見出し画像

ジョナサンとゴディバは「神の贈り物」という名前

 よく知られた欧米の人名の中に、その語源の意味が「神の贈り物」であるものがいくつかあります。どんな名前があるか、見ていきましょう。

ジョナサンとネイサン、ジェシー

 まず、「ジョナサンJonathan」についてです。ジョナサンと言えば、「ジョジョの奇妙な冒険」の第一部主人公ジョナサン・ジョースターが思い起こされます。人によってはファミリーレストランチェーンのジョナサンかもしれません。あるいは「かもめのジョナサン」を思い出すでしょうか。
 ジョナサンはヘブライ語の「ヨーナーターンYōnāthān」に由来します。Yo「ヤハウェ」+nāthan「与える」で構成され、「神は与える」を意味します。神が与えるものはすなわち「神の贈り物」です。ドイツ語ではJonathanのつづりでそのまま「ヨナタン」と読みます。
 「ネイサンNathan」という名前は、冬季北京オリンピックのフィギュアスケート金メダリスト、ネイサン・チェンで知られています。ヨナタンからYoを除いた後半部分「ナータン」に由来していますが、ネイサンはジョナサンの短縮形なので、意味は同じく「神(彼)は与える」です。また、ネイサンに神のエルを付加した「ナサニエルNathaniel」という名前も同じく「神は与える」という意味になります。
 エルの意味については、以下を参照してください。

 「ジェシーJesse」はヘブライ語の「エッサイYišay」に由来します。女性形の「ジェシカJessica」の方がむしろ聞き馴染みがあるでしょうか。エッサイはイスラエルのダビデ王の父として知られており、その意味は「神の贈り物」または「王」です。

テディベアはセオドアだった

 「セオドアTheodore」という名前は、第26代アメリカ大統領セオドア・ルーズヴェルトで知られています。セオドアの愛称は「テディTeddy」で、ぬいぐるみのテディベアはセオドア・ルーズヴェルトの熊狩りの逸話から着想された商品です。セオドアには「テッドTed」という愛称もあり、コメディ映画の「テッド」は、命を吹き込まれたテディベアにつけられた名前として使われています。
 セオドアはギリシャ語の人名の「テオドーロスTheódōros」に由来しており、Theos「神」+doron「贈り物」を意味します。セオドアは多くの国で「テオドール」に近い発音ですが、ロシア語では「フョードル」になります。昔の総合格闘家でフョードルという選手がいたのを覚えている方もいらっしゃると思います。ロシアの歴代皇帝にもフョードルがいました。もちろん、WHOの事務局長のテドロスもこの系譜の名前です。意外なところでは、英国の「テューダー朝Tudor」のテューダーもセオドアのウェールズ語的変化形です。スイスの時計ブランド「チュードル」は、当初ロレックスの普及版として開発され、英国市場での販売拡大のためテューダー朝にちなんで名付けられました。
 ちなみに、セオドアの前後をひっくり返した名前が「ドロシーDorothy」です。オズの魔法使いで知られるドロシーは神の贈り物だったのですね。ドロシーの愛称には、「ドッティDotty」「ドールDoll」「ドリーDolly」などがあり、人形を意味する「ドールdoll」はドロシーの愛称Dollから普通名詞化されたものです。

ゴディバ夫人

 「ゴダイヴァGodiva」といえば、ゴディバ・ショコラティエが有名で、そのトレードマークは裸の女性が馬に乗っているものです。これは市民に重税を課す夫を諫めるため、ゴディバ夫人が自ら全裸で馬に乗って街を練り歩いたという伝説にちなんだものです。Godivaは、古英語でGodgifuまたはGodgyfuであり、つまりGod+giftで「神の贈り物」という意味になります。なお、ゴディバ夫人のこの伝説は、現在では史実ではないとされています。

マシュー

 「マシューMatthew」は「マッティヤーMattithyāh」、つまり「マタイによる福音書」の著者とされる使徒マタイのことです。この名前もヘブライ語のMattáth+yāhで「ヤハウェの贈り物」という意味になります。マシューという名前は、「赤毛のアン」に出てくる、アンを引き取ったマシュー・カスバートの名前で知っているかもしれません。マシューの愛称である「マットMatt」は、映画俳優のマット・デイモンが知られています。
 マシューも各言語で名前の響きが少しずつ異なり、ドイツ語では「マティアスMatthias」「マテウスMatheus」、フランス語では「マチューMatthieu」「マティアスMatthias」、イタリア語では「マッテオMatteo」、スペイン語では「マテオMateo」、オランダ語ではマテウス、マティスです。
 ドイツ語のマティアス、マテウスは、元ドイツ代表のサッカー選手だったマティアス・ザマーやローター・マテウスなどで聞いたことがあるでしょうか。またマシューの他の愛称形であるマッツは、元ドイツ代表サッカー選手のマッツ・フンメルスで知っているかもしれません。なお、フンメルスのマッツは愛称ではなく本名です。
 マシューは姓にも転化しており、「マシューズMatthews」「マットソンMatson」「マッテスMattez」「マディソンMadison」などがあります。

ヒバトゥッラー

 アラビア語の女性名で同じく神の贈り物を意味する名前「ヒバトゥッラーhibatullāh」も紹介しておきましょう。
 原義は「アッラーの贈り物」であり、「ヒバHibat」+「アッラーAllah」で構成されています。アラビア語の女性名はニュースでも流れることがないので、聞き馴染みのない名前ですね。

 以上で紹介した「神の贈り物」を意味する名前はだいたい聞いたことのあると思いますが、意味を知らないとまるで共通点が見えません。様々な言語で同じような意味の名前をつけるのは、興味深い現象です。

この記事が参加している募集

#名前の由来

7,884件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?