「日本語A:文学」基本情報②キーワード[221]
IBDP「日本語A :文学」を学習する際に、おさえておくべきキーワードについてまとめていきたいと思います。ここで紹介するキーワードに関しては、日本語Aの学習が始まってからも使う概念が含まれています。作品を選定する時や、最終試験の準備として活用していただけたらと思います。
3つの探究領域とは?
「読者、作者、テクスト」
文学テクストの細部について、個人的な応答および批評を構築することに焦点をあて、読者・作者・テクストの間の関わりの本質を探究します。また、文学テクストがどのように創作され、読まれ、解釈され、反応があり、演じられるかを学び、文学の役割を探ります。その中で、テクストを通じ意味が構築される方法について考えるためのスキルやアプローチを育みます。ページの中の言葉、字面通りの意味、読んだ文学作品の種類、テーマ、登場人物、場面設定、ワードチョイス、そして形式的特徴について考察します。
文学テクストは、独自の思考や感情を表現する効果的な手段です。また、読者としての経験豊富な自らの観点も欠かせない要素となります。そういったテクストの特徴を理解し、それらがどのように意味を構築したり意味に影響したりするかを理解することで、複雑に構築された文学テクストの本質を見抜く力を付けます。
「時間と空間」
テクストと、その創作の文脈および受容の文脈との関係について探究します。テクストが、作者の暮らし、作者の生きていた時代などの多くの要素、また受容する側のコンテクストと作品の相関性などにどのように影響を受けるかについて学ぶためのスキルやアプローチを育みます。自分たちが読んでいる作品が、いかに暮らしや文化を表現し、反映し、そしてその一部となるかを探ります。
文学テクストは特定の文脈に即しており、ある時代と場所の社会的、政治的、文化的問題を扱っています。表現している文学テクストの創作と受け止める時では、それぞれの文化的、歴史的文脈が影響しています。
地理的に離れた文化が共通の慣習や考え方をもつこともあれば、近隣に暮らす人々が全く異なる伝統を守ることもあります。生徒は、そのような複雑な時間と空間を超えた社会の枠組みにおけるコミュニケーションの複雑さについて考えます。
文学テクストそのものが提示するアイデアや問題に焦点を当て、個人的、文化的な観点を考察し、より広いものの見方を養い、文脈と意味のつながりを認識します。
「テクスト間相互関連性:テクストをつなげる」
作者が自らの作品の中に、他の作家によるテクストとの明示的なつながりを持つことがあります。また、読者がこれまでに読んだ複数のテクスト間に広い意味でのつながりを見出すことがあります。そういった多様な文学テクスト、伝統、創作者、アイデア間のつながりに焦点を当て、テクストの比較・対比をするために必要なスキルやアプローチを育みます。テクスト間がどのように相互に影響し合い、広い範囲でテクスト同士がつながりあい、グループに分けられるかを学びます。
同じタイプのテクストや文学形式のグループ、年代やトピック、理論などの探究を通して、多様な文学テクストの類似点と相違点を探り、文学テクスト間の複雑な関係性の理解に基づいた批評を発展させることにも焦点をあてます。
7つの概念
「アイデンティティ」
テクストには、作者のアイデンティティーがある程度反映されていると考えることができます。しかし、たいていの場合、筆者とテクストにおけるさまざまな観点やヴォイス(語り手や登場人物の考え方や話し方の特徴)の関係は複雑になります。また、読者のアイデンティティーの関わり方も重要です。
作品中の特定の登場人物、または登場人物のグループのアイデンティティーがどのように表現されているか、また作品が作者のアイデンティティーにどのように関わるかに焦点をあてています。
「文化」
これは言語と文学の研究の中心とされています。テクストはある特定の文化的、文学的文脈の産物であり、それらがどう関わっているかを振り返ります。そのため、ある特定の場所、組織、グループの文化がどのように表現されているか、あるいは作品自体が特定の文化にどのように関わっているかに焦点をあてます。
テクストが創作と受容の文脈にどう関わるか、またテクスト中にあらわれるそれぞれの価値観、信念、態度とどう関わるかについても考えます。
「創造性」
創造性とは、読み書きという行為の基盤となります。また、読むことによって既存の解釈を超えた潜在的な意味を新たに生成する個人あるいは集団が持つ物でもあります。また、創造性の欠如が作品中でどのように表現されているか、また作品が作者の創造性をどのように表現するかに焦点をあてます。
「コミュニケーション」
