見出し画像

コロナ時代のワークスペース体験

コロナをトリガーとしたワークスタイル多様化への動きが速度を増している中で、インフラとなるオフィスの姿形もアップデートが求められております。どのようにアップデートがなされていくのか議論がはじまったばかりで、オフィス不動産事業者やオフィス設計事業者などオフィスに関するエキスパートの方々の動向を注視していきたいところではありますが、一方でこのたびのワークスペース体験の変化は、自宅スペースを巻き込むものであるため、専門範疇をオフィスに限定することも難しい面はあります。それはオフィスと自宅またはその中間にあるシェアオフィス、サテライトオフィスという多様なスペースを受け皿としたときに、前稿「オフィス不動産のあり方」で触れた多様なワークスペースの緩衝材としてのソフトウェアの重要性が増していることから、テクノロジー視点での考慮も必要であると考えています。

オフィスの類型

コロナ時代におけるオフィスは、感染リスクを回避するために、時空間の分割が必要で、そのためにはアナログでの対応には限界があるため、テクノロジーを使わざるを得ない状態となっており、デジタルトランスフォーメーション(DX)への大きなドライバーとなっています。この変化を中長期視点での人口減少、AI技術進化といったマクロ進化予測の観点で見たときに、コロナ時代はDXへ向けた、いわばPoC期間であり、淡水と海水が交わるタイミングとしてみることが妥当ではないかと見ています。

その前提のもとで考えると、コロナ時代に出現するオフィスの類型を整理するときに、オフィスは、より軽やかにフレキシブルに、スマートになっていくと考えますが、等しくすべての企業に一様に最適なモデルが当てはまるのではなく、企業のタイプ別に、大きく分類すると「V型」「S型」「E型」の3種類あると考えています。

1)V型

小規模企業をはじめとしたリモートワークで十分仕事が回せることを実証できた企業を中心に、本社機能をそなえたオフィス空間を作らない、V型モデル:「バーチャルオフィス+リモートワーク」のスタイルを取ります。主に30名ぐらいまでの規模を想定していますが、月数十万円の賃料を負担せずに、会社として最低限必要となる本社機能として、登記住所と郵送物の受取ができるバーチャルオフィスを月1万円ぐらいの低料金で借りて、実体としては中心となる空間を持たずに、リモートワークで会社運営をしていく方式です。バックオフィス機能は高度にデジタル化されており、チャットの活用、契約書の電子化など積極的に活用することで仮想オフィスを実現します。できるだけ紙をなくす方向に力学が働くので、郵送物の受取だけではなく、バックオフィス担当者の自宅への転送サービスがあるとバーチャルオフィスに対する価値がさらに上がりそうです。

画像5


2)S型

本社機能をシェアオフィスに移転するS型モデル:「シェアオフィス+リモートワーク」のスタイルです。主に数十名〜数百名規模の企業では、月数十万円〜数百万円の賃料を負担して、自社オフィスを専用で構えるよりも、割安なシェアオフィスを利用することでコストを抑えながらリモートワークを積極的に採用し、リアルのオフィス空間にはコミュニティ性を求め、リモートワークと組み合わせることでビジネスを推進していく形です。この場合、バックオフィス機能はシェアオフィスの中にある専有区画を契約することで、ベストミックスを推し量っていくことも可能なので、シェアオフィスが提供するサービスの戦略的な活用が求められます。このとき企業側としては、シェアオフィスに全席を用意する必要はないので、リアルのスペースを使う目的を明確に定めて社内に共有するとともに、スペース提供者(パブリック)と社内(プライベート)のプロトコル共通化を図ることで、ストレス摩擦が起きないようにスマートに運営していく必要があります。

画像5


3)E型

社員数の多い大企業オフィスを中心とした既存のオフィスをハイテクにアップデートするE型モデル:「エンタープライズオフィス+リモートワーク」です。S型のようにシェアオフィスを利用するケースもありますが、あくまでサテライトオフィスとしてであり、大企業の本社機能については、一定のシェアオフィス利用契約数を超えると、シェアオフィスを利用する方が逆にコストが上がってしまうため既にあるオフィス資産を有効活用した方がROIにかなっています。

