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地方国公立大から東大院(理学系研究科物理学専攻)に合格して気づいた対策法など

 私はこの記事を執筆している時点において地方国公立の理学部物理学科に所属している学部4年の学生である。素粒子の研究(宇宙のなぞ完全解明!)をやりたいと考えており、今の大学より充実した研究環境を手に入れるべく他大学の院試を受験することを決めていくつかの大学院を受験した。受験の結果、全ての大学院で合格することができたためどこの大学院に進学するか悩むことができる贅沢な身分となった。そんな合格した大学院の中でも東京大学大学院は多くの人が興味を持つ難関大学院の一つだと考えられる。実際、外部からの進学者も割と多い。しかし、外部からの進学者がある程度存在するにもかかわらず意外と情報が少なくて院試対策するとき困った。そこで筆記試験(物理)についての気づきをまとめておく。以下の内容がこれから東大院の受験を考えている人の対策の手助けになれば幸いである。

受験までの流れと私自身について

 まずは私が院試対策期間をどのように過ごし、どの程度の能力を持っていたかなどについて簡単に書いておく。興味がなければ読み飛ばしてもらって構わない。私は受験を受ける年の2月に実際に足を運び研究室見学を行なった。よく研究室見学をしたほうが受かりやすくなるという噂を聞くが少なくとも物理学専攻ではそんなことはなさそうだと感じた。実際、私は東京大学ではないが研究室見学を行なっていない大学院にも合格している。研究室見学は純粋に自分に研究室の雰囲気や先輩と自分の相性がいいかを判断するために行うことをおすすめする。理論系の研究室ではZoomでの研究室見学に対応してくれることもあるためとりあえず興味のある研究室の教授に連絡をとってみると良いかもしれない。研究室見学を終えて進みたい研究室を決めたらいよいよ対策を始めていかなければならない。私が院試の対策を始めたのは院試の半年前(3月)くらいである。本当はもっと後でもよかったのかもしれないが周りの受験生が優秀な東大生であることを考慮して少し早めのスタートを切った。参考までにその時の自分自身の成績を書くと、物理に関する科目と数学に関する科目はほとんどSかA(一番上のグレードと上から二番目のグレード)で英語はTOEICが640〜700くらいを行ったり来たりしているくらいだった(TOEFLは受けたことがなかったので参考になる数値はなし)。7月前半くらいまでは教科書を読み込むことを中心にやっていた。並行して東大院やその他の大学院の院試の過去問を週末毎に1年分ずつやっていた(全て合わせて20年分くらい)。過去問の解答はネットに落ちているものや類題、学科同期と協力しながら作った。7月後半から本番まではそれまでやった過去問の解き直しを毎日やっていた。この辺りで院試の問題が出やすい部分に気がついた。もっと早く気づいていれば対策が楽になったであろう。これについては以下で詳しく話そうと思う。

院試の科目について

 東大院理学系研究科物理学専攻の入試は物理(400点満点)、数学(100点満点)、英語(100点満点)の3科目からなる1次試験(筆記試験)とその合格者に対して行われる2次試験(口頭試問)で構成される。口頭試問の内容を含む試験自体の内容に関して口外することは禁止されているため研究室見学に行って院生の先輩に聞いても教えてもらえない。故に私も本番の試験について言及することはできない。したがって、この記事では私が過去問を用いて勉強する中で物理の筆記試験について気がついたことなどを書く。数学や英語についての詳細は別の機会に譲る。

 物理の問題は6問構成で例年は第1問が量子力学、第2問が統計力学、第3問が電磁気か古典力学で第4~6問は1問選択して解く問題で物性分野や素粒子分野に関する実験の問題である。つまり本番では4問解くことになる。合格点については明示されていないが、点数は高いに越したことはない。物理に関しては計算が煩雑であるが故に解答に辿り着けない問題は稀に出てくるが基本的な考え方がわかっていれば解ける問題がほとんどである。したがって物理に関しては満点を取るつもりで勉強するべきである。物理の試験時間は4時間であるため単純計算では見直しも含め1問あたり1時間当てることができる。時間配分については過去問を解く中で自分に合ったものを見つけてもらえれば良いかと思う。

