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さいはての島へ ゲド戦記3

ゲド戦記の3作目。最終的には6巻まであるゲド戦記は、3巻までは間をおかずに出版され、その後18年経って4巻、さらに11年後に5・6巻が世に出ています。最初の3部作での完結編とも読めるのが今回の作品です。

1巻・2巻が、人の心の成長を描いたものだとしたら、3巻は、「死」と向き合う物語。タイトルにもなっているゲドが、若い王子と2人で、災いの根源を目指す旅に出る。倒すべき敵は、永遠に生き続けたいという欲望。

人は、生まれて、いつかは死を迎えるという、自然界の法則に逆らうことはできません。それを知っているからこそ、悩みも生まれ、時には必要以上の欲望も生まれる。生きたいと思う願望は間違っていないけど、さらにその上の別の力を求めて、自然界の均衡を狂わせる生物が、地上にはただ一種類存在する。それが人間だと語られる部分があります。

ただ生きたいと思うだけではなくて、さらにその上に別の力、たとえば、限りない富とか、絶対の安全とか、不死とか、そういうものを求めるようになったら、その時、人間の願望は欲望に変わるのだ。そして、もしも知識がその欲望と手を結んだら、その時こそ、邪(よこしま)なるものが立ち上がる。

>さいはての島へ - ゲド戦記3
  ル・グウィン著|岩波少年文庫 p.73・74より引用

ゲド戦記は、原語版の出版が第1巻で1968年、この第3巻は1972年。50年も前に作られた物語なのに、語られる内容は、今を生きる僕たちも考えさせられます。豊かに生きたいと願い、そのために努力することは間違っていない。でも、死を忌み嫌って避けているだけでは道を踏み外してしまうし、また、自分さえ良ければいいという生き方であってはいけない。主人公たちの旅が、食料も身なりも十分に整った遠征ではなく、最低限の荷物を積んだ船で広い海を航海であるのも、人生の象徴なのかもしれません。

大賢人でも悩みや弱さがあり、「する」ことをやめて、ただ「ある」という時間の中で、自分とは何者だろうと問い続けている。それを若い王子に語って聞かせるシーンも、心に残っています。

ファンタジーの物語だけど、大人がゆっくり読んで、自分の心の動きや生き方について考えてみたくなる。そんな作品です。

読書のきろく 2020年27冊目
「さいはての島へ - ゲド戦記3」
#ル・グウィン
#清水真砂子
#岩波少年文庫


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