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空に描いた絵

「オリオン座、見たい?」
テレビを見ていたところに、いきなりお父さんが言ってきた。オリオン座って、理科の授業で出てきたやつだ。冬の星座。
「見たい!見たい!見えると?」

「じゃあ、靴はいて!すぐ見れるから。」
「はーい!見る見るー!」
弟もついてきた。玄関で靴をはいて、ガチャリとドアを開ける。先に出たお父さんが、マンションの廊下から空を見上げていた。手すりの高さは、僕のあごくらい。お父さんの隣に並んで、僕も空に目を向ける。月が白く光っていて、あとは真っ暗だ。
「どこ、どこ?」
「あら、ここから見えんね。駐車場まで行こうか。ちょっと待ってて。」
お父さんが、ひとりで部屋に戻った。お父さんはオリオン座って言ったのに、教科書に載っていたのとなんかちがう。月が出てるからくもりじゃないみたいだけど、星はない。ちょっと心配になってきた。

「鍵、取ってきた。下まで行くよ。」
戻ってきたお父さんは、図鑑も持っていた。『星と星座』、まだ見たことない図鑑だ。さっさと階段を下りていくお父さんを、僕と弟が追いかける。
タッ、タッ、タッ、タッ。
マンションの裏の駐車場に出た。廊下より暗くて、ちょっとこわい。
「月は、分かるよね。」
お父さんが、真上を指さす。廊下からも見えた、白い月。
「そこから、こっちに行って。」
お父さんの手が、右に動いて、止まった。
「この方向に、赤い星、見える?」
「うん!あった!」弟が言った。
「え?分からん。どこ?」
夜の空は、暗いだけじゃないか。本当に星なんてあるんだろうか。弟は、見えてないのに言っただけかもしれない。
「いい?もう一回、月からいくよ。この方向に動かして、よーく見てみて。」
「えー、えー、どこ?」
お父さんが、今度は僕の顔のすぐ近くで手を伸ばしている。目にグッと力を入れて、人差し指の向こう側を見てみる。見えろ、見えろ・・・。
ぼんやりと、赤い星が浮かんできた。
「あ!あった!」
すごい。さっきまで真っ暗だったのに、一度見えたらずっと見えてる。今、出てきたんだって言いたいけど、お父さんはさっきから見えてたみたいだし。ふしぎだ。

「ね、赤いやろ?そしたら、そこからまた動くと、この3つに並んだ星がある。」
図鑑を見ながら、お父さんが言う。教科書と同じで、「冬の星座」って書いてある。3つ並んでるのがかっこいいけど、本当に空にも同じものがあるんだろうか。
「うん、あるある!ならんでる!」また、弟が先に言った。
負けたみたいで悔しいけど、見つけられないのはもっと嫌だ。お父さんが図鑑をななめに持ち上げた。空と図鑑、代わる代わる確認する。さっきみたいに、この3つの星も浮かんできてほしい。見えろ、見えろ、と心の中でくりくり返した。
「あった!」
よかった。また星が出てきた。

オリオン座の形を図鑑で見ながら、お父さんが空を指さしていく。
「これが、あれで、こっちが、あれ。」
おもしろい、どんどん見えてきた。空に星で絵を描くみたい。

「ねー、冬の大三角ってどれ?」
お父さん、知ってるかな。図鑑にも載ってたらいいのに。
「オリオン座の赤い星があったやろ。そこから、下に行ったら、ここにも明るい星があるの分かる?」
お父さんが言う方向を見たら、白く光ってる星が見えた。向こうの屋根の、ちょっと上にある。お父さん、知ってるんだ。
「オリオン座のがここで、下の白いのがおおいぬ座の星で、ここ。もうひとつは、こいぬ座。」
図鑑の、次のページにあった冬の大三角。ひとつずつ見ていったら、空にも大きな三角形ができた。

昨日、オリオン座を見つけて書いた小説風日記。

今日は、視点を変えて、次男目線で書いてみました。

※illust by:kawasemiさん/ イラストAC

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