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アメジストの魚5-2
痛む心も濡れた手も、いっその事全部海に溶かしてしまえば楽になれるんだろうか。
愛する事も愛される事上手く出来ないまま、深海の底から揺らめく何かに縋りながら息をする。僕達はつくづく不器用にしか生きていけないだなと思った。
これが現実逃避にしかならない事はちゃんと分かっている。それでも、彼女が少しでも僕の手を受け止めてくれるのなら僕は最期まで君の為に生きていたい。そう願った。
「私、弱虫でだめだめなの。茅尋の優しさに甘えちゃうような狡い奴なの。」
エンドロールに掻き消されそうな小さな声で要が呟いた。
「うん」
「きっと苦しいよ、一緒にいたら。」
「そんなことないさ」
「きっと好きにならないよ…?」
「いいよ」
「また茅尋を置いて一人でどこかに行っちゃうかも。」
「その時は全力で追いかけてみせるよ」
「…ばか。」
「独りにしないって言ったでしょ」
そう言って僕は少しだけ笑って見せた。
「ねぇ、茅尋。」
「ん?」
「どんなに酷くて狡い私でも、泡になっちゃっても好きでいてくれる?」
「もちろん」
「…信じるね、その言葉。」
彼女はそう言って、唇を優しく奪った。
僕の人生の中で一番残酷で、切なくて、甘いキスだった。