Web3とはなにか - インターネットの変化、実世界の変化から考える(2):Web3を読み解く10のポジションとその言及
Web3を読み解く10のポジションとその言及
前回はインターネットの変化からWeb3を考えてみました。このように、2022年4月現在、Web3全体像を捉えることはなかなかに困難です。
ある人はリブランディングといい、ある人は次世代インターネットといい、ある人は思想であるといいます。
これは、まだWeb3らしいという実装されたサービスが後述する金融、ゲームの一部と少ないことにも起因しています。そして、サービスが増えていくまでにはもう少し時間がかかりそうです。
今回はWeb3の全体像を捉えていこうとする中で、どういったポジション、視点のパターンがあり、その言及の特徴とはどういったものなのかを考えてみるというアプローチの試みです。あまり細かくするとキリがないので10のポジション、視点で考えてみました。
1:Decentralizedの夢をもう一度やWeb3がもたらしそうな世界が好きな人たち
2:Web2.0の覇者であるプラットフォーマーに怒りを表明する人たち
3:Web3を支える新しい技術が好きな人たち
4:ビジネスビッグワードとして捉える人たち
5:ビットコイン、暗号通貨、金融の流れから捉える人たち
6:ゲーム、メタバースの流れから捉える人たち
7:NFTから捉える人たち
8:VC(ベンチャーキャピタル)、投資家、Web3サービス事業者の人たち
9:DAOから新しい組織に興味がある人たち
10:とりあえずわからないから体験しようと思う人たち
完全に私見なのでMECEじゃないじゃないか、ヌケモレ指摘などはご容赦ください。(こういったものもあるよね、ということでぜひ教えてください)
また、私もそうなのですがそれぞれのポジション、視点は交差、混じり合うものとして捉えていただければと思います。
1:Decentralizedの夢をもう一度やWeb3がもたらしそうな世界が好きな人たち
Web3の思想がインターネット初期思想と近しいこと、現在の複雑な状況もあいまって、インターネット黎明期から関わる有識者の方々の言及も多いように思います。
インターネット初期思想は、前回 The Web is deadで触れたように、オープンインターネット、民主化された世界、Decentralized(非中央集権)の実現といったようなものでしょうか。ここがWeb3でもう一度というような感触があります。
一方で、現在Web3文脈で見ることができるプレイヤーは、実はDecetralizedされていないことも多いこともあり、Web3の思想に対して希望はありつつ悲観的なコメントも見られます。Web3のプレイヤーはただの新しいプラットフォーマーを目指しているのではないのかと。
2021年末にはElon Muskの「誰かWeb3って見たことある?私は見つけられない」といったようなコメントも出て賛否両論ともに議論が激しくなっています。
実際、ブロックチェーンのバリエーションが増えていくに連れ、従来企業のように特定組織によって中央集権的に管理がなされるもの、名前にはDAO(Decentralized Autonomous Organization)とついてはいるが、Decentralize(非中央集権、分散)でもAutonomous(自律)でないものもかなり増えています。Web3を考えていく中で、ビットコインの成り立ち原理的でレアケースといわれる所以の1つでもあるのだと思います。
思想の言及であること、まだ実装されていないWeb3がもたらす世界の言及であることからどうしても抽象度が高くなります。実装されている事例が金融やゲームといったケースが多いこと、事件、詐欺なども相まって理想と現実のギャップが大きいところでもあります。
ただ、通貨、国民、資本主義と民主主義について再考したくなる思想とテクノロジーがWeb3にはあります。多様な対話と実装を進めていきたいところです。
2:Web2.0の覇者であるプラットフォーマーに怒りを表明する人たち
1の派生ともいえますが、あえて分けてみました。その理由は、1は思想で2は態度だからです。Web2.0覇者に対するわかりやすい否定であるがゆえに、ビジネスポジションとして言及されるケースが多くあります。
強者の否定はとてもわかりやすく、前回記事を含め、メディアやWeb3概説の背景として比較的目にする意見です。
この言及で気になるのは、GAFAMが強者すぎるということはわかるが、怒っているのは誰なのか?という主体が少しふわっとしている気がします。GenZの価値観、GDPRなどを例としたヨーロッパの価値観ともフィットしないということはわかるのですが書き手にその怒りはどうも感じないものが多いようには。
否定でなくとも、GAFAMという少なすぎるプレイヤーからマーケットが健全であるためには、もう少しプレイヤーの数が増えたほうが良いというような独禁法的バランスを取るべきという言及は妥当な気はいます。
3:Web3を支える新しい技術が好きな人たち
