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書評|『人生論ノート』三木清

京都帝大で西田幾多郎に学んだのち、ドイツに留学して、リッケルトやハイデッガーに師事、哲学者であるとともに、社会評論家、文学者でもあった三木清のエッセー集。
学術論文のような堅苦しさはなく、語るような筆致で「~について」の23項目が書かれている。

死について/幸福について/懐疑について/習慣について/虚栄について/名誉心について/怒について/人間の条件について/孤独について/嫉妬について/成功について/瞑想について/噂について/利己主義について/健康について/秩序について/感傷について/仮説について/偽善について/娯楽について/希望について/旅について/個性について

項目ごとワンテーマで深掘りしているだけに、筆者の考えが伝わりやすく、読みやすい。順番を気にすることなく、その時々で気になった章を読めば良いのではないだろうか。

幸福は人格である。(幸福について)
習慣を自由になし得るものは人生において多くのことを為し得る。(習慣について)
虚栄は最も多くの場合消費と結び附いている。(虚栄について)
ひとは軽蔑されたと感じるとき最もよく怒る。だから自信のある者はあまり怒らない。(怒について)

そうだよなぁ、と刺さる言葉が、ところどころに散りばめられていて、琴線に触れる。
三木清はベストセラー『嫌われる勇気』の著者として知られるアドラー心理学者の岸見一郎さんも学生時代に大きな影響を受けた哲学者。岸見さんは、この『人生論ノート』を読み解く本も出している。

『人生論ノート』にまとめられているのは主に、日中戦争が拡大を続ける昭和13年(1938年)6月から日米戦争がはじまる直前の昭和16年(1941年)11月まで雑誌『文学界』で連載されていたもの。今から80年近く前に書かれたものだが、ロングセラーとして版を重ね、今なお読み継がれていることからもわかるように、人間の内面を深く掘り下げた内容は、まったく色褪せることない。まさに昭和の名著といえるだろう。

進学や就職といったライフイベントを迎えた若者に贈りたい本といえば、D・カーネギーの『人を動かす』『道は開ける』が定番。最近では『嫌われる勇気』も人気のようだが、この『人生論ノート』もぜひ、そこに加えたい。

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