旅行記のまえがき
18歳の頃。僕は典型的な「やりたいことが見つからない若者」だった。心からこれが好きだ、と言えるようなものも、熱中して打ち込めるようなものもなく、毎日ぼんやりと中途半端に生きていた。「いつか何かデカいことがしたい」という曖昧この上ない目標を胸にそっと秘めたまま、流されるように大学生活を過ごしていたら、あっという間に時が過ぎた。歳を一つ重ねて19歳になった。
他人とは違うと思われたいくせに、自分をさらけ出して恥をかくのは嫌い。それなりに恵まれた環境で生きてきたはずなのに「誰かに認められたい」という気持ちが頭から離れない。自尊心と承認欲求にまみれた毎日はなんだかとても息苦しかった。
「人生このままでいいのだろうか?」
そんなモラトリアム真っ最中ですと言わんばかりの命題を目の前に、19歳の僕は至って真剣に悩んでいた。そして悩みに悩み抜いた末、一つの決断をした。今思い返せば呆れてしまうほど単純で陳腐な発想だったけれど、当時の僕にとってはそれなりに大きな決断だった。今さら恥ずかしがっても仕方がないので有り体に言おうと思う。
古今東西多くの「やりたいことが見つからない若者」がそうしてきたように、僕は「自分探しの旅」というものに出かけた。
それから時は過ぎて、気がつけば僕も25歳になった。けれどこれまで家族や知人、親しい友人にもこのときの旅について、詳しくは語ってこなかった。理由はとてもシンプルで、特に語れることが無いからだ。「自分を変えるのだ!」というアツい意気込みとは裏腹に、僕の旅はなかなかどうして地味だった。自慢できるような武勇伝もなければ、笑ってもらえるほどの失敗談もさしてない。もちろん貴重な出会いや経験はたくさんあったし、行ってよかったとは心から思っている。けれど「聞いて聞いて!こんなことがあってさ...」と語り出すに足るエピソードはあまり浮かんでこない。そんなわけで僕はこれまで、この旅の思い出を記憶の片隅にしまったまま過ごしてきた。
今回、ちょっとしたきっかけでこのnoteに文章を書くことになった。書くことだけは決まったものの、何を書いていいやら分からない。そんなとき、たまたまこの旅のことを思い出した。当時撮った写真たちを探し出して眺めていると、忘れていた記憶やその場所の感覚がじわじわと蘇ってきた。書いてみてもいいかもしれないな。僕はそう思い始めていた。誰かの興味をそそるような面白い話があるわけじゃない。「旅を通して価値観が180度変わりました」みたいな大それたことも語れない。けれど、僕なりに考えたことや感じたことはあったはずだ。それに、このままただただ記憶が薄れていくのもなんだか寂しい。よし、ひとつ頑張って書いてみよう。
---------
そんなわけで五年半ほど記憶をさかのぼって、当時の旅の記録を不慣れながら文章に残してみることにしました。すでに記憶がおぼろげな部分もあるので一部、想像に頼ることもあるとは思いますが、そこはご愛嬌としてお許しください。それらしくまえがきなんか書いてしまって少し恥ずかしいけれど、始めたからには挫折せずに続けていきたいと思っています。
海外旅行はおろか、国内の自由な移動もままならないこのご時世にこんな文章を読んでくれる物好きな方が一人でもいたら、僕はとても嬉しいです。
最初の記事はこちら↑