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ゲーム業界で40年ヒットをつくってきた男がいま、Web3.0に挑む理由

「岡本さん、このゲームを面白くしてほしいんです!」

ぼくにそう訴えかけてくれた、Fracta(フラクタ)の加藤崇さんとの出会い。これは人生の転機になるかもしれない。直感しました。

加藤さんは、Googleにヒト型ロボットを売却した唯一の日本企業として有名なSCHAFT(シャフト)の創業者。現在は、AIや機械学習に基づく水道管等のインフラ劣化予測のソフトウェアを開発する会社を立ち上げ、それを全世界に広げようとしている人物です。

人力で状況を確認するしかなく、費用面でどうしても高くついてしまう水道管の老朽化問題に課題を感じていた加藤さん。それを安価で解決する手段の1つとして思いついたのが、「マンホールの写真をユーザーが撮り、それをアップロードする」というゲーム、『TEKKON』(旧『鉄とコンクリートの守り人』)の開発でした。

『TEKKON』のユーザーが、ゲームの一環でマンホール写真や周辺の写真を送ってくれることが、水道インフラのメンテナンスに貢献するんです。それまで自治体の職員が一つひとつ確認していたマンホールの点検業務が必要なくなり、その分、ほかの必要な業務に時間と公金をかけられるようになるわけですね。これは、自治体にとっては、コスト削減と業務最適化を同時に実現できる、素晴らしいアイデアです。

ユーザーは、ただゲームを楽しむだけで社会課題の解決に役立てます。暗号資産を取り入れていますから、自分のデバイスでマンホール写真をアップロードすることで報酬を得ることもできます。

まさに、社会貢献しながらPlay to earn(ゲームで遊んで稼ぐ)ことができる新しいタイプのゲーム。加藤さんはじめフラクタの考える、「仕組み作りで社会貢献したい!」という想いや志に、とても共感しました。

ただ、正直なところ、『TEKKON』の前身となるアプリゲーム『鉄とコンクリートの守り人』の、特に初期版はどう考えても面白くありませんでした。

この取り組みの根本にある「遊びながら社会貢献できれば、ユーザーもうれしい」とは、運営側の考えです。遊ぶ側の気持ちは、全然違うはず。

社会貢献できるからという理由で、自身の貴重な時間を使ってマンホール写真を撮り続けることができるような人間は、残念ながら多くありません。

しかもマンホールは、車道の真ん中など危険な場所に設置されている場合もあります。遊ぶ人が危険にさらされ楽しむことができないなら、そんなものはゲームとして成立しません。

このあたりの課題は、加藤さんはじめフラクタの人たちも気づいていました。加藤さんの抱く世界を実現するには、社会的意義だけでなく、みんながやりたくなる「真に面白いゲーム」をつくる必要があったのです。

ゲームとしてのエンタメ性に欠けているマンホールゲームを、どう「面白くしていく」か。この課題を解決できると加藤さんが指名してくれたのが、ぼくでした。

好奇心が揺さぶられ、ワクワクしました。

ゲームも、ゲームをする人たちも大好きなぼくには、大きな夢があります。

それは、ゲームで遊びながら社会にもコミットして、自分の人生そのものをも充実させていく世界を実現させること。つまり、ゲームで遊ぶことで、みんながハッピーに生きられる世界をつくること。

その未来を叶えるチャンスがきた! と心が跳ねました。

岡本吉起、Web3.0に挑戦します! 

そんなわけでぼくは、Web3.0の世界で面白いゲームをつくります!

ごあいさつが遅れました、ゲームクリエイターの岡本吉起といいます。アーケードからスマホアプリまで、さまざまなゲームの企画や開発にかかわってきました。代表作は『ストリートファイターⅡ』や、初期開発に携わった『モンスターストライク』です。ゲームタイトルぐらいは知ってくれている方も、いらっしゃるでしょうか。

コナミに入社(1981年)して以来、ゲーム業界一筋で40年超。今年61歳になりました。

40年お世話になったゲーム業界に恩返ししたいから

「すでに成功して実績があるのに、なぜ新しいチャレンジをするんですか」

こう聞かれることがあります。

いまのところ、投機目的の人が多く集っているWeb3.0(以下、Web3)の世界で、面白いゲームなんて生み出せるのか? そもそもなぜ、コンシュマーゲームやオンラインゲームの最先端ではなく、未知数だらけのWeb3に挑むのか?

