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日本語講師の手記

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子どもに日本語を教える仕事をしていて、感じたこと学んだことを記録しています。
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記事一覧

英語のスピーキングが苦手な私が、英語話者の大人の方に日本語レッスンをする【Aflevering.230】

 私は、日頃オランダで子どもを対象とする日本語教室をしています。最近、大人向けの日本語レッスンのご依頼をいただく機会があり、大人向けの日本語レッスンにもチャレンジしています。  日本語レッスンを希望してくれる方は、教室に通ってくれている子の保護者やその知り合いです。そのため、全くの0から始めるという学習者は少なく、それなりに日本語に触れてきた方が会話力を鍛えたり、日本語を学んでいて疑問に思ったことを解消するためにレッスンを受けてくれているという感じです。  そんな大人向けの

海外で育つ子どもの言語環境と情緒〜メリットとリスクを学ぶ【Aflevering.218】

 日本語(母語)がマイノリティである環境で、その力を維持し伸ばしていくために、保護者はどのようなサポートを子どもたちにしていったら良いのでしょうか?  私自身も保護者として、オランダで妻と子育てをしながら、オランダ語と日本語どちらも自信を持って身につけていってほしいと思っています。また、子ども日本語教室の講師として継承語教育のサポートに関わっています。  私が2020年から日本語教室で子どもたちの学習サポートに関わらせていただく中で、多くの保護者の方と子どもの日本語環境につ

子どもたちの日本語授業で大切にしていること(教材編)【Aflevering.210】

 私が現在行っている子ども向けの日本語授業では、いろんな教材を総動員しています。それは、日本の教科書、絵本、DVD、パソコン、YouTube、継承語教育用の教科書、おもちゃ、漫画、図鑑、ニュースの記事など、身のまわりにあるありとあらゆるものです。その中から生徒の興味・関心に合わせ、バランスを考えながら必要なツールを選ぶようにしています。 プリントではなくノート学習を また、子ども達が学習の積み重ねによる成長を実感しやすいように、プリントではなくノートを使った学習を心がけてい

時間割やカリキュラムに頼りすぎない「学び」の大切さ【Aflevering.206】

 日本語教室の少人数授業では、90分間日本語習得のために行う授業もありますが、日本のカリキュラムに従った国語と算数の両方を行う授業も行なっております。  今日は国語・算数連続した2科目の授業をする中で、科目の切り替えのタイミングなどについて考えたことを記録しておきたいと思います。 時間割がない?娘が通うオランダの小学校 日本の学校では時間割が組まれ、割り当てられた通りに授業を進めていく学校が大半かと思われます。しかし、そういったシステムは近代化の流れで取り入れられたもので、

子どもの日本語学習が「やらなければならないもの」から「やりたいもの」になるまで - ある生徒の成長記録③【Aflevering.203】

 これまで私が日本語の学習サポートをしているAさんの心の成長についてまとめてきました。  今回の記事では、その成長について私が日本語講師として感じたことをまとめておきたいと思います。 子どもの成長に必要なことは?子どもがもつ「生きる力」を信じること  私は保護者の方の子どもへの関わりや授業での先生の様子を見て考えることがあります。それは、「子どもたちを信じているのか」どうかです。  声のかけ方や子どもへの優しさ・厳しさはそれぞれにあって良いと思うのですが、その根底にある

子どもの日本語学習が「やらなければならないもの」から「やりたいもの」になるまで - ある生徒の成長記録②【Aflevering.202】

 前回の記事では、私が日本語を担当している生徒の成長について紹介をさせていただきました。 そして、今回はそのAさんを成長させたものについて分析していきたいと思います。 Aさんを成長させたもの1年間積み重ねてきた日本語学習  Aさんは現在、音読の読み間違いが減り、単語を単語の塊として認識し、意味が分かっているように感じられる音読ができるようになりました。自ら日本語の本を読むようになり、保護者にも読んでほしいというようになったそうです。テストの点数や成績などではなく、その子

子どもの日本語学習が「やらなければならないもの」から「やりたいもの」になるまで - ある生徒の成長記録①【Aflevering.201】

 今日は、最近心の変化が起きた日本語教室の生徒の話をご紹介させていただきます。まずは保護者の方からいただいたメッセージをご覧ください。  この生徒は、元々は日本語学習を嫌っている傾向があり、学習に集中するのが苦手な子でした。しかし、それから1年と4ヶ月が経過した現在は、自ら学習スケジュールを立て学校の勉強も日本語の勉強も両立して日々頑張ってくれているようです。一体この生徒にどんな変化があったのでしょうか?私の日本語学習の関わりも含めて記録しておきたいと思います。  誰にと