主にエンジニアの方々が技術観点で言及するものも多く見られます。新しいと書きましたが、先進的なエンジニアにとっては技術的には以前からあったものなので本当にブームだなぁと思ってらっしゃる方が多いようです。サトシナカモトの論文は2008年ですし、NFTも「CryptoKitties」がブームになったは2017年です。
ブロックチェーンエンジニアは引っ張りだこで、インターネット初期でWebサイトを作れる人が少なかった状況の再来のような状況でもあります。Solidityなど学びやすそうなところは人気になっていることから、学び系の記事も目にすることが増えました。
技術的な言及なのもあり、思想、政治的なDecentralizedというより、アーキテクチャ、技術的なDecentrlizedが重要という側面があるようにも思います。実際、サトシナカモトは直接的にDecentralizedについて言及していないといわれています。(※)
4:ビジネスビッグワードとして捉える人たち
一般ニュースで初めて見聞きしてこれは!と思ったビジネスパーソンから専門系ではないメディアなど、最も2022年4月現在で急激に増加している言及です。
乗り遅れるなー!というテンション、NFTが○億円になった、暗号通貨がいくらになった、○○ to Earn、2の現状否定など、強めのメッセージと儲かるのが特徴でしょう(笑)。
たぶん、もうすぐどこかが「今からでも遅くない儲かるWeb3」と言い出す日も近いのではないでしょうか。
5:ビットコイン、暗号通貨、金融の流れから捉える人たち
Web3の先行事例、実際に実装されているサービスでは金融が最も先行していおり、思想、技術、ビジネスと多くが金融の流れで説明ができそうです。
Decentralizedを原理的に捉えても、管理者を伴わないDEX(分散型取引所、例としてはUniswap、Sushiswapなど)は思想、技術、ビジネス観点どれもとてもユニークなものになっているように思います。
実装されているベースで語れるので一番説得力があるものの、対象が金融であること、2014年のマウントゴックス事件、2018年のコインチェック事件、ICO詐欺なども含めて、胡散臭さととっつきにくさにつながっています。
ここまで見てきた思想から技術、ビジネスワードはすべて含み、先のキーワードになってしまいますが、投資する人たち、DAO、とりあえず具体的にWeb3を体験してみるといった意味でも暗号通貨からWeb3に触れるというのは、暗号通貨=Web3のような誤解が生まれることは多分にありつつ現実的なアクションがでやすいものでもあります。
6:ゲーム、メタバースの流れから捉える人たち
ブロックチェーンゲーム、メタバースはここまで触れてきたWeb3の流れからは直接的には紐づきません。しかし、Web3文脈のなかでもよく目にします。
その理由は、ゲームにおいては、GameFi(Game+Finance)、Play to Earnといったように暗号通貨を稼ぐことが出来、それが新しい経済圏、Decentlizedの思想と紐づいたり、NFTで暗号通貨やビジネスと紐づくことにより、Web3文脈でも語られるようになったのではないでしょうか。
メタバースもゲーム同様にWeb3文脈とは直接紐づきませんが、非中央集権、DAO、Web3を支える技術群を利用し、Web3の思想をリアルよりも早く実現できる世界が実現できるのでは?ということ、VRハードウェアの進化(手前の背景があるから投資が進んだともいえる)から、Web3文脈で注目される理由だと思っています。
先の通り、通貨、国民、資本主義と民主主義について再考したくなる思想とテクノロジーがWeb3にはあります。それを実装するにはリアルな国民国家では制約がありすぎ、時間がかかりすぎるが、メタバースだったら可能性があるのではないか。そんなことなのではないでしょうか。
一方、ゲームやメタバースにはシンプルにコミュケーションや世界を楽しんでるというユーザーが多いようには思います。そういった方々はなんでWeb3?首を傾げる方も。プレイヤー、クリエーターでNFT、Play to Earnといった観点でのユーザーと上記のような新しい経済圏という視点が入りWeb3と関係が濃くなってきたところでしょうか。
7:NFTから捉える人たち
NFT(Non-Fungible Token)は2001年からぐっと盛り上がりました。前回、ブームは「価値観変化」「テクノロジー」「アート」の変化タイミングがあったときに起きると書きましたが、NFTはアート文脈で火が付きました。
Beeple「Everydays—The First 5000 Days」に79億円の値がついたなど、アートそのものよりも、投機的文脈での言及も強いように思います。
NFTはクリエーターエコノミー、ID的側面など、Web3のエコシステムのなかでは重要な技術で、現時点では暗号通貨に並びエンドユーザーにわかりやすく届いたキーワードです。