大きく3つの理由があります。

1つめは、新しいことに挑戦できるチャンスだから。還暦を超えて新しいことにチャレンジできる機会は、そうありません。実績のある分野でしか、声はかからないんです。だから、自分に声がかかったこと自体、とても光栄でした。

2つめは、得られる経験値です。暗号資産やNFTを使ったWeb3上でのゲームの時代は、間違いなく到来すると考えていました。だから、かかわれるチャンスを逃したくありませんでした。ぼく以上に、これからのゲーム業界を担う部下たちが経験できることは、大きな財産になります。

還暦を過ぎてからは特に、「後進の育成」が大きなテーマになってもいます。2020年から始めたYouTubeチャンネル『岡本吉起 ゲームch』も、40年お世話になったゲーム業界に恩返しをしたい、自分の経験を後輩の子たちに役立てたいと始めたことでした。ぼくの目から見た「ゲーム業界の歴史書」をつくっておこう。そんな気持ちで、YouTubeでの発信をしています。形として残しておかないと、歴史というものはなかったことになってしまいますから。

やれるのは自分しかいないと思った

3つめは、「黎明期のいま、やらなければ」。そんな使命感です。このタイミングこそ重要でした。

アーケードからコンシューマー、コンシューマーからスマホアプリとゲーム開発の場を移してきましたが、いずれも「新大陸」に移るタイミングが遅れたという反省があるんです。

ぼくがアーケードゲームの大陸に乗り込んだときは、すでに「10年遅いね」と言われるタイミングでした。そこでがんばって結果を出していたら、今度はコンシューマーに行くのも遅れてしまいました。ぼくがコンシューマーに移ったのは、ファミコンでもスーパーファミコンでもなくPlayStationでしたから、大陸がかなり開拓されてからの上陸だったんです。

携帯アプリには、ちょうどスマホに移行したタイミングでの上陸でした。『モンスト』の初期開発に携われたことが、個人的に成功した理由であると思いますが、もっと早い時期にアプリゲームに入れていたらと、後悔があります。業界全体を、もっといい方向に進められたはずだ。そう思うからです。

なぜなら、携帯アプリに先に参入して成功した人たちが、ルールをつくってしまったんです。

「ゲーム性はいらない」「これ(携帯アプリ)はゲームではなく集金マシーンだ」「何も考えずに自分たちのやり方を真似したらいい」

自分たちが成功したからと、それがさも正解かのように言って回り、間違った認識を植えつけてしまいました。

ゲームとは面白いものであり、ユーザーが楽しいもの

その考えを何よりも大切にしてきたぼくは、彼らのルールは賛同できないどころか、ゲームへの冒涜だと感じました。いまだに憤りを覚えます。

日本のゲーム業界は、それらのルールで“足止め”させられたせいで、成長が3年は遅れたと思っています。特にゲーム業界はほかの業界と比べ、ドッグイヤー(変化のスピードが速い)業界だといわれています。つまり、一般基準でいえば、ゲームは20年ぐらい成長が遅れた計算になるわけです。致命的ですよね。

市場を握っていたのは先発組で、後発組となった僕たちは、彼らのルールで開発を強いられました。どの業界もそうですが、その大陸を最初に開拓した人や企業が「基準」になります。あとから来た者がそこに異を唱えても、まったく相手にされません。

ある程度成功したから、ゲーム業界のこれからを照らしたい

携帯アプリでの悔しい経験から、次にゲーム業界に新大陸が出現したときは、できるだけ早く「客観的に正しいことを言える人」が入ることこそが、業界全体を正しい方向に導くことにつながると考えていました。

だから、Web3の新大陸こそ、自分がその候補のひとりにならねばと至ったんです。実際いまのWeb3はまだ、「お金になりそう」という投機目的で騒いでいる人が少なくないように見えます。携帯アプリの草創期のように、ゲームではなく、集金マシーンになりかねない危険があるのです。

ゲーム業界はもちろん、多くのユーザーにとって新大陸であるWeb3が、ただのお金儲けの道具にされてしまうことを阻止したい。ぼくならもっと面白いもの、もっとユーザーが楽しめるもの、もっとゲームクリエイターが力を発揮できるものをつくれる。それをやれるのは、新大陸が発見されて間もないいましかない。そう突き動かされました。

ぼくは、ゲームの世界である程度成功しました。死ぬまで生活できるお金も、十分持っています。

だからこそ、ゲームクリエイター人生の最後になるかもしれない大きな挑戦をしたい。後輩を後押ししたいし、ゲーム業界の未来をつなぎたい

こんな気持ちで、新しい挑戦に取り組んでいます。

水道インフラのメンテナンスに寄与する壮大なゲーム「TEKKON」の詳細、Web3を通して叶えたいぼくの未来図は、次回以降、もう少し詳しくお話しますね。

インフラ管理を民主化する「TEKKON」


編集協力/コルクラボギルド(文・ぐみ、編集・平山ゆりの)


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