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ジョン・ハッティ『教育の効果 メタ分析による学力に影響を与える要因の効果の可視化』学びレポート「私の問題意識」【316】

 よりよい教育実践をしたいと思った時、「どんな実践があるのか」または「その実践が研究ではどのような効果があると期待されているのか」を知るのはなかなか難しいことです。
 例えば小集団学習がどれぐらいの効果を出しているのか、その他学級人数を減らしたり宿題を出す効果など、これまでに行われてきた研究ではどれぐらいの効果があるのか、またその効果の高低にはどのような背景があってそうなっているのかを考える機会はなかなかありません。

 しかし、この本を読むことで現場で働きながらもそういった情報に触れることができます。ただし、教育実践に正解はなく、そういった環境設定や授業実践がどのようなことが要因でそういった効果になっているのかを考えることで、よりよい実践につながっていくと捉えるべきでしょう。
 例えば、「学級人数を減らした」としてもあまり効果が出ていないという結果を見た時、「だから学級人数を減らすのは意味がない」と捉えるのではなく、その背景を知ることで次のステップが見えてくるのです。本書では、学級人数が減ったところで「教師側が同じ授業方法を取ることが背景にある」と書いてありました。私たちはそこから何を学び、どんな実践をするのかが問われているのです。

 昨今、教育の変化が求められ続け学校のカリキュラムも大きく変更されました。しかし、今だに暗記中心の学習や、意義について疑われないままの校則に縛られ、子ども達の健全な発達を阻害する要因が学校の中にあります。
 ただ高い効果を求めるのではなく、ただ単に子ども達の成長を阻害するようなマイナスの効果をもたらすものを学校から除外するだけでも大きなメリットがあると思います。
 まずは、学校教育を取り巻く問題について考える上で、この本が自分の視野を深めることに役立ちます。今回はジョン・バッティ『教育の効果:メタ分析による学力に影響を与える要因の効果の可視化』を読んで学んだことを記録していきたいと思います。


私が感じる現在の学校教育の授業の問題点

「地獄への道は善意で舗装されている」

 これはヨーロッパの諺だそうで、良かれと思ってやっていたことが悪い結果を招いてしまうことを示しています。教育現場はまさにそんな状況と言えるのではないでしょうか。

 この本は、教育に関わる全ての人に対して、自分の過去の経験や成功体験に縛られず、目の前の子どもたちを見て絶えず新しい指導方法を模索することが重要であると示しています。
 私たちの価値観というものは、これまでの生活経験によって培われており、「自分がこれまでに受けてきた教育」が基礎になっているのです。そういった前提に無自覚でいると、今の子どもたちに合っていない方法を押し付けてしまったり、自分の無力さや勉強不足を子どもたちのせいにしたりして片付けてしまいます。

 そういった凝り固まってしまった価値観によって、新しい時代を生きる子どもたちが犠牲になってしまうことが残念でなりません。また、大人側も「子どもたちのことを思って」やることが、一生懸命になりすぎて裏目に出ていることに気づけない状況があります。
 「不易流行」という言葉にあるように、子どもの教育に関わる全ての人々(家庭教育、学校教育、その他学校外での教育に関わる人たち)は、時代の変化を捉えつつ自分が大切にしたい教育観をもつ必要があります。何もかも自分の経験に基づく考えに固執してしまい、自分の無力さを子どもたちのせいにしてしまうことは、社会全体にとっても大きなマイナスになります。

