いま、住宅に求められているものは?

テレワーク需要の増加で住宅のあり方が変わった

コロナ渦と言われて久しい昨今、テレワーク需要の増加によって住宅に求められるものが変わってきている。
身の回りで話を聞くだけでも、テレワーク中の家族の声が気になる、くつろげるはずの家で仕事の声が聞こえてしまう、仕事と家庭のオンオフの切り替えが難しい、夫婦ともにワークスペースを確保することが困難である、そこにさらにこどものオンライン授業が重なると余計にスペースが足らない、といったことを耳にする。
また、特に都心の集合住宅ではその傾向が顕著で、隣の家の声が気になることや、こどもを遊ばせておく空間がないという声もきこえ、毎日の通勤の必要がないのであればと郊外の戸建住宅が再注目されているということも耳にする。
いずれにしても、これまでの、住宅は核家族(あるいは単身家族)に向けて、さらに「住む」という生活の中の1機能にある意味特化して作る、というあり方が再考されるのではないだろうか。
早速、ハウスメーカーやマンションデベロッパーではこの流れが続くと考えているようで、ワークスペースを取り入れている物件も作られだしているようだ。

住まいのスペックを変えればよいのか

では、在宅勤務を前提として「住宅」のあり方を変えればよいのであろうか。
かつては公務員住宅や公庫標準設計の住宅にも書斎や客間が設けられていた時代もあったが、近年はそのような想定の住宅は少なくなっている。床面積が直接的に購入価格/家賃に反映されてしまうため、そのような余剰空間は排除されてきた結果である。
それも近年は、バブル崩壊後の地価の下落で、職住近接を志向して家賃が高くても近い住まいが求められ都心回帰が起こっており、そのよう状況で各住宅で部屋を余分につくるというのは非常に難しい。
ありえるとして、巣立った子どもの部屋を活用するということであろうが、子育て中の現役世代にとってはそれも不可能である。
前述のワークスペースも、廊下を拡幅したものや、通常の部屋としては狭くて使えないくらいの小スペースを作る。というものが主であるようだ。
もちろん、そのようなニーズが増え、新築住宅にワークスペースが備えられるということは、世の中の流れとして当然ありえることである。
では、既存の住宅にもワークスペースが導入されていくか(スペックが変わっていくか)というと、当初から想定して住まい選びをしていない限り余剰空間がないので不可能と言わざるを得ない。
では、どうしたらそういった住まいに作り変わっていくのかというと、よほどの社会的な需要が無いとできないのではないか。現状では、そこまでの需要ではなく、既存住宅を活用するという視点からすると、ほぼ不可能あろう。
ただでさえ空き家が増えて問題になっている状況で、既存の住宅のあり方を変えて作り変えるということは非常に困難である。

リモートワークにも対応できる住宅とは

もともと家で仕事をすることを念頭に作られたSOHOなどを除けば、住宅は仕事をするための空間として設えられていない。
ここで、ひとつの特殊例を紹介するが、「プロムナード多摩中央(坂倉建築研究所+住宅・都市整備公団)」等がリモートワークに適した住宅のひとつと言えるのではないか。「プロムナード多摩中央」は多摩ニュータウンの多摩センター駅から住宅エリアへの入り口にのプロムナード沿いあり、アトリエや教室などを想定した「フリールーム」と呼ばれる部屋を街路に面して設けた「プラス1住宅」と呼ばれている(写真)。

もともとこの「フリールーム」は、半屋外として街路の雰囲気を感じられることや、住宅内部の様子を見せることを意図して設計された。
つまりセミプライベートであり、セミパブリックな空間として設計されている。これは、閉じればプライベートな空間/開けばパブリックな空間、という中間領域を意図している。
しかし、その意図に反し、開かれている住宅は少なく、写真のように締め切った部屋として使われている事例が多い。

これが、リモートワークの増加で、住まいとつながっていながら「家族から隔離された個室」として注目されている。
つまり、先に述べたリモートワーク時のデメリットである、リモートワークの妨げとなる家族の生活音や、逆に家庭生活に対する会議の声等が響くこと、オンとオフの切替えがしきくい、といったことを解決する形となっている。
このように、生活空間から飛び出している部屋というものが意外な形で役に立っている事がわかる。
しかし、これも前述したとおり特殊例であり、多くの住宅でこのような空間が実現できる訳ではない。

同潤会アパートでの住まい方から学ぶこと

下記の例は、同潤会アパートでの事例なので、今の時代の生活とは多少違うかもしれないが、家族の成長・拡大に合わせて住戸を増やしている事例である。

家族の拡大に合わせて、こどものための勉強部屋を同じ建物の同じフロアに増やしている。もとの住戸には風呂がなかったので、風呂は増やした「お兄ちゃんの部屋」に設置されているものを使っている。

大月敏雄/旭化成ホームズ主催「くらしイノベーションフォーラム」資料より

この同潤会の事例から学べることは何があるか、それは玄関を出た先に専用空間を用意することが可能なのではないかということである。
今までは自宅や職場以外の仕事場といえば、その役割はシェアオフィスやレンタルオフィス、カフェ等が担ってきたが、それらは通常のオフィス以上に様々な人が出入りする空間であり、感染症対策としては利用が難しい状態と言えるだろう。
そこで出てくる案は、例えば現在空き家が増えているワンルーム住戸をうまく活用する。という事も考えられる。ワンルームでなくても、1家族で1住戸を利用するのではなく、複数住戸を利用するということができれば、テレワークにおける様々な問題は解決できるのではないか。
ただ1住戸増やすとなると単純に出費が増えるので、不都合かもしれない。それであれば、通常の生活を行うには少し物足りない0.7くらいのスペックの住宅を2つ、理想的には隣り合わせで使えたらどうだろうか。現代の住宅は基本的には水まわりは揃っていることが多いので、その分は重複してしまうが、柔軟に対応することができると考えられる。
実際、テレワークとは関係ないが、単身で住むには広く世帯に住むには狭い50㎡前後の階段室型の公団・公営住宅では2戸1改修を行って世帯向けのちょうどよい住戸にするといったことがなされている。
極論を言えば、家賃の安い風呂なしアパートにWi-Fiさえ用意できれば(場合によっては携帯回線だけでも大丈夫かもしれない)、日中の仕事部屋として十分機能するのではないか。
もちろんこれらの案はコストは掛かってしまうが、それは工夫次第でなんとかなるだろう。例えば、企業がオフィスを縮小してその分の手当てを出すといったことも考えられる。

まとめ

テレワークが可能な住宅の需要は高まっているが、住戸内にワークスペースを設えることや、「プラス1住宅」を新たに作るといったことは、住宅ストックを増やすことになるので、あまり進める事はできないであろう。
しかし、ストックが余っている状態であるので、工夫次第では新しい住まい方として職住近接が実現できるのではないか。

余談になるが、筆者はこの春引っ越しをした。職業柄自宅で仕事をすることも多いので、年末に物件探しをしている段階から、ワークスペースを確保できることを前提として物件を決めた。
蓋を開けてみると、一日中そこに居座ることになり、生活空間を別に設けることができることのありがたさを実感している。
選択を間違えていたら今頃どうなっていたかと考えるとゾッとする。

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