象徴として祭り上げられている、という点です。

さて、肝心のそのソニーなんですが、勢いと気力は充分なんですが、なんせ心が優しい。まあ優しいこと優しいこと。

人質たちの食事の心配はするわ、人質宛てにかかってきた電話を取り次いじゃうわ、暑さにやられ出した病人を気遣うわ、こんなんじゃとても強盗なんかできるわけがない。

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一方の相方サルはというと、この人こそ一見冷酷非情に見えるけれども(ジョン・カザールの冷めた演技の凄いこと!)、結局は彼だって誰も傷つけないし、口ばっかり強気で計画性がない。こんなコンビなんだからそもそも強盗なんか無理。

それにしてもルメット監督の手腕! セルピコもそうだったけど、長尺をだれさせずに最後まで引っ張っていけるのは凄い。しかもこの映画は全編ほとんど銀行内、いわばワン・シチュエーション・ドラマと言ってもいいほどなのに、全然飽きない。脚本がいいからだよね。

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レオン!!!!

それに、中盤から突然出てくるレオンの登場で、予備知識なくこの映画を見始めた人にとっては

「えーー!!そういう展開!?!?」

と100%驚くはず。私も初見時ぶっとんだ。でも、決してLGBTをくさしたような描き方じゃないんですね。(レオンの電話を聞いていた周りの警官は笑ってたけど)。レオンの身の上が何だか切ないのです。

不思議なスパイス的存在感で、この映画がどこへ向かうのかわからなくさせるという点で、レオンはやはり不可欠でしたね。いい演技でした。

ドッグ、ウルフ!!!!!

あと、邦題がいいですね。原題は「DOG DAY AFTERNOON」で、訳すと「盛夏の午後」となるんですが、

その原題の「DOG」にかけて「狼たち」にしてるところが憎いですね。

---No movies, no life!That's why I am. That's all!!---

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