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NYC: ホームレスなドア・マン

マンハッタンの McDonald は朽ち果てた感じがする。最下層の貧民がたむろする場所のような印象を放ってる。他の州に行くことは最近ほとんどないが、これほどマクドナルドが捨てられた感を発していたのを見た記憶はない。

どうして、マンハッタンのMcDonald はこうなったんだろう?

マンハッタンの飲食店の移り変わりは、異常に速いと思う。同じ場所に違う店が一年の間に二回も三回も開店しては、消えていくのを見るのは珍しくない。大都市はどこでもそうかもしれない。競争という概念がこんなに目に見えて現れる。

それだけでなく、McDonald はマンハッタンにそもそも合わない気がする。マンハッタンは常にキラキラしている。McDonald の柄じゃない。富の集積地なので、McDonald のターゲットとしては外れている。ツーリストか、数年滞在するだけで帰っていく駐在の人たちか、マンハッタンの外から働きにきている中・低所得層をターゲットにしているのだろうか。

McDonald だけでなく、全国チェーンのファースト・フードが合わないのかもしれない。バーガーキングやKFCもパッとしない。やはり寂れた雰囲気を漂わせている。

でも、例外がマンハッタン内にも一箇所ある。ハーレムだ。

ハーレムでは McDonald がちょっとおしゃれな店に見える。そこにいる人々も McDonald にそれなりの敬意を払っているように見える。家族でやってくる人たちには、ちょっと高級なお店に入る時の緊張感や、ヨソヨソしさが見えて、微笑ましい感じがある。

ハーレムの McDonald にはドア・ボーイさえいて、ドアを開けてくれるのだ。

正式のドア・ボーイではない。彼らは自分の職を勝手に作ったホームレスだ。McDonald のドアの前に立って、お客がくるとドアを開ける。給料はお客がくれるかもしれないチップだ。

チップをあげる客はほとんどいない。ドアくらい誰でも開けれるのに、ホームレスが勝手にドアを開けて金をせしめようという魂胆が嫌なのかもしれない。僕も彼らにチップをあげたことがない。

店に入って食べ終わる頃に気がつく ー 

また、あのドアを通って出るんだな。あの男がいるじゃないか。また、素通りをするのか。なんかなあ。

ドアの方を見ていると、店に入る時はホームレス・ドア・マンを完全無視していた客だちが、店から出ていく時に残り物をドア・マンに渡しているのに気が付いた。ずっと見ていると、次から次に出ていく客の三分の一くらいが何か渡している。たいていフレンチフライの残り物だが、たまにハンバーガーを丸ごと渡している客もいた。

なるほど、これがドア・マンの報酬か。

僕はもう自分のハンバーガーもフレンチフライも食べきってしまっていた。今からドア・マンのために何か買うのも変な気がしたので、今回はなしと思って、外に出ることにした。

ドア・マンは静かにドアを開け、入ってきた時同様、何もせびるような節がない。なんか言われるかと思っていたのだが、何も言わなかった。もう世界の冷たさに驚くようなホームレスはいないのだろう。

店を出てすぐに、僕はタバコに火をつけた。そこで、どっちの方向に行こうかと考えながら、タバコをすってると、ホームレス・ドア・マンが話しかけてきた。

あー、タバコくれっていうやつかと思った。ハーレムだけでなく、マンハッタンのどこへ行っても、タバコをすってると必ず一本くれと言ってくる奴がいる。奴と言ったが、男も女も若いのも年寄りもいる。かつては気軽にやっていたが、今は絶対やらない。くれて当然だという態度が気に食わないからだ。タバコくれくれが習慣になってるのだ。

でも、McDonald のホームレス・ドア・マンはタバコをくれと言ってなかった。彼が言ったのは、

タバコを捨てないでくれ

だった。

はあ?

何様、お前?ニューヨーク市の回し者?

ではなかった。彼が言いたかったのは、タバコを吸い終わったらポイ捨てする前に、火のついたやつを自分にくれということだった。

妙なこと言うやつだと思った。が、彼の動作を見てすぐに分かった。僕がすい足りたら、その後、火が消える前にすいたかったのだ。

間接キスじゃないか!

とバカなことを考えた。いや、僕がキスするわけじゃないから、まあいいか。そこそこですうのはやめて、残りを彼にあげた。彼は目をつぶって、これが人生最後のタバコかと思わせるくらい大きくすいこんでいた。

新品のタバコを一本当然のようにせびる奴にやるより、ずっと気分が良かった。


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