さよなら青空。(3)
あの日もこんな風に茹だるような夏だった。
蝉がジージーと懸命に命を輝かせていた。
「南さんさ、正直やめた方がいいと思うよ?」
放課後、話したこともないようなクラスメイトが言い放ったのはそんな言葉だった。
「急に何。」
「クラスでは全然話したりしないくせに2組の須和さんとはよく一緒にいるじゃん?須和さん優しいから言わないだけで迷惑だと思うよ、南さんに付きまとわれるの。」
(あぁ、そういう事か。)
この子達は美夜子に近づきたい子か。となると、つまりこれは邪魔な私への嫌がらせらしい。
「私が誰と仲良くしても関係ないと思うけど。」
「…っ。」
「言いたいのはそれだけ?それならもう行くね。美夜子の事迎えに行かなきゃいけないから。」
「そういうのがうざいんだよ。」
「は…?」
穏便に済まそうと思っていたのに。ここまで突っかかってくるのは何なんだろうか。勝手にストレスの捌け口にされても困る。
一言言い返してやろうと私がクラスメイトに口を開いたのと同時に志鶴《しずる》が間に入ってきた。
「はい、ストップストーップ。翠春、熱くなんないの。」
「別になってない。」
「そっちの子も悪いけど翠春にあんま酷いこと言わないであげて。それこそ美夜子ちゃんが悲しむからさ。」
「…。」
「クラスメイトなんだからさ、仲良くしよ?」
「佐藤さんがそう言うなら…。」
「ありがとう。」
(志鶴の一言で丸め込まれるくらいなら最初からやらなきゃいいのに。)
「翠春、美夜子ちゃん待ってるよ。早く行きな。」
「ん、また明日。」
「あいよー。」
教室から出ると扉のすぐ側に美夜子が立っていた。
「え、何でいるの…?」
「ホームルーム早く終わったからサプライズ…?」
「何故に疑問形…」
「へへ。」
「…聞いてた?」
「ちょっとね。」
「ごめん。」
「春が謝ることじゃないじゃん、むしろ私のせいっぽかったし。」
「それはない。」
「そう?」
「そうだよ。あんなのほっとけばいいよ。」
「志鶴ちゃんに止められてたくせに。」
「う、うるさいな。それとこれとは別なの。」
「ふーん?」
「ほら、帰るよ。」
変ににやにやした彼女の手を引いて帰路につく。
じりじりと太陽が肌を焼く感覚がして、まだまだ夏なんだなと思った。
「ねぇ、春。」
「んー?」
「駆け落ちしよっか。」
「……は?」