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真実は雪の中【サンタクロース】
夜の間に降り積もった雪にすべての音が吸い込まれ、とても静かな朝を迎えた。空に明るさを感じるようになった頃、イオリは目を覚ました。予想をしていなかったのだろうか。ぼんやりとした意識に真っ赤なブーツが飛び込んできた瞬間、パッと目を見開いた。
「わぁ!サンタクロースがきた!ばあちゃん、サンタクロースがきたよ!」
足を入れるすき間なくお菓子が詰め込まれたブーツを持って、台所に駆け込む。おばあちゃんは、やかんの取っ手で手を温めていた。鍋からコトコトと音が聞こえる。
「あら、イオリ、おはよう。サンタクロース来たみたいね。さっきお庭に出たら、ソリの跡がついてたよ。見てきてごらん。」
「ほんとに!いくいく!」
「はいはい。寒いから、ちゃんちゃんこ着てからね。」
「はやく、はやく。」
おばあちゃんが着せてくれる青いちゃんちゃんこは、イオリのお気に入り。もこもこして、動きにくくなるけど、誰かにあたためてもらっているようで心地よいのだ。
ガラガラとドアを開けて、勢いよく飛び出すイオリ。おばあちゃんも、後からゆっくり着いてきた。
「えー、どこ?ゆきがつもって、ソリのあとがみえないよ。」
「あらら。雪がたくさん降って、ソリの跡が消えちゃったみたいだね。」
庭は、雪に覆われていた。まだ誰の足跡もついていない。純白のじゅうたんを織り上げた白い妖精は、やさしく降り続けている。
「えー、サンタクロースにあいたかったのにー。」
「もう次のおうちに行ってるよ。子どもはたくさんいるからね。」
おばあちゃんが、遠くの空を見上げる。イオリも同じ方向に顔を上げた。雪の粒がひとつ、イオリの鼻に降りてきた。
「さぁ、朝ご飯にしようかね。イオリ、弟たちを起こしてきて。」
「はぁい。。こんどサンタクロースがきたら、すぐおしえてよ。」
◇◇
子どもの頃、週末はよく祖父母の家に泊まりに行っていました。その時の思い出のひとつが、冒頭の物語。
小学校に上がる前だったと思います。いつものように週末に祖父母の家に泊まったのが、たまたまクリスマス。山間部の町で、冬にはよく雪が降っていました。今では貴重なホワイトクリスマスも、当時は当たり前に近い風景でした。
「イオリ」は、もちろん僕です。ソリの跡は、本当に信じていました。広い庭は雪で覆われていたので、見ることはできなかったけど。
でも、見ていないのが、存在しなかった証明にはなりませんよね。
真実は、雪の中に。
◇
毎週テーマを決めて共同運営を続ける日刊マガジン『書くンジャーズ』。
今週のテーマは、【 サンタクロース 】でした。
天国にいる祖母を思い出しながら書いたのは、土曜日担当の吉村伊織(よしむらいおり)です。
今週も最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
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それではまた、お会いしましょう。
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