見出し画像

はてしない物語【読書のきろく】

名作『モモ』の作家、ミヒャエル・エンデの作品。
重厚感のある単行本ではなく、お手軽な文庫版で読みました。本のつくり自体が物語とリンクしているので、単行本の方が迫力を感じられそうです。でも、文庫版でも問題なく楽しめました。あとがきでそのことにも触れられていて、本をつくる人たちの気持ちにも触れることができました。

この作品は、物語(それこそ「はてしない物語」そのもの)を読んでいる男の子が主人公。僕たちがファンタジーを読んでいる時の気持ちが、登場人物となって描かれているのです。主人公が現実世界の子どもとしてファンタジーを読んでいる前半と、ファンタジーの世界に入り込んで冒険してしまう後半があって、文庫版はそこで上下巻にわかれています。時間を忘れて物語に没頭し、ハラハラドキドキしている様子が、自分の心の中とリンクして物語にどんどん引き込まれていきました。

現実世界では自信がなくて内気な男の子が、物語の世界では救世主として存在します。何でも望みが叶い、強さや知恵を手に入れていく主人公。権力を手にして、思い通りに世界を動かしていけるようになっていく展開は、望みが叶って嬉しいはずなのに「何かが違う・・・?」という小さな不安が読み手の心に積み重なっていく。前半で、物語を読みながら登場人物に語りかけている主人公のように、自分がその子に声を届けようとしていることに気づかされます。そうしながら、自分はどんな「力」を身につけているのか、その使い方は間違っていないか、どんな意図をもって生きているか、と考えさせられます。

物語の読んで、その世界を体験することは、何らかの心の動きがあります。感じたり、考えたりすることで、現実世界で大切にしたいことに気づくこともある。それを放置せずに、ちゃんと持ち帰ってほしいという作者の気持ちが込められているように感じました。そのための演じ手がたくさん登場して、自分もその一人として投影することで、客観的に見つめることができるような気がします。

読書のきろく 2020年55・56冊目
「はてしない物語」 上・下
#ミヒャエル・エンデ
#上田真而子
#佐藤真理子
#岩波少年文庫


この記事が参加している募集

読書感想文

最後まで読んでいただきありがとうございます!少しでもお役に立てたら嬉しいです(^-^) いただいたサポートは、他の誰かのお役に立てるよう使わせていただきます。 P.S. 「♡」←スキは、noteユーザーじゃなくても押せますよ(^-^)