受験生の学習方法を見直す - 日本に残った1年で私が高校現場で取り組んだこと①【016】
ここでは、私が日本の公教育から一度離れる前に公立の高等学校で取り組んだ実践内容について、特に大学受験を控えた生徒が多くいる3年生に関する授業面での実践記録をしています。
初めに、先日の記事で紹介した「3年生からもらったメッセージ」の中には、授業に関するコメントもたくさん書かれていました。その中で、私が取り組んできた授業がどんなものだったのかが分かるようなコメントをいくつか紹介させていただきたいと思います。お世辞も込みで書かれていると思ってご覧ください。
生徒からもらったメッセージを一つ一つ丁寧に読み返していると、自分の1年間の思いや行動が「子ども達の心に届いた」ことが示されているような気がしました。しかし、私がここまでできたのは、私の考えを受け止めて行動に移し、共に頑張ってくれた生徒達のおかげでもあります。そして、何よりもこういった形でそれぞれの想いを、最後に私に届けてくれた生徒達の気持ちや行動力に、感動と感謝の気持ちが絶えません。子ども達は、私たち大人が考えているよりもたくさんのことを感じ取り、いろんなことを考えて成長しているのだと思います。これからも子ども達一人ひとりが持つ力を信じて教育に携わりたいと思っています。
「概念ベースの学び」と「効果的な学習方法」をそれぞれ導入
私にとって2019年度は、現時点での教員生活「最後の 1 年」でした。この年は、1年生1クラスと3年生6クラスの授業を担当することになりました。それぞれの学年の状況に合わせて、高校1年生には「概念ベースの学び」、そして3年生には「効果的な学習方法」を実践しました。
ちなみにこの年度は1年生の担任だったのですが、自分の学年の生徒よりも3年生の方をたくさん担当するという不思議な組み合わせでした。1年生の授業に関しては、「概念をベースとした学び」や「持ち込み可の全問記述・論述形式の試験」、「クラス横断授業」を実施しましたが、これらについては別の記事でお話させていただいたので、ご興味があればご覧いただければと思います。ただ、これらの取り組みも完成されたものではなく、改善点はいくつかありました。
ここからは、3年生の学習指導についてまとめておきたいと思います。私の担当科目は「政治・経済」です。3年生の授業についても、これまでに少し触れてきましたが、もう少し詳しくここに記録しておこうと思います。1年生で行った「概念」を中心とした学びとは異なり、3年生の授業については、大学入試の問題傾向の都合で深く入り込むことがかなり難しいと思ったので、「効果的な学習方法の実践」として授業に取り組みました。
受験生活の後にも活きる勉強を
3年生の授業の特徴は以下のようになります。
授業というのは、生徒との信頼関係ができていないと充実度を上げることはなかなか難しいと思います。これまでに担当したことのない学年を、受験となるタイミングでいきなり担当するのは大変です。
そのため、最初の授業では自分がどういう人間で、授業を通してどんな力を付けて欲しいと思っているかを伝えました。この1年をただの苦しい受験勉強のためだけの1年として終わるのではなく、学んだことを言語化して他の人に伝えることでその学びはより深くなっていくという「効果的な学習方法」を身に付けて欲しいと思っていました。
さらに、受験までのスケジュールの立て方や勉強する科目のバランス、脳科学的な勉強法を生徒達に紹介しました。その内容は、主に「入試までのスケジュールを逆算して月ごと日ごとに分けて1日を大切にして計画的に勉強する」、「忘れることは人間としては当然のことであり、知識として入れなければならないことは理解してからでないと定着しにくいため、声に出して他の人に分かりやすく説明する」ということです。
講義形式の授業を受けることに慣れている生徒達が主体的に動けるようになるには多少時間がかかりますが、自ら考えて誰かに発するという活動を続けていくことで、徐々に生徒達もその方法に慣れてきます。また、コメントシートを毎回集めることにより、生徒一人ひとりが何か私に伝えたいことがあればそこに記入できるという形式によって、40人近くを一斉に指導しながらも一人ひとりとの繋がりを大切にすることができます。クラスによって差はあるものの、予習先行型で言語活動が活発な授業は、生徒の話し合う声がよく聞こえる心地よい授業となりました。また、生徒たちも自分が理解できていないところを認識できるので、質問も増え、質問そのものの質も上がっていきました。