 今の日本の学校教育は変わろうとしています。新しいカリキュラムが施行されるようになり、時代の変化に合わせた教育を模索中です。
 しかし、学校で働く先生達は日々の業務に忙殺され、新しい考えを取り入れたりする時間的精神的な余裕がないために、これまでと同じ方法で授業をしてしまいます。ホワイトボードあるいは黒板にポイントを書き、それをプリントかノートに写させ、それを説明してある程度進んだら知識を問うことが中心になるテストをするといった具合にです。中には、黒板に書く時間を減らすためにスクリーンを使う場合もあるかもしれませんが、今度は子ども達がプリントに穴埋めをするのに必死で、進むスピードが子どもたちを、無視したものとなり内容がよく伝わっていなかったりすることが未だに起こっていると聞きます。
 この事例だけで学校の先生が悪いということが言いたいのではなく、学校の先生を取り巻く環境に大きな問題点があると思います。そんな時に、この先生が子ども達の反応を見て「もっと良いやり方はないだろうか」「違う方法で授業をした方がいいんじゃないのか」という疑問を持ち、それについて学んだり話したりする時間がなければ、先生達はどんどん判断する機会を奪われ、子ども達から視線が外れた教育をしてしまいます。

 私がかつて現場にいた時も、教員になりたての先生達は情熱で溢れていて、自分なりの実践をしようともがいていました。
 しかし、校務分掌や委員会なども業務が重なり授業内容を考えるための時間が取れず、最悪の場合は先輩の先生から新しい方法を否定され、自信をなくしてしまい思考停止状態に陥ってしまうところも見てきました。そして、目の前の子ども達の変化についていけず、やがては自信を失い、仕事を続けられなくなってしまったり、子ども達が持つ多様性や時代の変化を否定するような考えを持ってしまうこともあると思います。

視野を広げることで新しい思考ができる

 私は公立高校から一旦離れ、教育について一から学び直すためにオランダに来ました。そして、現在は子ども達の学習サポートをしながらいろんなカリキュラムを学んでいます。オランダ現地の学校、インターナショナルスクール、全日制日本人学校など、多様な環境で学ぶ子ども達の学びに外側からでありますが触れています。もちろん、現地校もインターナショナルスクールも学校によってカリキュラムは全く異なります。

 その中で魅力的に感じ共通していることは、子どもたちが主体的に学んでいる学校で行われているのは、知識の定着を最終的な目標にするのではなく概念的な理解を促す授業だということです。
 その概念的な理解を促す授業というのは、教える側は新しい時代を迎えるにあたってこれからの社会を生きる人たちに必要なものは何かということを理解していないと実践できません。これまでは知識がどれだけ定着しているかで評価され、それが社会的な地位や経済的な豊かさを手に入れることとつながっていました。
 しかし、今はみんなと同じことをしていても社会ではうまく生き残ることはできず、それぞれの個性を生かしながら多様性をうまく社会の発展に活かしていかなければいけません。
 だからこそ、教育に関わる者は時代の変化を感じる必要があり、それに合わせて日々の実践を振り返ったり、他者と議論して考えを深めていく必要があるのです。つまり、実践をしながら研究も同時に進めることが求められます。

実践と研究(Practice and Feedback)を繰り返すサイクルを

 それでは、研究とはどのようにすれば良いのでしょうか。それは研究事例について知ることから始まります。研究論文を書いたり、難しい研究論文を理解するところまでは必要ないと思いますが、研究事例に触れて自分の実践を相対化し、それを実践に活かしていくことがこれからの教育では必要です。少なくともそういったことを大切にしている国の教育レベルは相対的に高いと言えます。
 実践と研究の往来は、これからのVUCA(変化の激しい不確定で曖昧なという意味)の時代では不可欠で、これから社会に出る子どもたちに必要な力をつけるためには、私たちが同じ力を持ってなければならないのです。

 まずは、どんな研究事例があって、どういったアプローチが子ども達の発達に効果があるのかを知るには、この本は適していると感じます。
もし自分が大学生に戻れるのであれば、こういった本を使った授業を受けたいです。
この本の魅力とともに私がこの本から学んだことをこれから記録していこうと思います。

 以上のことから、こういった問題意識を持ってこの本から学んだことをまとめていきたいと思います。
 最後までお読みいただきありがとうございました。

<参考文献>
ジョン・ハッティ著、山森光陽訳『教育の効果 メタ分析による学力に影響を与える要因の効果の可視化』図書文化社、2019

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