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 先日、おおたとしまさ氏の著書『ルポ 教育虐待 毒親と追いつめられる子どもたち』を読みました。この本は、2019年に出版されました。内容としては、教育虐待のいくつかの事例について紹介されています。その後、少し視野を広げて「なぜそのようなことが起こってしまったのか」ということについて、教育やそれを取り巻く社会のこれまでの変化について書かれています。

 初めは教育虐待がどのように行われているのかを知りたいと思い読み始めました。この本はただ単に、こんなひどい親がいるのか、という話で終わるのではなく、子どもが親によって追い詰められてしまう状況がどのように作り出されたのか、それを歴史的に社会がどう変化し、それに合わせて教育がどのように変化してきたのかがとても分かりやすく書かれていました。
 今回は、この本読んで学んだことを記録していきたいと思います。

自分も親としての緊張感を感じていた

 教育虐待にあたるようなことを子どもにしてしまった親は、ただただ不安を感じていたのだと思います。
 私も父親になった時に、いろんな不安があったことを思い出しました。
 子どもが小さい頃から、芸術系の習い事をしたほうが良いとか、バイリンガルに育てた方が良いとか、昼寝は決まった時間にして規則正しい生活にした方が良いなど、、、親としての緊張感がありました。
親がきちんと育てないとダメだというプレッシャーを勝手に感じて、子どもに幸せになるように子育てを頑張らなければと思っていました。

 しかし、そこには自分の子どもを見るというよりも周りからの目を気にした子育てになっていたのかもしれません。
 もし勉強につまづいてしまったら、子どもは社会でやっていけるのだろうか、そうならないために早くから準備した方がいいんじゃないかという不安に駆られていたと思います。

 試験の点数で進路が決まる場合、どうしても勉強のできが気になってしまうのはある意味当然かもしれません。
 私が高校生を指導していた時も、社会に出てから求められるようなスキルを育てる授業を目指しましたが、大学に入るのに必要な点数を取るための勉強をやらざるを得なかったのも事実です。

他人と比べた「幸せ」はいつまでも満たされない

 ずっと競争原理の中で教育を受けていると、生徒たちに必要な「深く考える力」や「共感する力」を養う機会を設けることができないまま大人になってしまいます。
 多感な時期に、他人から点数で評価され、あたかもそれが人間的な価値のように押し付けられてきた生徒たちは、自分の幸せとか自分らしさよりも、他人からどう思われるか、評価によって他の人と比べた自分を見てしまいます。私も同じように育ってきました。

 しかし、自分が生まれ育った日本社会から距離を置き、自分と向き合って初めて、本当の幸せとは自分でしか決めることはできないということがわかりました。
 他の人から見て幸せな生活をしている人にも満たされない所もあるでしょうし、逆に一見不幸そうに見える人たちがいたとしても、その人たち自分たちは幸せだと思って生きていることだってあります。
 全く同じ経験をして、同じ価値観を持つ人間なんていません。そのため、誰かと比べた自分には足りないことが絶対にあるはずです。
 しかし、そこに目をやるのではなく、自分はどうありたいのか、自分の幸せは何なのかを見つけることができていれば、他の人と比べてどうかは関係ないと捉えることもできるのではないでしょうか。

 実際に日本は、「身体的幸福度」が高く、「衣食住の環境」でみても客観的には幸せな国と言われています。しかし、「精神的幸福度」が低いというのはこういったことも関わっているのではないでしょうか。

他人と比べないオランダで学んだこと

 オランダに暮らしてから、いろんなことを学びました。

初めに「子ども」は子どもらしくいて良いということ。遊びに夢中でどろんこになったり、何かに没頭したり、友達と遊んで喧嘩して、親といっぱい話してスキンシップをして、今日1日が楽しかったと思いながら幸せな気持ちを抱きしめて眠るのが良いと思うようになりました。
 子どもが何かをできるようになるタイミングは、みんなバラバラであって当たり前です。それを早い方が良いと焦るのではなく、今の子どもがやってみたいこと好きなことを飽きるまでさせる方が良いのだと言うことが分かりました。

 次に、「幸せ」というのは、経済的な幸せ(これは果てしない不安に襲われる)ではなく、精神的な幸せ(自分が自分らしくあって良いと感じられること)が大切であるということを学びました。これはオランダに暮らす人々との会話の中で感じたことです。

 最後に、「学校」という場所は、子どもたちを競争をさせる場所ではないということです。社会に暮らすみんなが幸せに生きるいくために、どのようにして人とうまく付き合っていくのかを学び、社会生活のために必要なスキルを身につけるところだということを理解させてくれました。

 仮に勉強ができるからその人が他の人よりも優れているとか、勉強ができるから偉いと考える風潮はあまり感じません。
 勉強ができる人は勉強ができる人の役割、勉強が苦手でも手先が器用とか、他の人とのコミュニケーションがとても上手とか、それぞれいろんな得意不得意を持つ人がいるからこそ社会が成り立つのであって、それぞれ一人ひとりが優劣を感じることなく、みんなが幸せに暮らせる社会がオランダにはあると感じました。

 もちろん地域による格差もあり、教育に関しても何もかもが優れているという訳ではありません。教員不足や、学校間格差などさまざまな問題を抱えているのが現状です。

 しかし、私が日本で高校の教員をしていた頃に感じた、「子どもたちの生きにくさ」を解決するために、オランダの人々の価値観はヒントになると思います。素敵な本との出会いによって、「幸せ」とは何かを自分の頭で考えるきっかけを得ることができました。

<参考文献>
・おおたとしまさ『ルポ 教育虐待 毒親と追いつめられる子どもたち』(ディスカヴァートゥウェンティワン、2019)
『レポートカード16-子どもたちに影響する世界:先進国の子どもの幸福度を形作るものは何か(原題:Worlds of Influence: Understanding what shapes child well-being in rich countries)』

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