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読書感想文

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読んだ本や文章の感想を書いたものです。
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#物理

朝永振一郎「滞独日記」から学ぶこと

影響を受けた本は何冊かある。朝永振一郎 著・江沢洋 編『量子力学と私』に収録されている「滞独日記」もその一つだ。「滞独日記」はノーベル賞を受賞した物理学者・朝永振一郎博士のドイツ留学時代の日記だ。どこが好きなのかと言えば、ネガティブ発言のオンパレードなところだ。 例えば、「丁度自分一人とりのこされて人々がみな進んでいくような気持ちがするのである」「どうして自分はこう頭が悪いのだろう、などと中学生のなやみのようなものが湧いてくる」「世の人々のだれを見ても、自分より優れていると

『探求する精神』(大栗博司 著 幻冬舎 2021)読書感想文

大栗博司氏の著書は、『強い力と弱い力』や『大栗先生の超弦理論入門』など、これまでにも何冊か読んだことがあった。その度にいつも「なるほどなぁ」と学びながら、「学界をリードする研究者であり、かつ、こんな文章を書けるなんて、スーパーマンだな」などと思っていた。そんな大栗氏の新刊ということで、本書を手に取った。 本書は、大栗氏が半生を振り返りながら、研究や科学、大学や教育などについて自身の考えを記したものである。なので本書は大栗氏の回顧録のようなものでもある。バリバリ現役の彼がなぜ

『物理学者のすごい思考法』(橋本幸士 著 集英社 2021)読書感想文

本書は理論物理学者である橋本幸士氏によるエッセイ集である。彼の日常、そして、その日常を彼がどんな視点で見ているのかが記されている。それぞれのエッセイからは、彼が理論物理学者の眼で世界をどう捉えているのかが垣間見られる。 本書に描かれている橋本氏の日常には、大きく二つあると感じた。 まず一つは、家庭での日常。つまりは、夫や父親としての橋本氏の日常。もう一つは研究者コミュニティでの日常。つまりは、物理学者としての橋本氏の日常だ。 家庭での日常に関わる話題では、ギョーザの皮が

『コペンハーゲン』(マイケル・フレイン 著・小田島恒志 訳 早川書房 2010)読書感想文

この本に登場するのはニールス・ボーア、ヴェルナー・ハイゼンベルクという二人の物理学者とボーアの妻であるマルグレーテの三人のみである。そして、この本には彼らが原爆開発競争の最中、コペンハーゲンで交わしたとされる会話を史実に基づいて描いた戯曲が記されている。 三人のやり取りを通して、量子力学の黎明から原爆開発に至るまでのスリリングな内容がじんじんと伝わってくる。三人のやり取りは勢いが良く、彼らのつくり出す空気感に引き込まれていく。 物理学を学んだ者であれば、会話に登場する様々