バレエ小説🩰グランジュッテ その8

それからの数か月、凜は基礎体力の向上と、軸の安定化を図るために腹筋や背筋に、以前にも増して力を意を注いだ。毎週日曜日は自習時間に充てた。その甲斐あって以前にも増してお腹が割れてアスリートのような体つきになってきた。脚にもアンデオールをする
時に見える筋肉が見えてきて、レッスンでアンデオールも少しずつ入りやすくなってきた。
「凜ちゃん!ドゥバンの足の低さひどい!」バーレッスンでデベロッペをやっている時にナナ先生の声が響き渡った。
「だいぶ筋力ついて、後ろは上がるようになったけど、デベロッペで全くキープできてない!そして、ドゥバンの低さたるや、目も当てられない!あのね~、いつも言ってるけど、仙骨を感じて、そこに腸骨を集めるような意識で身体を動かして!」
先生は容赦なくバレエ以外の専門用語を言葉を並び立てるから、凜は理解するのに必死だったり、自分の不甲斐なさを自覚するしかなかった。先生は骸骨の模型を使って良くレッスンをしている。仙骨や腸骨を始め、背骨の名称、筋肉の名称をよく覚えてる。それで、
出来るだけ意識しながら使うようにはしていたし、家での柔軟を欠かさずやってはいるけれど、時々混乱するし、頭で理解をしていても前側(ドゥバン)にだけはどうしてもうまく上がらなかった。
6 月も半ばになり、コンクールレッスンも佳境を迎えた。
「はい!次、凜ちゃんの番!いつも言っているけど、最初を大事にしてね!まずは幕から歩くところからやってみて!」
ナナ先生に促されて、スタジオの上手後ろに立った。左足軸のデリエール・タンドュをして大きく呼吸をしてから一歩を踏み出した途端に
「はい、ダメ― !やり直し!」
切り捨てるようにナナ先生が叫んだ。
「だいたいさ、パラレルで足を出す人いる?コンテじゃないんだから!クラシックバレエに内またはいらない!上手から出てくるんだったら左足のかかとをもっとアンデオールの意識しないでどうするの?しかも、上半身前傾姿勢だし!」矢継ぎ早に言いのけた。
コンクール前になると先生の口調はだんだん荒れてくる。言葉遣いに遠慮がなくなるけど、凜はそれがかえって嬉しく自分を奮い立たせてくれるように感じた。
「それから~!」
先生がゆっくりとした口調で続けていった。
「凜ちゃんはね、後傾骨盤だから、腸骨筋が前から言ってる通り、伸びにくいの。だからそれに伴って、広背筋を硬く使ってしまっているし、上半身が前傾姿勢になっちゃうの!
自分の弱点をちゃんと知って、それに適したストレッチをしていかないと、一向に進歩しないでしょ?ストレッチや練習はやみくもにやっても無駄な筋肉付くだけだから、もっと自分の身体を研究しないと!」
「はい!」
と答えたものの、頭の中で整理する必要があった。
稽古場の骸骨を思い浮かべながら、骨盤の位置を思い浮かべてそこにあるはずの腸骨筋や広背筋の位置を確認した。
「後傾骨盤という事は、骨盤が前に倒れているから、上半身が前になっちゃって… 。それを立たせようとすると腸骨筋が突っ張って邪魔をしてるんだ。それから広背筋は… 」
と言って、両手を腰に当てて広背筋を触ってみた。
「あ、確かに硬い。なんで、先生分かるんだろう。」
先生が指摘する通り、自分でも腸骨筋が伸びづらいのは知っていた。そして、今、広背筋が硬くなっているのを確認した。
「ママにたまにマッサージをしてもらうけれど、自分で改めて触ったことがなかったな。」
と思った。
いつも、ここをほぐしてもらうと痛くて飛び上がりそうになるし、叫んでしまうのだった。
う一度、呼吸を整えて最初の一歩を踏み出してみる。スワニルダになった気持ちで。
朝のすがすがしい空気の中で伸びをして踊りだすイメージで。
先生は今度は何も言わなかった。左前脚ドゥバンタンドュのプレパレーションから呼吸と共に両手を右側に大きく動かした。すると、いつも通り、先生がそれをきっかけに音を出してくれた。「1,2,3,2,2,3,3,2,3,4 」心の中でメロディと共にカウントを取った。もう一
度大きく鼻から呼吸をして今度は右足ドゥバンのピケから左足後ろのアチチュードに立った。
するとそこで音がまたピシャリと止んだ。
「だ、か、ら、ねー!凜ちゃん!さっきも言ったけど、右足ドゥバンのピケの足はパラレルで出さないで!」今度はさっきよりもさらに大きな声が飛んできて、先生が凜の右足の付け根を掴んで「こうするの!」と言いながらかかとを持ち上げてアンデオールさせた。
なかなかいう事を聞いてくれない凜の右足は先生が扱うと突然良い子になってアンデオールをさせる。凜がいくら言う事を利かせようとしてもちっとも回ってくれないのに魔法のようだと凜は思った。
そして、また骸骨の模型の登場となった。

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