「継承語教育の絆」学び続ける大人たち〜「おひさまプロジェクト」さんとの談話〜【Aflevering.200】

 先日、ライデン大学にご招待をいただき「おひさまプロジェクト」の米良好恵さん、山本絵美さんお二人と海外での日本語教育について談話をさせていただきました。  私はかつて日本の環境しか知らず、海外での生活経験は一度もありませんでした。しかし、自身の教育者としてのスキルアップも兼ねて決断したオランダ移住から2年、手探りの中で海外での日本語学習のサポートについて考え実践してきました。あらゆる年齢と環境で育った子どもたちの学習サポートをする中で、少しずつ自分なりのアプローチが見え始めた

思わず納得した、生徒が語る「アニメ」の魅力(小論文基礎練習での話)【Aflevering.197】

 「私たち個人ができる体験は限られています。歴史が教えてくる人間の過去の過ちや悲しい事件を繰り返さないためにも、それを疑似的に体験することはとても大切なことだと思います。」  無知・無関心が最も危険な状態だと言われる社会の中で、私たちは世の中で起こっていることをどれぐらいリアルに感じることができているのでしょうか。また、過去の歴史から学んだことを忘れて新しい過ちをおかしてしまっていないでしょうか。  そんなメッセージを発してくれたのは、私が現在日本語のサポートをしている1

第1回「保護者のための『子どもの日本語』について話し合う会」報告【Aflevering.196】

「子どもの日本語をどうしていったらいいのだろう、、、」  日本人同士の集まりに参加させていただいたり、娘のプレイデートで他の保護者の方たちとお話をする中で、自分も含めて多くの方が子どもの日本語環境について悩んでおられることが最近分かりました。確かに現地の学校や英語を学習言語とする学校に通っている場合、日本語の時間をいつどのように取るのかは難しい課題です。 保護者がアウトプットをする場を提供したい継承語教育の中心は「家庭」だけれども、、、  かつて私は、中島和子氏『バイリン

小論文サポート(IB MYP)を1年間続けて分かった「小論文指導に必要なこと」【Aflevering.192】

 先日、MYPの"e-Assessment Official Exams"というMYPの最終試験が終わった生徒から、「日本語のレッスンの中で取り組んだことのある課題が3つも出題されました。これまでに日本語でしっかりと考えてきたテーマだったので、構成の組み立てもスムーズにできて自分の納得できる内容を英語で書き上げることができました。」という報告を受けました。私は、MYPの試験対策も英語の授業も全くしていなかったのですが、日本語の小論文の授業で積み重ねてきたものが、結果的にインタ

バイリンガル(マルチリンガル)の子は「新しい概念」を何語で学ぶのか?【Aflevering.184】

 2022年の4月を迎え、日本では新年度を迎えました。今日から新しい生活が始まった方も多いのではないでしょうか。  オランダでは9月に年度が変わるため、新年度を感じることはありませんが、公園などで桜を見ては春を感じています。  日本ほどははっきりしない4月ですが、今日は雪が降り積もっていました。私が住んでいる地域では、この冬は一度も目にすることがなかった雪景色を楽しみながら朝の時間を過ごしました。 ここ最近の振り返り  2月ごろから日本語教室の方も新たな問合せをいただき、

「大学受験で人生は決まらない、大事なのはその後だ」と伝えたい【Aflevering.182】

 私は8年間公立高校に勤めている中で、日本教育の一面である「過度な競争」に恐怖を感じていました。私が勤めていた学校では、予備校に行くために学校を休んだり、学校行事に参加したい生徒が受験勉強とどちらを優先すべきかを悩んだりしている生徒をたくさん見てきました。  そういう場面に遭遇しているうちに、学校が持つ本来の役割である「個性」を伸ばしたり、「社会性」を育てるような場所として、果たして本当に機能しているのかが分からなくなってきたのです。それと同時に、大学受験が生徒に与えるプレッ

自立型自習に必要な「読んで理解する基礎的な力」④ - 教育のための科学研究所のRSTから学んだこと【Aflevering.159】

 新井紀子氏の『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』『AIに負けない子どもを育てる』の両著書を読み、私が学んだことを記録しています。これまでは主に私自身の学習方法について振り返ったり、高校現場で感じてきたことを元に記録してきましたが、今回は現在の日本語教室で感じることや実践していることを記録しておきたいと思います。 海外での日本語教育から見えるもの 現在の私の仕事は、オランダで日本語教室をしながら、オンラインでも世界各地の様々な年齢の子どもたちの日本語学習のサポートを