第4~6問(実験に関する問題)の対策

 まずは実験分野の対策について書いておく。実験は物性分野の実験であったり素粒子分野の実験であったりテーマがさまざまで内容の予想がしづらい。対策としては過去問を好き嫌いぜずにひたすら解いていくことをおすすめする。そして出てきた実験に関することを調べるとより良いと思う。選択問題は自分の行きたい研究室と関連する分野かどうかに拘らず自分が1番得点できる問題を選ぶことができるかどうかが重要である。試験時間内にそれを見抜くためにもとりあえず全て解いてみるとどの問題が解きやすいかがわかってくるのでとりあえず手を動かしてみてほしい。実験に関してはこれ以上のアドバイスは特にない。実際これは研究室見学のときも先輩が言っていた方法なのでおすすめである。実験を捨てる人がいるという話も聞くが慣れれば得点しやすいのでやっておいたほうがいい。具体的に勉強した物理がどのように使われているのかを知る良いきっかけにもなると思う。

古典力学について

 古典力学については基本的に解析力学がメインである。Lagrangianを書くことができてEuler-Lagrange方程式を立てることができれば大抵の問題は解けると思う。したがってLagrangianを用いた物理の記述(振動子の問題など)に演習書を使って慣れておこう。そのほかは特殊相対論の基礎的なこと(ローレンツ変換とか)に関する問題も出ることがある。相対論は物性分野の人には関係ないと思われがちだが院試では古典力学の問題だけでなく実験分野の問題でも出題されるのでしっかり押さえておくべきである。剛体については東大ではあまり出題されない傾向にあるが他大学では頻出であるため基本的なことは押さえておくべきだと思う。今まで出題されていなくても来年出題されないとは限らない。しかし、Hamilton-Jacobiの偏微分方程式などの数学的に難しい内容は計算が煩雑になりすぎるためかほとんど出題されていないため余裕があれば勉強するくらいの気持ちで良いと思う。

 僕自身が用いた参考書をいくつかあげておく。教科書については原島鮮の力学 II: 解析力学がわかりやすくて良いと思う。(私は絶版になっているこの教科書の旧版を使っていた)

この教科書は後半で特殊相対論にも触れてあるため便利である。もちろんもっと詳しく書いてある教科書を使ってもいいと思うが古典力学に時間を使いすぎるのもどうかとは思う。演習では基本的に詳解シリーズを用いた。

もちろん全部解いたわけではなく苦手なところをピックアップして解いた。解答がわかりにくいところも多々あるため他の丁寧な演習書を用いるのも良いと思う。より院試の雰囲気を味わうために詳解と演習大学院入試問題〈物理学〉も解いた。これはコンパクトに院試の典型問題がまとまっていて解説も比較的丁寧でおすすめである。院試直前には力学はこれをよくやっていた。

有名な黄色い演習大学院入試問題という演習書は問題がたくさんのっているのは良いが解答の誤植が多いため一人で勉強するには向いていないという印象を受けた。

電磁気学について

 私は東大院試の中で電磁気学が最も難しいと思っている。理由は計算が煩雑になりがちであるからである。特に電磁波の分野はとても煩雑だと思う。出題範囲は電磁気全般だがとくにマクスウェル方程式が与えられてそれをいじっていく問題が多かったように思われる。以下では私自身が行なった対策を書いたあとに入試を終えて気づいた対策法を書く。

僕がやった対策としてはまず砂川理論電磁気を用いて電磁気全体を復習した。

この教科書は言葉足らずなところもあるが名著として名高い。内容も充実しており最後の方の特殊相対論の部分も古典力学の相対論対策として有用である。私が実際に電磁気の対策として読んだのは9章までである。問題には解答がなかったため解かなかった。また本文の間に挿入される[例題]の見方がよくわからなかった(例題なのに問題形式ではなかった)ため本文中の計算しか追わなかった。そして、教科書でやらなかった演習を補うために古典力学と同様に