画像5

また上場企業の場合は、コンプライアンス、ガバナンス、セキュリティを担保していく意味でも専用オフィスを利用する方が適切な選択となります。オフィスをハイテクにアップデートするトリガーは、感染リスク回避、生産性向上を同時に実現する快適なワークスペース体験への欲求であり、これまで人が対応していた業務は、理性的な意思決定によって無人化、省力化が進みます。大規模オフィスの場合は、概してオフィス内の人口密度が高いため、感染リスクだけを考慮したゾーニングを再設計すると、大幅に生産性向上が低下してしまう懸念が出てきます。そのためこれらのトレードオフを解決する新しいゾーニング設計が重要となってきます。


ゾーニングのアップデート

オフィスのゾーニングをアップデートするにあたり、これからのワークスペースは、リアル空間とバーチャル空間を組み合わせた形が理想であることを前提とすると、それぞれ融合と分割を図りながらどのように変化していくのがワークスペース体験の向上につながるのか以下の図をもとに考えてみたいと思います。

画像6

1)ミーティングゾーン

会議室と自宅を融合したミーティング形式は、そのバランスのよさから最もポピュラーなスタイルと言えます。感染症リスクを下げながら、ワーカーにとって場の選択の自由度を保つことができるため、ワークスペース体験の向上を期待することができます。たとえば、8名部屋の会議室は4名しか入れないようにして、残り4名は別空間から参加するといった形です。

画像1

この場合、次のようなワーカー共通のプロトコル整備が必要です。

画像9


2)コミュニティゾーン

オフィスはリアルならではのコミュニティの価値を創造していく方向にシフトしていきます。リアルならではの価値を想起するヒントは、「ウェビナーでは代替が難しいかどうか」という点です。たとえば、出会う目的が緩やかなイベントやセレンディピティを喚起するようなイベントはリアルならではの価値にフィットしそうです。また、企業という存在意義がますます重要になっていく中で、オフィスを企業存在の象徴として、社内メンバーだけに限定せずに、パートナー、地域社会などとのつながりを醸成していく場として活用することも予想されます。このとき不特定多数の人たちが出入りすることから、適切なチェックインの動線とセキュリティと心地よいUXを両立するためのテクノロジーの活用がコミュニティスペースに求められてきそうです。またWEBでのUXをリアルの世界に逆輸入する受容性の高まり期待から、大型モニターにアバターを表示して、自宅からの参加者も楽しめる新しい接点創造が促進されることを想定した設計も重要です。

画像9

3)ソロワークゾーン

感染症リスクの観点で、ゆるいゾーニングから、ある程度しっかりとパーソナルスペースを確保した設計が必要になります。プロトコルを保つためには、ソロワークスペース予約の仕組みが重要になってくると考えます。

画像9

ゾーン間移動のアップデート

エントランス、執務室、会議室など、それぞれのゾーン間の移動は、極力人を介さずにロボットやIoTに任せる方がいいでしょう。これは感染症対策にも生産性向上にも両方貢献します。オフィス内の物流、情報の対流を起こすのは、もう人間がする時代ではないのかもしれません。

画像9


まとめ

オフィス不要論をいくつかのメディアで目にすることがありますが、コロナ時代におけるオフィス需要は、オフィスかリモートワークかの二律背反なものではなく、来たるべき次の時代に向けたワークスペース体験のアップデートを人間が受け入れることを許容しているこのタイミングにおいて、理想的なワークスペース体験を構築しいていく上で、変化を引き起こすチャンスとも言えます。上記の考察を踏まえると、現状のシェアオフィスの供給量は圧倒的に不足しており、シェアオフィスのゾーニングは、これまでのゾーン設計から、次世代シェアオフィスへアップデートが求められています。そしてエンタープライズオフィスは次世代化に向けて感染症リスクと生産性の向上について、トレードオフではなく人を中心としたワークスペース体験の向上をベースに進化していきます。重要なのは人間のUXが損なわれないようにすることであり、コロナ時代をどう捉えるかは、物件価値の向上のために、人に寄り添ったワークスペースの体験価値を上げるための取り組みに他なりません。


最後に

私たちは、ワークスペース体験を高めるためのテクノロジーOSとしてWorkstyleOSを開発提供しています。SaaSのスタイルで提供しておりますので、OS自体が随時アップデート可能であり、変化に柔軟に対応することが可能です。ワークスペース体験の向上にご興味のある方はいつでもお気軽にお問い合わせください。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?