作者と読者は、テクストという手段を介して関係性を持っています。作者が選択したスタイルや構成が、コミュニケーションをどの程度円滑にするかを考えます。また、読者のコミュニケーションに関わろうとする心構えの影響についても考えます。
コミュニケーションという行為、あるいはミスコミュニケーションが作品の中でどのように表現されているか、また作品自体がコミュニケーションという行為をどのように表現しているかについて焦点をあてます。
「観点」
作者、読者ともに自分自身の観点を持っています。さまざまな観点がテクストの解釈に影響を及ぼすため、批判的な見方とディスカッションが必要になります。作品の中に登場するある特定の観点や複数の観点、作品自体が作者の観点をどのように表現しているかに焦点をあてます。
「変換」
テクスト間のつながりに関する学習です。これは探究領域の1つでもあります。読者は個人的な解釈が異なるため、テクストを変換させていくとともに、テクストもまた読者に影響を及ぼしています。
変換または変換という行為が作品の中でどのように表現されているか、また作品自体が他の作品から変換され(テクスト間の言及を通して)、あるいは現実から変換される(読者のアイデンティティー、関係性、目標、価値観、信念への変換的影響を通して)ことなど、変換される過程に焦点をあてます。
「表現」
言語と文学の現実との関わりについて、文学作品は現実をできるだけ正確に表すべきなのか、もしくは現実から完全に切り離され自由でなければならないのかという議論が繰り広げられてきました。形式や構成が意味とどのように交わり関わるか、作品自体がさまざまなテーマや態度、概念を表現する方法、または文学が実際に現実をどこまで表現できるかに焦点をあてます。
4つの文学形式
主要文学形式は「詩」「劇」「小説」「短編」とされていますが、
「言語 A」の科目でテクストの分類に使われる4つの主要文学形式は、「詩」「戯曲」「フィクション」「ノンフィクション」となります。
◯詩:ソネット、俳句、自由詩、叙情詩など
◯戯曲:悲劇、喜劇、歴史、メロドラマなど
◯(散文)フィクション:小説、グラフィックノベル、中編小説、短編小説
◯(散文)ノンフィクション:ルポルタージュ,旅行記,伝記,歴史など
これらは、「言語A」で扱う文学作品を選択する際に必要となるPRL(指定作品リスト)の4つの形式にもなっています。
学問的誠実性
評価のために提出する課題をはじめ、すべての学習成果物は生徒自身が取り組んだものでなければなりません。「学問的誠実性」では、個人の誠実さと共に、他人のアイデアや作品への誠実さも求められます。つまり、他の人のアイデアや作品を認め、学習者のアイデアとは区別される必要があります。これは、日本で教育を受けてきた私にとっては大学生になってから初めて教わるような内容でしたが、探究や研究の基盤となるとても大切な概念です。それでは、学習者が求められることを以下に記載しておきます。
・出典を明らかにする。
・評価のために提出する課題で使用した文献はすべて明記しなければならない。
・著者名、発行日、文献名、およびページ番号は最低限盛り込まなければならない。
・引用符などを用い、参考文献目録中の文献を指し示す適切な記載。
・電子媒体の文献は、アクセスした日も掲載する必要がある。
説明を読んでいるとかなり複雑で難しいことを勉強しているんだという印象かと思います。これらの文章は、教える内容ではなく教える「概念」なので初めて読んだ時はかなり戸惑いました。しかし、IB生のサポートをする中で学習者に自由度の高い学習を与える大切な考え方だと今は感じます。IBに興味をお持ちの方に、IBについての情報提供としてお役に立てれば幸いです。最後までお読みいただきありがとうございました。
<参考資料>
・IBO『「日本語A:文学」指導の手引き2021年試験』
・IBO『学問的誠実性』、最終閲覧日2022.09.11
・IB ENGLISH A: LANGUAGE AND LITERATURE (HL)
Area of Exploration, Academic Honesty, 最終閲覧日2022.09.11
・MRS.H'S IB ENGLISH LANGUAGE AND LITERATURE, 最終閲覧日2022.09.11
※参考にした英語のHPは、どの団体もしくはどなたが作成かはっきりしないのですが、私のチューターサポートをしている生徒が担当教員から共有されたリンクだったので、私が指導の手引きと照らし合わせながら参照しました。
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