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さよなら、青空。(5)

終業式が終わって夏休みが始まった。
案の定誘いを断れる訳もないまま私は美夜子と露店の並ぶ通りを歩いていた。

すれ違う人の多さに目が回る。時々ぶつかる肩が少し痛い。家を出るまで楽しみにだったはずなのに、今は熱気と慣れない浴衣の帯が苦しくてそれどころではなくなってしまっている。

「春、次ベビーカステラ行こ?」
「あ、うん。」
当然の様に私の手を引く美夜子は私とは真逆でこの空間をきちんと楽しんでいる。せっかく誘って貰えたのにこれくらいの人混みで耐えられなくなる自分が情けなくてまた気分が下がった。

「何か顔色悪いよ、大丈夫…?」
「大丈夫、思ったより人多くて少し疲れただけ。」
「なら花火までちょっと休もっか。」
「大丈夫だって、本当に。屋台回ろうよ」
「相変わらず嘘下手だねぇ。そんな青い顔されてたら私まで楽しめなくなっちゃうでしょ?だから、ね。」
「ごめん…。」
「私は寛大だから許してあげる。お礼はかき氷がいいかな。」
「ちゃっかりしてるなぁ、まったく。」

(でも、良かった。帰ろうって言われなくて。)

「飲み物買ってくるね、何がいい?」
「一人で?一緒に行く。」
「だーめ、春は休んでて。休憩にならないでしょ。」
「でも、」
「そんな不安そうな顔しないで。大丈夫だよ、すぐ戻ってくるから。」
「…わかった。」
「ちゃんと待っててね。」
「ん、ちゃんと待ってる。」

ひらひらと手を振りながら人混みの中に入っていく美夜子の背中はすぐ見えなくなってしまった。