講習会の演習でも言語活動を
夏期講習や受験を控えた講習会で演習を行う時も、解説をあまり好んではしませんでした。答えにたどり着く過程を、自分で勉強した資料などを見直しつつ、他の学習者と協力し声に出しながらフィードバックする方が理解を促すと私は考えているからです。
生徒は、問題を解き終えたら初めに迷ったところをペアの人に相談しアドバイスをもらいます。お互いに分からないところがあれば、近くの生徒に聞いたり自分たちで調べたりしながら、悩んだところをクリアにしていきます。その後、答え合わせだけをしてもらい、解説は配布せずにそのまま生徒同士でなぜ間違ったのかをさらに分析し合ってもらいます。そして、こちらから全員に共通して説明しておいた方が良いと思うところに絞った解説をした後に、解説を配布します。解説を先に配布すると生徒の注意をこちらに向けられなくなることや、全部の問題を解説してしまうと分かっている生徒にとっては無駄な時間になってしまいます。また、私が扱わなかった問題に対して解説を求める場合は、講習会の後などで個別で対応しました。
このようにアウトプットを中心とした学習で、一問一答のような形式ではなく自ら説明することによって知識が整理されていきます。穴埋めプリントや赤シートで隠す勉強は、私としては受験勉強を終えた先に活かせない勉強法だと思っており、むしろ自分でキーワードをつないで説明する方が学習効果が高いと考えていました。
4月は若干の緊張感があるので、生徒達はどんな形式の授業でも起きているのですが、やがて授業にも慣れてきて、気温が上がり体力的に疲れが見え始める季節になると居眠りをする生徒が出てきます。授業時間ずっと講義だけの形式は、受け身になってしまいどうしても脳が活発に動きません。そのため、教員の説明を聞いたり資料を読む活動(インプット)と、自ら言葉にして他の生徒とのコミュニケーションを取るためにメモ書きをしたり実際に話す活動(アウトプット)を授業時間内に交互に用意することで、授業内でのメリハリが生まれます。
これによって、生徒も楽しみながら理解を深めていくことができると思います。その方法に変えてからは、居眠りする生徒はかなり減ったと感じています。
1年間の取り組みしかできなかったのですが、受験勉強においても「主体的対話的な学習(「深さ」に関しては少し自信がありませんが)」の方が効果的だということを生徒からのフィードバックで確信しています。ただ、予備校に通っている生徒も多くいるので、自分の授業が直接点数に影響したかどうかははっきりとは分かりません。しかし、生徒達からもらったコメントを見ると、多少お世辞が入っているとしても全体としては一定の効果があったと思われます。
ただ、単年度での取り組みだったため効果を比較できなかったこと、この学習方法の効果を上手く伝えられなかった一部の生徒(講義形式や穴埋めプリントを求められる)もいたので反省点もありました。
「授業」についての議論は、私にとって「最高の時間」だった
生徒一人ひとりに個性があるように、教員一人ひとりにも個性があります。それぞれが自分に合ったアプローチを考え、それを試行錯誤しながら実践していくことで、生徒はあらゆる角度から刺激を受けることになります。そういった授業での取り組みについて、「しっかり考えたいけれど忙しくてなかなか難しい」と言っている同僚をたくさん見てきました。
良いアイデアは、緊張感のある忙しい日常の中ではなかなか出てこないと思います。私はかつて、科目や教員の経験年数を問わず他の先生の授業をできる限り見させてもらい、常に自分の授業を客観的に見るように心がけていました。そして、実習生なども交えて他の先生と一緒に授業についての議論をすることで、お互いに得意な進め方や上手くいかないと思うことをシェアしてきました。全ての先生とできたわけではありませんが、立場や経験を超えて協議するその時間は、私にとって最高の時間でした。
全てが満足のいく授業なんていうものは存在しませんが、自分の授業をより良いものにしていくために年齢や経験、専門教科をこえてみんなで知恵を出し合ったり、実践しているところをお互いに見て議論することはとても充実していたように感じます。これから教育現場の中で、少しでも業務が改善され、生徒達にとって最も大切である「授業」がより充実する方向に向かってほしいです。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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