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コロコロ変わる名探偵【ショートショート】

いつしか人は、親しみを込めてこう呼ぶようになっていた。
「名探偵コロン」
見た目はサイコロ、頭脳はあるのか分からないけど、他にはない特徴がある。人の心を映し出してくれるのだ。

コロンを使いこなすには3年間の研修をクリアしなければならず、今日はその2回目の授業だ。生徒もリラックスできるように、学園の敷地内にある芝生広場で行われている。教授がクライアント役の生徒と向かい合って座り、コロンをそっと生徒の手に乗せながら語りかけた。見た目は、普通のサイコロだ。他の生徒は、手元が見えるように取り囲んでいる。

「こないだ、小さい頃にお父さんとケンカしたことを話してくれたね。そのことを思い出しながら、コロンを両手て包んでみて。」
生徒は目をつぶり、コロンを握りしめた。広場に、静かな時が流れる。
「それじゃ、開いてみようか。」
手を開くと、2、3、5の面が明るくなっていた。生徒の目が大きく開いた。教授が説明を始める。
「このサイコロの目は、僕らの心を映し出して光るんだ。1番から6番まで、順番に『喜、怒、哀、楽、愛、憎』の6つの感情が対応している。喜怒哀楽は、みんな聞いたことあるよね。そこに愛しさ、憎しみが加わった6つが、人の基本的な感情と言われている。」
教授が生徒たちを見回すと、うなずいて反応が返ってくる。みんな真剣な表情だ。
「あ、今日はメモらなくていいよ。一緒に見て、感じてみて。うん、今光ってるのは、2、3、5だね。これは、怒り、哀しみ、愛しさ、の感情だ。お父さんのこと、本当は好きなんだけど、分かってもらえなかったのが哀しくて、それで怒りを感じた。そう読み取れそうだね。愛してるからこそ、余計に哀しくなったとも言えるかな。」
クライアント役の生徒は、大きくうなずいた。教授が続ける。
「もちろん、今の解釈は、僕がコロンから読み取ったことだから、それが絶対に正解だとは限らない。コロンが人の心を教えてくれるから『名探偵』なんて呼ばれてるけど、大事なのはそこじゃない。これを糸口にクライアントの話をよく聴いて、気持ちを一緒に整理していくことが大事だ。発端になった出来事を客観的に見ると、真実はいつもひとつ。だけど、それをどう感じるかは人それぞれ。こちらの思い込みで決めつけたり、良し悪しを判断したりするのは、傷つけることにつながってしまう。」

「じゃあ、次は、みんなで海に遊びに行った時のこと思い出そうか。そうそう、夏休みに。その海の様子を思い出しながら、もう一回コロンを両手で包んでみて。」
指示に従って、生徒は再度コロンを握りしめた。いいよ、という教授の声で手を開くと、今度は4と5の面が光っていた。

ー 了 ー

毎週1回は書こうとチャレンジ中のショートショート。

お題にそった410字以内のショートショートを投稿するコンテストの記事を見つけて、そこのお題で書いてみたけど、残念ながら1000文字を超えてしまいました。大幅に文字数オーバーです。。。

短くするのって、難しいですね。

今日は、もっとじっくり取り組むための足跡を残した、ということで。

<いただいたお題>
「コロコロ変わる名探偵」

<発想>
・コロコロ変わるのは?→サイコロ
・何を調べる探偵?→人の心
⇒コロコロ変わって、人の心を映し出すサイコロの話

「名探偵コロン」は、お察しのとおりです。見た目は子どもの、あの探偵にあやかって名付けました。

「ショートショートnote杯」の募集記事はこちらです。

締め切りは11月14日。
リベンジします。

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