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「追われ者 こうしてボクは上場企業社長の座を追い落とされた」クレイフィッシュ元社長松島庸(2002年4月、東洋経済)

1 「追われ者」を読んだ興奮

2022年12月の年末も押し迫った時期、本棚にありながら10年近くも読んでいなかった「追われ者」の背表紙を見て、ふと手に取り読み始めたら、止まらなくなり、1月1日に読了。
ダークな年明けになってしまった。

とはいえ、2022年正月も、確か最初のインパクトは、Netflixの4話もので見た「ジェフリー・エプスタイン:権力と背徳の億万長者」で、ダークだったので2023年の正月も似たようなものか。

「追われ者」は、会社での攻防、ソシオパスか、詐欺師かという人たちとの攻防を当事者が振り返るもの。赤裸々な敗戦の記。
読んでいて思い出したのは、許永中や、まさに良心を持たないというソシオパス、「バッド・ブラッド」で描かれたアメリカのテラノス社のエリザベス=ホームズといった人々の存在。いつの時代にも、どこにでもいるソシオパスの人々とそれに絡め取られて破れ去っていく人々。

「ジェフリー・エプスタイン」は、築いた社会的地位と財力を利用して、巧みに10代、20代といった女性たちを性欲のための物として扱ってきた様が、surviverとされる当事者や、傍観者だった関係者たちの証言で描かれたドキュメンタリー作品。
「追われ者」とは全く趣が異なる作品だけど、そこで描かれている人間の姿はある意味、同じに思える。

それは、まさに自分以外の人間の思い、傷に対して、無頓着で無関心で、踏み躙ることになんらの良心の呵責も感じることがない、自分の欲望だけに忠実な人物の姿。発言、行動。その思考。

2 人格の見極め

2022年、自身がまさに、些細なちっぽけな世界での出来事ではあったけど、まさにそうした人物とプライベートで初めて接触する経験をして、ある意味、こんなところに生息していたのかと驚愕する出来事があった。最後は、申込みのキャンセル代金6万円ほどだけどお金まで横領されるに至り。初めて、知り合いや従業員から詐欺や窃盗、横領被害に遭ったという被害者の人の気持ちがわかった。経済的被害は取り戻せたけど、その場その場の不合理な弁解、虚言癖だけではなく窃盗癖まであったのか、そんな人物がこの場所で目の前に現れていたのかとその精神的ショックはしばらく続いた。

過剰な演出で巧みに近づいてきて、からめとり操ろうとしてくる言動。
「追われ者」でも描かれているが、あれっ、というおかしな出来事が積み重なっていく中、まさか自身の身の回りにそのような人物がこの世に存在するとは俄かには想像できないので、ついつい正常バイアスでやり過ごしてしまうという姿。
ただ、弁護士登録直後の5年間だけだけど、刑事国選弁護(起訴された被告人の法廷での刑事弁護)や刑事当番弁護(逮捕された被疑者への警察署での接見、駆け付けアドバイス)の業務を行なっていたおかげで、犯罪を繰り返してしまう人々、親族にも見放されてしまう人々の言動、思考パターンを知っていたので、最後の最後、あっ、この感覚、刑事弁護をやっていた時に接した一部の人たちと同じ臭いだと分かり、改めて事実を確認して疑惑が確信に至り、思い切って離れられることができた。

2023年正月、2002年4月に出版された20年前もの出来事のドキュメンタリー本を読み、詐欺師、ソシオパスは、いつの時代にも、どんな場所にも現れる、社会では、その役職等に関わらず常に一定数、存在し、暗躍するのだなというのを改めて実感した。

大事なのは、違和感・直感を信じて、その元になるものをきちんと突き詰めるということ、流してしまわないということ、それは経営でも同じ。
詐欺師エリザベス=ホームズを描いた「バッド・ブラッド」でも、早々にテラノス社、エリザベス=ホームズの虚偽を見抜いて、信用せず、取引を打ち切った人物についても描かれている。一人は軍人だった。さすが。事実で確認していく姿が描かれる。安易に、正常バイアスや、言葉だけで流されない姿。

程度の差はあれ、世の中、どこにでもいつの時代でも一定数、存在する類の人々。
もしかしたら、自身もある意味、そうした一面がないとも断言はできず。

会社経営なんてしていたら、うまくいけば行くほど、そうした人々が近寄ってくるのはおそらく世の必然。
「詐欺師の周りには、怪しい人物よりも、むしろ、きちんとした人物のほうか多く、それゆえに詐欺が成功する。」(「追われ者」226頁)

納得。きちんとしているけど、詐欺師の本性が見抜けていない薄らぼんやりした人々が周りにいて、詐欺師は、猿回しのようにその人たちを猿として操っている。

「弁護士だからといって、誰でも正しい人物で、正当な判断をするわけではない、ということは覚えておいた方がいいよ。」(「追われ者」241頁)
これは、常勤監査役に見事に嵌められたらしい非常勤監査役の弁護士を評して、外部の弁護士が放った言葉という。

これも納得。意外にも、巧みなソシオパスの手にかかると情報操作で操られてしまう弁護士を私も見たことがある。本質を見抜けずに、ただ利用されてしまうだけの弁護士。耳元で囁いてくる人がいたら、なぜこの人は今、そのことを自分に伝えるのか、何をどう動かそうとしているのかと考えないといけないのに、そこに思い至らず、正義感を利用されて安易な行動をとってしまう弁護士の存在。

3 直感と裏どり


「追われの者」、面白かったわ。
2020年、2021年、2022年とこの3年間、仕事上でも、プライベートでも、スケールは本当、小さくてちっぽけなんだけど久々に間近に闇を見た、というか闇の勢力に巻き込まれて振り回され、関係を断ち切った経験があるからこそ、楽しめた。
仕事でもプライベートでも、常に、直感とその裏どりが大事ということ。