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「ゆとり教育」は大成功であった件


 2022年現在ともなると、かつて一世を風靡してセピアした「ゆとり」という言葉もあまり聞かなくなってきた。

 この言葉、ご存知のとおり「ゆとり教育」という単語で用いられることが多く、「学校教育にゆとりを設けようじゃないか」という発想でスタートしたものである。

 なぜ、学校教育に「ゆとり」が必要だったかと言うと、それまでの教育は「お受験へ向けて詰め込み教育がなされている」との批判があったからである。学習内容はどんどん高度化し、容量も増えたので、「ちょっとくらい削ればいいんじゃない?」という文部科学省の指針もあって、極論を言えば、

 ”円周率がおよそ3”

になるまで、たっぷりのゆとりが生じてしまったわけだ。


 ところが、そこから時代は進み「学力低下」という言葉が、今度は巷を席巻するようになっていった。教育に「ゆとり」をもたせた結果、児童・生徒がアホになってしまい、日本全体の学力の沈下が明らかになってきたので、文部科学省は慌てて軌道修正をして、「ゆとりは廃止」の方向に舵を切ったのであった。


 さて、この「ゆとり」なる言葉。本来は「学習内容の調整」という意味が表向きの内容だったのだが、その実態は「登校日数と(教師の)出勤日数の減少」という裏メニューが本質だったので、結果として一時的にではあるが

「勉強や仕事をしない方向」

が是とされたわけだ。簡単に言えば、土曜日が休みになったのである。

 この辺の話はいろいろとおもしろいので、別の記事をご参照願いたい。


 さてここで、「ゆとり」には2つの意味が生まれた。

 ひとつは表向きバージョンの「アホ」という意味で、もうひとつは裏向きバージョンの「仕事をしたくない」という意味である。


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 2016年に「ゆとりですがなにか?」というドラマが放送されたことからもわかるように、ちょうどこのくらいになると「ゆとり教育」を受けた「ゆとり世代」「ゆとり人間」やら「ゆとり社員」やらが

”問題視”

されるようになった。問題視というネガティブな言葉を使ったのは、まだまだ世間には「昭和的24時間働けますか概念」が蔓延っており、それから見れば、ゆとり世代は生ぬるいように感じられたからである。

 ところが、2020年くらいになると「ゆとり批判」は少しずつ方向性を変えてゆく。これまでは「がむしゃらに働く昭和おじさん」と比較しての「ゆとり世代」という視点だったのだが、むしろ「ワークライフバランス」という新たな単語によってポジティブな概念へと変化していったのだ。

 本質的には「ゆとり」と「ワークライフバランス」は似たようなことを示しているのだが、そのイメージや思い描く生活像は、後者のほうがはるかに「イケてる」感じがすることはいなめない。そうなのだ。「ゆとり2.0」は「ワークライフバランス」へと進化したのである!


 このように、元々は「学校現場」からスタートしたゆとり界隈だが、奇しくも2021年になると #教師のバトン  というちょっとしたきっかけによって、大ブレイクすることになる。

#教師のバトン  というハッシュタグは、当初の意図では文部科学省が「教師はこんなに素晴らしい仕事だよ」と広めてもらう目的で作られた言葉だったが、いざそれがネットに広がると「教師はこんなにブラック労働だぜ!」という実態を表出するものになった。

 この「教師の労働環境の厳しさ」はあっという間に世間に知られることになり、教員への応募人数も減少し、全国各地で新年度になっても教員が不足するような実態も明らかになってきた。
 そこには「長時間労働」「感情労働」「非正規雇用」「残業代の無払い」「部活動などのほぼ無償労働」など、就業環境の酷さ、ヤバさが渦巻いていることもバレてしまったのである。

 これは明らかに「ワークライフバランス」と反する状態であり、学校現場は、時代にアップデートできていない職場だというわけだ。


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 さて、ここでタイトルに戻ろう。なぜ「ゆとり教育は大成功だった」と言えるのか?それは、現在の「学校現場」の実態と実は直結している。

 「ゆとり教育」は学校現場で始まったが、そのバージョンアップ版である「ワークライフバランス」が、今まさに学校現場に戻ってこようとしているのだ。

 良く言えば「伏線回収」であり、悪く言えば「カウンターパンチを喰らった」ことになる学校現場。

 なぜ2021年、2022年の今になってこの機運が盛り上がっているのかと言えば、答えはシンプルで明確である!

 それは

「学校の教員そのものが、ほとんどゆとり世代になってしまったから」

である!

 それを証明する論考を、不肖ヨシイエ、なんと実は2016年に既に書いている。

 円周率が3になってゆとり教育を受けた世代が、2022年現在、何歳になっているかというと、ズバリ「36歳〜44歳の現場の中心となる教師たち」である。

 子育てまっさかり、家庭を持ちまさに「ライフ」と「ワーク」の両立にいちばんしんどいお年頃の教師たちが、実は「ゆとり世代」だったのだ!

 そりゃあ、今自分が置かれている学校環境や労働環境に反旗を翻しても、まったく不思議ではない。

 なぜなら、彼らこそが、かの有名な「ゆとり世代」だからである!ドッカーン!

 ゆとりまっさかりの彼らが、「激務まっさかりの学校現場」に放り込まれているのだから

「どないなっとんじゃワレ!お前らウソ教えとったんかおどりゃー!」

と暴動を起こすのは、当然であろう。

 だから伏線回収でカウンターパンチなのである。



 というわけで、学校ではじまった「ゆとり」教育が、今まさに学校現場に帰ってきたウルトラマンなわけで、なおかつ旧来の労働環境に大きな声を上げ、改革の狼煙が上がったのだとすれば、「ゆとり教育は大成功!」と言って間違いないだろう。

 頑張れ「ゆとり世代」!

 まけるな「ゆとり人間」!

 今こそ、まったりを取り戻せ!

 未来を変えるんだ!


(おしまい)


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