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僕とおじいちゃんと石垣【 #こんな学校あったらいいな 】

春のお花見には、毎年来ている。おじいちゃん、おばあちゃんも一緒に。ピンクの桜が山いっぱいに咲いて、とってもきれいだ。おばあちゃんが作ってくれる玉子焼きが甘くておいしくて、今年は8個食べた。
「ここにはな、昔でっかいお城があったんじゃ。海の向こうまで見渡せるお城じゃ。日本全国からたくさん強い武将が集まって、そりゃあ賑やかだったんだぞ。」
おじいちゃんは、ビールを飲んでほっぺたがピンク色になってきたら、いつもその話をする。おじいちゃんは、その中のなんとかっていう武将の遠い子孫らしい。だから、僕にもその血が流れていると言っていた。
「だからお前も、強くて立派な大人になれる。楽しみじゃのう。はっはっは。」
嬉しいような、よく分からないような、でも、おじいちゃんが楽しそうに笑うのを見るのは好きだ。

5年生になって、12月の最初の月曜日は、歴史探検の日。おじいちゃんが言ってたことが勉強できると思って、僕は楽しみにしていた。本当は、もっとあったかい時に行けたら最高だったけど。先生に、歴史探検を春にしてくださいってこっそりお願いしてみたら、「冬の方がいいんですよ。何がいいかは、行ってのお楽しみ。」とニッコリしながらスルーされてしまった。

名護屋城跡に着くと、ガイドさんが待っていた。バスから降りると、いきなりビューっと強い風が吹いて、帽子が飛ばされそうになった。風が冷たいし、桜は咲いていない。それどころか、木の葉っぱも落ちて、なんだかさみしい山みたいになっている。やっぱり春にすればいいのに、と思った。

ガイドさんにみんなであいさつをして、さっそく案内が始まった。風が吹いてきたら、帽子が飛ばされないように手で押さえる。僕たちの様子をみながら、ガイドさんがいろいろと説明をしてくれた。天守閣という大きな建物はなくなっていて、今残っているのは石垣や階段。山に沿ってわざわざ回り道をしながら登るようになっているのは、お城を守るために考えられて作られているそうだ。そう言われると、ただのゴツゴツした山だと思っていたものが、なんだかカッコよく見えてきた。大きな石で頑丈にして、迷路みたいにして敵をやっつける。無敵のロボット基地みたいだ。

城跡は、昔のお城があったところ。僕の家は、ずっと未来には家跡って呼ばれるのかな。そんなことも考えながら、一周回って最初の場所に戻ってきた。最後にガイドさんが話してくれたことで、何かがつながった。

「みなさん、今日はいかがでしたか?名護屋城のこと、分かってくれましたか?少しでも、ここが好きになってくれたら嬉しいです。ちなみに、私は、冬の名護屋城が一番好きです。冬になったら、場内の木から葉っぱが落ちます。草は枯れますね。そうすると、石垣が何のじゃまもなく一番きれいに見えるんです。桜の時期がきれいですねとおっしゃる方もいますが、私はこの石垣を見てもらいたい。昔の人たちが、ひとつずつ運んで積み上げた石垣には、強さと美しさがあります。石垣を見て、はじめて本当の名護屋城跡の魅力が分かるんですよ。」

先生が、冬の方がいいと言っていた理由は、こういうことだったんだ。ここには毎年来ているのに、いつも桜ばっかり見ていて、石垣のことは気にしてなかった。お城を支えてきた石垣。両足をちょっと開いて、グッと力を入れて踏ん張ってみた。石垣とつながったような気がして、力が湧いてくる。冷たい風も気にならない。

帰ったら、おじいちゃんに教えてあげよう。春もいいけど、冬にしか分からないことがあるんだよって。

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