幻の坂。

幼い頃の僕には、不思議な出来事がたくさんあった。

中でも非常に印象に残っているのは、

2度と見ることのできない、「幻の坂」である。

小学4年生の時、僕は転校をした。

吸い慣れない空気。はじましての人たち。

小心者な自分は、ますます縮こまっていた。

緊張していた。

そんな気持ちとは裏腹に、

新しい友達たちは、とてもフレンドリーだった。

当時はまだ背が低く、

少々小太りだった自分は、

色々劣等感を抱えたりしていたが、

そんな垣根を飛び越えて、

すぐに、仲良くなった。

放課後になると、

近所の商店に集合して、

自転車で、町中を走り回る。

とにかく自然にあふれていて、とても気持ちが良かった。

夏の頃には、汗もびっしょり。

暑くなると、

あの「幻の坂」へ向かうのだ。

一気に滑り落ちるかのように自転車で走り抜ける。

ぐんぐんぐんぐん、風を切る。

実に、爽快だった。気持ちよかった。

やがて、高学年になると、

クラスも変わり、遊ぶ友達が少し変わった。

それと同時に、遊ぶ中身も変わっていく。

時代はスーファミ真っ盛り。

どんどん、インドアな遊びに耽って行った。

そして中学校になり、バレーボールを始めた。

なかなか、スパルタな部活方針だったので、

後ろを振り返る暇もなく、

時は過ぎ去って行った。

そして、さらに時は流れ、

大学に入った、二十歳くらいの頃。

埼玉の大学へ入り、関東に出てきていたのだが、

初めて、地元へ友達を招待したのだ。

どこへ連れて行ってあげようか。

何をして遊ぼうか。

色々と思いを巡らせていると、

ふと、あの坂のことが頭をよぎったのだ。

無邪気に、我を忘れて遊んだ、楽しい記憶。

なんだか無性に行ってみたくなった。

そして、友達を連れて、自転車で向かおうとする。

いつもの商店を通り過ぎ、

あの坂を目指すのだが、なかなかたどり着けない。

あっちだったかな、こっちだったかな。。。?

頭は混乱するばかり。

似たような坂はあったにはあったが、

なんか違うような気がする。

あの時の、ぐんぐんと風を切るようなスリルがなかった。

あの坂は、どこへ行ったのかな。

本当に、「幻の坂」となってしまったのだ。

もしかしたら、いつも何気なく通り過ぎている坂が、

それなのかもしれない。

だけれど、あの頃のワクワクと新鮮な気持ちと純粋さが、

あの「幻の坂」を創りだしたのかもしれない。

あとは、強いて言うなら、

身体がでかくなりすぎて、体感が変わったのかもしれないね。

大きくなった今でも忘れられない、

大切な大切な、宝物なのである。




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