バレエ小説🩰グランジュッテ その9

先生お気に入りの骸骨模型、背骨は動かないけれど、骨盤から下の大腿骨や膝下、足首などは動くようなっていた。それを使いながら、
「ここが腸骨でしょ!そして、その下の大腿骨をこうやってアンデオールさせるの!」
そう言いながら先生は骸骨の大腿骨を少しばかり開いて見せた。
「凜ちゃんは、ここの動きが足りないの!可動域をもっと広くしないと全くもってアンデオールに見えない!凜ちゃんにとってこれが難しいのはよく分かるけれど、凜ちゃん基準で物を言っても通用しないのよ!バレエは日本で作られたものじゃなくて、ヨーロッパグで始まったものなんだから。西洋人と東洋人、特に日本人は文化も骨格も全く違うの。だから、上を目指す気持ちがあるなら、今のバレエの世界基準に自分が合わせるほかないの!分かる?」
先生の熱量は果てしなかった。
先生はよく、西洋人と東洋人の違いとして、骨格が根本的に違い、そこには食べ物の違いがあるという事。そして、日本はつい60年ほど前まで床に直に座る習慣だったのに対して、エジプトや西洋、中国には数百年前から椅子に座る習慣があったという事。着てい
る服も、大きく異なっているという事を話していた。凜は先生のバレエ以外の脱線がとても好きだった。自分でもなるほど、と思う事があるし、新しい発見があるように思えたから。
アフリカで人類が生まれたと言われているのに、それから住む場所、習慣、気候によって肌の色や体格に違いが出てくるのはとても面白いと凜は思った。バレエを通して(正確には先生の脱線だったけれど)、文化の違い、歴史を学ぶことが楽しかった。
凜は先生の言ったことを頭で整理しながら、気を取り直してもう一度歩くところからスタートして板付きした。今度はできるだけかかとを前に押し出してピケで立つ。筋トレの成果もあってか、最近は意識がしっかり入ればアチチュードをする時に、お腹が引き上が
るのを感じられるようになってきていたし、アチチュードもだいぶ上がってバランス取れるようになってきた。だけど、すぐに忘れてしまう。
意識をしっかり集中させて、スワニルダになりきる。大きく呼吸しながら今自分がいるのはポーランド共和国ガリツィア地方(現ウクライナ)の朝。そこにスワニルダが登場したイメージを頭に描いた。
大きく腕を動かすと、再びスワニルダの曲がスタジオ全体に響き渡った。
チャーミングなスワニルダはフランツに恋するちょっと気の強い女の子。朝の空気を吸って伸び伸びと踊っていると見慣れない女の子が隣の家の窓辺で本を読んでいる。手を振っても反応なし、こっちに降りて一緒にお話ししよう!と誘っても反応なし。もういいも
ん!!!プリプリしながらもう一度気を取り直して踊りはじめる。そして最後にもう一度窓辺の女の子に声をかけてみるけど、やっぱり反応なくて最後は諦めて、朝の空気の中で踊る喜びを味わいながらマネージュをして踊り終える。
今度は曲は止まらなかった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?