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さよなら青空。【4】
カランと瓶ラムネの揺れる音がする。
私と美夜子は今はもう使われていない廃れたバス停で暮れていくオレンジ色の空を眺めていた。
「駆け落ちって言うから何かと思えば…。」
「二人きりだから駆け落ちでしょ?」
一台の車がヘッドライトを光らせながら通り過ぎて行った。気づけば夕焼けはすっかり沈んで、遠くの方からは微かに祭囃子の音が聞こえてくる。
「あのさ、私は春の事好きだよ?」
先程クラスメイトが言ってきたことを彼女なりに気にかけてくれているのだろう。
暑さでくらくらする頭と触れた肩から伝わる熱のせいで好きの2文字に込められた意味を勘違いしてしまいそうになる。それでも何とかこの熱に都合良く浮かされないでいるのは、ここがどうしようもなく報われない現実だからだ。
「知ってる。」
「本当かなぁ。」
「どうかな。」
「冷たい…。」
「暑いし丁度いいんじゃない。」
「冷たいのはラムネだけで十分なんです〜。」
「そうなの?」
「もう…、せっかく元気づけようと思ったのに。元気じゃん。」
「大好きな美夜子のおかげだね、ありがとう。」
「…ずるいなぁ。」
いつも通りの会話。
友達だから軽口も甘い言葉も深読みされずに口に出せる。
私は美夜子のことが好きだった。
セーラー服に映える白い肌も喜怒哀楽のはっきりした表情も。こうやって元気づけようとしてくれる優しさも。
それなのに、好きだと自覚する度に自分の事を嫌いになっていった。
告白する勇気も無ければ、他の人との幸せを願ってあげられる訳でもない。どこまでもこの気持ちは中途半端で、それなのに友達という肩書きを盾にこうして今も甘い蜜を啜っている。
どうしようもない奴だと、我ながら思う。
「大分暗くなってきたね。」
「うん。」
「お祭り行かなくて良かったの?」
去年も一昨年も彼女は夏祭りの時期になる度に大はしゃぎしていたのに、今日は一言もその言葉を聞いていない。
「行くよ?明日。」
「え、誰と…?」
「ん。」
美夜子はすらっと伸びる人差し指を私を向ける。
それが私達の長くて短い夏の逃避行が始まった合図だった。