を用いて解く練習をした。

 以上が自分がやっていた対策であるが院試の直前に気づいたことがある。院試に出題されている問題の多くが砂川理論電磁気の本文中に挿入されている[例題]に書かれているテーマと被っていたのである。つまり、砂川理論電磁気の[例題]をうまく問題にして解く練習をすれば電磁気の対策は十分であったことになる。これから受験を考えている人にはぜひ参考にしてもらいたい。

量子力学について

量子力学は最も得点しやすい分野だと思う。ぜひ満点を目指したい。私は受験勉強を始めてすぐの時、量子力学は3割程度しか取れなかった。しかし、以下の方法で勉強した結果ほとんど解けない問題はなくなったので以下の方法を実践してもらえればある程度力をつけることができると思う。

 私が主に用いたのは有名な猪木・河合の量子力学の教科書である。

この教科書は演習が本文中に挿入されており演習を行いながら勉強することができて便利である。解答も丁寧であるため自習に最適であると思う。院試の問題も基本的にこの教科書の例題や問題と被っているため対策本として有用であると言える。「量子力学1」の方は全て押さえておくべき内容である。「量子力学2」については最低でも9章の摂動のところまで押さえておくと良い。余力があれば12章の散乱までやっておくと安心だと思う。それ以降の相対論的量子力学に関する内容は出題されないと思う。私はこれだけで量子力学はほとんど解けるようになった。欲を言えば、ブラ・ケット記法について猪木・河合の量子力学ではあまり慣れることができないのでJ.J.サクライの「現代の量子力学 上」の前半を読むとより安心できると思う。

統計力学について

 統計力学は簡単な時と難しい時で差が大きい。故に対策に苦労していた。だが、出題されている問題の類題が多く乗っている教科書を見つけたので自分がやった対策の後にそれについても書こうと思う。

 自分で対策を始めた時は自分の大学の講義ノートで復習をして、久保亮五の演習書の例題と[A]問題を解くという方法で勉強していた。

講義ノートは標準的な内容であったため、その辺の教科書とおそらく変わらないと思う。この演習書については統計力学の内容のみしか見ていないが、はっきり言って難しかった。正直このレベルの問題がスラスラ解けるなら院試対策なんてしなくていいと思う。本自体は面白いので解く価値は大いにあるが院試対策としては以下の本をおすすめする。それはかの有名な田崎晴明の統計力学だ。

扱っている内容は標準的だが途中計算もしっかりのっていてわかりやすく説明も丁寧だ。そして初めに述べた出題されている問題の類題が多く乗っている教科書というのがこの本だ。全ての章を理解すればほとんど院試の問題は解けるようになると思う。特に優先すべき章は1巻の平衡統計力学の基礎、カノニカル分布の応用、そして2巻の量子理想気体の統計力学と相転移と臨界現象入門あたりである。ほかにも結晶の比熱や黒体輻射など頻出のテーマがあるので最終的には全て読むことをおすすめする。この教科書の流れを再現できるように勉強しておけば院試で要求されているレベルをクリアすることができる。

おまけ

 数学と英語についても少し触れておく。これらの科目は物理に対して配点が低いとはいえ重要な得点源である。物理ほど時間をかける必要はないと思うがそれでもある程度は対策しておいたほうが良い。(英語の試験に遅刻したけど合格したという例を知っているため総点が取れていれば問題ないと思われるが。)

 数学については物理数学をしっかり理解していればあとは過去問で練習することである程度できるようになる。教科書は各分野ごとに東大出版から出ている教科書をやっていたが、とくにどの教科書を使っても問題ないと思う。院試の問題自体そんなに難しくないため最も重要なのは過去問を解いて慣れることだと思う。

 英語については自分自身苦手であるためあまりアドバイスはできないがTOEFL対策本を買ってコツコツやっていた。

最後に

 どこで研究をするのかということはとても重要なことである。それと同時に何を研究するかというのも大事である。自分に最もあっていると感じる研究室を見つけたらそこがどこの大学であれ怖気付かずに挑戦してみて欲しい。大学院試はそこで研究したいという強い意志と長くても一年くらいの努力で突破できる。この記事が少しでもこれから東大院を目指す受験生の役に立ったのであれば嬉しい。

 以上は院試の対策についてであったが、院試はあくまで中継地点なので並行して研究のための勉強をしておくことをおすすめする。

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