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天空の教室【 #こんな学校あったらいいな 】

「ほう、こわくないのか」
空の高いところから、声が降ってきた。

こわくないよ、と答えなければという指令みたいなものが心の中を横切ったけど、声が出なかった。目の前に広がる景色に、見とれていたから。

「強くなりたいと言うから、弱虫な小童かと思うたが、いい根性は持っとるのかもしれんな。ここに登れば、遠くまで見渡せる。あの山、あの谷の向こうにも、まだ先が広がっておる。強くなりたいなら、遠くを見るんじゃ。高いところから、ずっと遠くまで。人間なんて、ここから見たらちっぽけなもんじゃ。目先のことしか見えんやつは、どんどん気持ちも縮こまる。気持ちが小さくなったら、負けたも同然じゃ。」

そう言うと、急に右手のこぶしをまっすぐ突き出した。空の真ん中で何かが光った気がした。ヒュッと風を切る音がしたと思ったら、何かがふわりとその右手に止まった。鷹だ。

「こいつなら、もっと遠くまで見渡せる。さぞ気持ちよかろう。以前、ポルトガルの遣いが、地球儀なるものを持ってきた。この国は、ちっぽけな島国らしい。海の向こうに、まだまだとてつもなく広い世界があると言うのだ。わしは見たい。この足で歩きたい。そこに住む人間と話がしたい。ちまちまと立ち止まっとる暇なぞない。そう思うと、身体の奥から力がみなぎってくるもんじゃ。」

信長さんの話を聞いていると、僕にも力がみなぎってくるような気がした。

「なんじゃ、表情が変わってきたのお。こぶしも握りしめて。おぬしの心にも火が付いたようじゃの。いいか、今の気持ちを忘れるな。強くなりたいなら、遠くを見ろ。その先に何があるか、想像するんじゃ。ちっぽけなことに惑わされとる暇はないぞ。」

僕はお礼を言って、信長さんと一緒に天守をあとにした。信長さんを選んでよかった。心からそう思った。

6年生最後の社会の授業は、特別授業。歴史上の人物に直接会いに行って、話ができるというもの。僕が選んだのは、織田信長さん。強くなれる方法を知りたかったから。
僕は、友だちからバカにされたり、ちょっかいを出されたりすることがよくある。くやしくて、やり返したいけど、ビビって何も言えなくなる。何とかしたいと思っているときに、教科書に信長さんが出てきた。自分よりも強い敵に立ち向かっていくとき、こわくなかったんだろうか?どうやったら一歩踏み出すことができるのか、知りたいと思った。

歴史上の人物に会いに行けるのは、僕の学校だけのようだ。昔の校長先生が、エンマ大王に頼み込んで実現したらしい。子どもの勉強のためならと、エンマ大王が歴史上の人たちと交渉していると聞いた。どこまで本当か分からないけど、実際に会いに行けたんだからよしとする。エンマ大王さま、ありがとう。

信長さんに会って、強くなりたいと伝えたら、「ついてこい」とだけ言って階段を上り始めた。できたばかりの安土城は、木の香りが満ち満ちていた。一番高いところ、天守の最上階から見渡した景色は、とても気持ちがよかった。ずっと遠くまで広がっている。ちっぽけだった僕の心を、空に向かって広げてくれたような気がした。

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