多様なユースケースがあるがゆえに、暗号通貨なの?IDなの?アートなの?キャラクターなの?のように検索していくとなにを調べていたんだっけとなりがちな言及も多いです。
8:VC(ベンチャーキャピタル)投資家、Web3サービス事業者の人たち
Web3が注目を浴びる状況になるにつれて、それを解説できる人が必要になります。ここまで見てきたように複雑な状況で俯瞰的かつ求められるであろう、ビジネス的な視点で書ける人は多くありません。
もちろんVCや投資家の方々は物書きではないのですが、俯瞰的かつビジネス視点で語れるという意味合いで専門メディア、経済メディアが依頼するのもそういった方々が多い状況なのではないでしょうか。もちろんポジショントークはあれど、俯瞰度合いは高く全体像をつかむ上では有益だと思っています。
VCや投資家という視点では、Web3で民主化された世界は、DAOによるトークン発行のなかでやるのがベストなのではいうことや、トークンを法定通貨化する上でつきまとう税金問題があり、クリプトエコノミーが活性化したような背景もあるので、法定通貨を持ち込むVC不要論もあります。また、VCがはいることでDecentralizedの世界にならないのではという意見もでるところです。
一方で、現時点でリアルな世界、法定通貨と繋いでいくハブなければクリプトエコノミーだけではまだ人が動く原資としては苦しく、ブームを作ってる仕掛け人でありつつブームで終わらせないためのお金を投じてる人たちといえます。OSSと資本主義のように考えたくなるポイントです。
言及としては、先端で進んでる方々であるがゆえに初見となるような英単語も多数並びとっつきにくいところものも多いですが読み応えがあるものも多いと思います。
9:DAO(Decentralized Autonomous Organization)から新しい組織に興味がある人たち
Decentralized Autonomous Organization、日本語だと分散型自律組織、自律分散型組織と翻訳されます。単語順に読み解くと「様々な分散的な主体者」が「自律的」に活動する「組織」ということでしょう。
Web3を実現していく組織のあり方としてDAOが重要なのであるということが基本の言及です。
Web3エコシステムの中で関わる「人」がどのような動き方、インセンティブ設計、判断がなされるかを魅力的かつ夢があるものとして語られる言及をよく目にします。
組織である点に着目して、少し引いた視点でみてみると、Web3を実現する手段としての組織というだけではなく、これからの幸せな組織やコミュニティのあり方は、20世紀に機能したヒエラルキー側組織では限界があるのではないか、というもう少し根っこからの話にも繋がります。
単語だけ並べると、「ホラクラシー組織」「ティール組織」といったキーワードが着目されてきました。上場後は調べていないのでわかりませんが、以前はほぼ日のクルー的な組織などもおもしろかったところです。
DAOについてはもう少し深ぼってみたいので、ここでは個人的にDAOに注目したいポイントをいくつかあげて詳細は別な機会に譲りたいと思います。
1:DAOが適切に駆動するインセンティブ設計とは、なにが従来と違うのか
2:OSS(オープンソースソフトウェア)とDAOの関係と今後
3:Autonomous、スマートコントラクト部分はどのような分野、活動まで適用できるのか
現在いろいろな記事をみていて思うことは、具体性が伴わない言及かつ非中央集権、TOPがいない組織などといった刺激が強いキーワードが先行し、かなり本来的な思想と現実の乖離がありそうです。
ブロックチェーンの亜種同様、DAOであるためにはどこまでなにをすればDAOなのかということがかなり名前先行になっているケースも散見されます。
日本語で読める記事としてはこの記事などはとても実践的に思えます。
個人的にはWeb3文脈そのものよりも、組織視点からのアプローチでそれを実現するテクノロジーという順番で一度考えてみたいと思っています。
10:とりあえずわからないから体験しようと思う人たち
若干斜に構えていた人たちが2022年初頭から動き出してるように思います(笑)。ここまでブームになってくるとあれこれ試しては置くか、と思う人たちがWeb3という単語になってからだいぶ増えました。まさにリブランディングです。
その結果、Web3関連のポストを目にする機会が増えたものの、ここまで追ってきたように様々なポジション、視点があるので特にSNSなどのタイムラインで特定の体験やフローでWeb3を追いかけるのはとても難しい状況だと思います。
3つくらいでやめておけばよかったなという思う量になってしまいました。次はWeb3とはなにか - インターネットの変化、実世界の変化から考えるというタイトルの通り、実世界側の変化から考えてみたいと思います。
※:ヴィタリク・ブテリン (Vitalik Buterin)によると政治的な軸における自立分散は以下のような定義
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